ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問5 面の表裏を同時に照らせ

答5-2

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「断っちゃったんですね」
「まぁね」

 少し残念そうに眉尻を下げたミューミューに、みずちが肩から寄りかかる。

「勿体無いよね―、ミューちゃん。りょーちんが活躍してくれれば、ペアだって堂々と組めるのにねー」
「え? 今でも堂々と組んでますけど、何か問題があったんですか?」

 ミューミューは分かっていないらしい。俺と彼女の釣り合いが取れず、世間では俺への風当たりはやや強めだという事に。

「おいみずっち余計な事言うな。俺は別にいいんだよ。実力で何とかするから」
「へぇー。カッコいいこというじゃん、りょーちんのくせに」
「これくらいいつも言ってるだろ?」
「いつものは、カッコつけてるだけの台詞。今のは、カッコいい台詞」

 みずちが、すぅ、と目を細めてふざけて無い声でそれだけ言うと、またふにゃっとした顔に戻った。

「……そっか。サンキュ」
「で、何か問題があったんですか? 私のせいですか?」

 ミューミューもちょっと真剣な顔で突っ込んできたが、「いいじゃんいいじゃん、そんなの」とチョッキが間に入った。

「カッコつけたシトラスパイセンは、有名になる道を自ら断った。そんだけだろ? あーあ! 代わりに俺が出たかったなぁー!」

 チョッキは空気を読んでいないようで、絶妙に話題を変えるのが上手い。
 俺はありがたくそれに乗せてもらう。

「やめとけ。なんか途中から怪しいおっさんに代わって、危うく壺を売られそうになったから」
「詐欺じゃねぇか! いや、でも通話はモノノヒちゃんだったんだろ? 怪しいおっさんって誰だよりょーちん」
「通話は外部の回線繋げてたっぽいから、途中からモモノヒさんの上司を名乗る鬼ヶ島って人に代わったんだよ」
「鬼ヶ島……? うーん、聞いたことない名前だなぁ」
「チョッキが知らないなら、誰も分から無さそうだな」

 他の皆も首をかしげているが、やはり誰かを思い出した様子はない。
 俺の予想ではおそらく制作陣の人間だが、あくまで予想なので一々言うことでは無いし、どの程度の立場の人間かまでは分からなかった。末端の人間で、ゲームにもさほどログインしないなら一般人と同じだ。だとしたら分かる訳が無いので考えるだけ無駄だろう。

 というか、その謎の人物に「君は救世主だ」って言われたなんて恥ずかしくて報告したく無い。

「ところで、本題に戻ってもいいですか?」

 丸い卓を囲んでいる俺たちの輪にちゃっかり加わっていた孤狼丸が声を上げた。
 俺は極力そっちを見ないように気をつけていたが、だからと言っていつの間にか勝手に消えていてはくれなかった。

 ちょっとでも目を向けると、じーっとこっち見てるんだもん。怖いわ。

「もうその話は終わった」

 孤狼丸の顔も見ずに俺は告げる。

「おーい、それはダサいぞりょーちーん」

 みんなが居る場でチョッキが俺をりょーちんと呼び、割とマジで幻滅したような声で刺す。
 正面に座るみずちが孤狼丸にすすすと近づいて肩を抱いた。
 孤狼丸が「あ、火香様いい匂い……」と小さくつぶやいた気がするが無視だ、無視。

「コロちゃん真剣なんだよ? 断るなら断る。弟子にするなら弟子にする。適当に終わらせて有耶無耶にするのは駄目!」

 俺の苦肉の策が見破られている。
 ミューミューの方を見た。あれ? 能面顔だ。
 任せるってことか?

「あーもう! ……ったく。よし、分かった!」

 俺はパンと膝を叩き、みずちの右隣に座った孤狼丸を正面に見据えた。

「弟子にする! ゲームで弟子だのなんだの大げさな気もするけど、そこまで慕ってくれるなら悪い気はせん!」

 きょとんとした顔は一瞬。ぱぁ、と孤狼丸の顔が満面の笑顔に変わった。

「はい! よろしくお願いします!!」

 元気な返事でバッ、と立ち上がりお辞儀をした。アツい男だ。いや、女の子だっけ? アバターがこれじゃ分からん。
 俺はちら、とまたミューミューの顔を窺った。――やっぱ駄目か。怒ってる。

「シトラスさん?」
「待った! 孤狼丸も喜ぶのはまだ早い!」

 俺は二人に向かって両手を突き出した。

「条件がある! 俺が師匠になるのは一ヶ月後! それまでは、ただの調整チームとして一緒に練習するだけ! ……それでどう?」

 二人の顔を交互に見て、反応を見る。
 ミューミューは少し目を見開いた後、考え込むような静かな表情に戻った。
 孤狼丸はしっぽを左右にふるふる揺らし、ぶんぶんと頭を縦に振っている。

 ……そのしっぽ、動くんだ。

「僕はもちろん、全く問題ナシです! 調整チームなんて、ランカーっぽくてカッコいいなぁ」
「……まぁ、それなら。彼女の実力はどれくらいなんですか?」
「強い……と思う。1戦だけじゃはっきりとは言えないけど。仮想敵として色々やってもらう人も欲しかったし、丁度いいかなって」

 俺は感情だけで決めた訳ではない。打算的な実利も兼ねている。
 1ヶ月間、ずっとランク戦をし続ける事は無理だろう。カードを集める必要もあるだろうし、ただ試行回数が必要な研究をこなす場合なんかは人手がある方が助かる。

「2人にもお願いがある」

 俺はチョッキとみずちにも顔を向けた。

「俺とミューミューさんの調整に付き合って欲しい。みずっちは、見返り……って言い方は悪いけど、デッキの調整や戦術研究なんかは俺も時間を割くし、それに関してはミューミューにも加わって欲しい」
「もちろん良いよ? りょーちんから誘ってくれるとは思わなかったな。今言わなきゃ、私が提案するつもりだったし」
「そっか。考えてくれてたんだな」
「火香さんが加わってくれるなら百人力ですね。誇張ではなく」

 にっこりと笑ったみずちは、ガバッとミューミューに抱きついた。二人で楽しそうにキャーキャー騒いでいる。

「シトラスパイセン、俺は何すんの?」

 チョッキも身を乗り出した。今日は珍しく、こいつも本当に楽しそうだ。

「チョッキは俺達に一番足りないものを持ってる」
「は? 何の話だよ」
「防御力、慎重さ、そして――コネ」

 チョッキはその一言で、俺が何を言わんとしているか分かったようだ。

「なるほどね。よし、良いぜ。……俺への見返りは?」
「ミューミューさん、こいつと一回戦ってるとこ配信してあげられない?」

 みずちにくすぐられて息を切らしながら、ミューミューは顔を上げた。

「そ、それくらいならお安いご用です。チョッキさんとのバトルも、実は興味ありましたし」
「分かってるねぇパイセン。ミューミューちゃん、お手柔らかによろしく。いい感じに俺にもカッコつけさせてね?」
「さぁ? 手加減の相談なら出来ませんよ? 昨日の一敗、まだ引きずってますから」
「ごめんて」
「わー! 楽しくなってきましたね!!」

 孤狼丸が皆を見渡す。
 さっき土下座してた奴が、いつの間にかすっかり場に馴染んでるのもおかしな話だ。

「急揃えだけど、これで俺とミューミューさんが中心の調整チーム発足って事で」
「皆さん、よろしくお願いします」
「こちらこそー。コロちゃんもよろしくね?」
「はい! 僕が一番下っ端なので、こき使って下さい!」
「下とか上とかやめようぜ、1ヶ月間は俺らはチームだ」

 チョッキがまた上手くまとめようとしている。でも、ここは俺にカッコつけさせてくれ。

「そう、名付けてチーム『μミューの使徒』! 力を合わせて頑張ろう!」

 ……沈黙は割と長かった。

「りょーちん、いつも思うけど、色々と変な名前付けるのやめよ?」

 みずちのその一言は、マジなトーンだった。

 っかしーなー。ミューミューとシトラスだから、「μの使徒シト」で、イケてると思ったんだけどなぁ。
 駄目かなぁ?
 駄目かぁ……。
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