ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

文字の大きさ
上 下
55 / 92
問5 面の表裏を同時に照らせ

問5-4

しおりを挟む
「そこをなんとか!」

 孤狼丸が、ジャパニーズDOGEZA土下座スタイルでミューミューの前に伏していた。

「そんな事されても困ります」

 かたやミューミューはつんとそっぽを向いて拗ねたような表情をしている。
 その横でみずちが口を出すことも出来ずにあわあわしていた。

 みずちと目が合う。
 彼女はダッシュで駆け寄ってくると、おもむろに俺の肩を掴んで2人の方へとぐいぐい押して行く。
 俺の後ろでおもしろそうにニヤニヤ笑うチョッキの顔がちらと見えた。後でピコハンで思いっきり殴る。

「本人、やっと来たよ!」

 二人の間に引きずり出された俺は、バッと頭を上げた孤狼丸と、少しバツが悪そうに眉を潜めたミューミューに挟まれ、どうすることも出来ずに凍り付いてしまった。

「え、何この状況」
「りょーちんのせいだからなんとかしてね!」

 ホワーイ。状況が分からねぇって言ってんのになんとかしろと申すか。
 ……なるほど、俺への挑戦だな? 受けて立とう。
 情報の整理に必要なもの。まずは当人からの聞き出し、これに限る。

「ごほん。孤狼丸くん、君はまず立ちたまえ」
「えっ? いや、駄目です。まだ玻璃猫様に許しを頂いていません!」
「……なるほど。ではミューミューさん」
「嫌です」
「まだ何も言っていないのだが……」
「でも嫌です。許す気はありません」

 ふーむ。今のところ情報は0から進展がない。
 だがこれで終わりではない。俺のどどめ色の頭脳を持ってすれば、過去の状況の把握など容易い。

孤狼丸「玻璃猫様ごめんなさい! さっきの失言は取り消します! 試合頑張って下さい!」

μ「取り消す? そんな一言で済まそうとする方は許せません。これ以降半径30m以内に近寄らないで下さい。それが実行出来るようでしたら1年後に許しを与えます」

孤狼丸「げげ! それは困ります! 半径30mが僕の認識で正確に測れる気がしません!」

μ「ならば永遠に許せません」

孤狼丸「そこをなんとか!」

 これだ。

「ふむ。孤狼丸くんよ。君にはゲーム内距離を正確に測れる方法に関する俺のレポートを与えよう」
「……へ?」
「そしてミューミューさん、君は広い心で孤狼丸くんを許した方が良い。彼も人間、間違える生き物だ。それでも許せないならペナルティは1週間くらいで勘弁してあげてはどうかな?」
「……何の話ですか?」

 ……うーん? かんばしくない反応だ。

「りょーちん、アホな事言わないでよ恥ずかしい……。コローマルくんがりょーちんの弟子になりたいから許可を下さいってミューちゃんにお願いしてんの。分かった?」
「あぁー、そっち……」

 今日の俺の脳細胞は2戦全敗だ。

「さっきの件なら別に怒っているわけじゃないですから、もういいんです。でも、今月は私とペア戦をやるのに、更に時間を割いて誰かに教えるのは、もう火香さんだけで手一杯になりそうですからこれ以上は許可できません」
「ですから、こうしてお願いをしているんです! 僕一人の力では強くなれないんです!」

 そういう事なら話は早い。

「俺、そもそも弟子なんて大層なもん取る気はないから、孤狼丸くんのお願いは却下の方向ですけど」
「「え?」」
「なーんだ。じゃあ解決だね」
「そんなぁ……」
「良かった。じゃあ彼は放って置いて移動しましょうか」

 ミューミュー、意外と他人に冷たいところがあるなぁ。
 孤狼丸は、俺とミューミューに拒否されて完全に泣いてる。ゲーム内なので涙の描写は無く、それだけに溢れる感情がどこにも行けずに顔芸として出てしまっている。
 ぐしゃっと潰れたケモミミ青年の顔は見ていてキツイものがある。

「うぅ……僕、そんなに価値の無い、使えないゴミですか……?」
「いや……そう言ってるわけじゃ――」

 ――違う。言い訳するな。そう言ってるんだ。
 お前は、ミューミューやみずちと違って、俺の時間を割くに値しないって。
 そう言い切るべきか?
 だから諦めろ、お前の価値を俺は見いだせないから、と。
 そうして最後通牒を突きつけ、彼を無視してこの場を去るのは簡単だ。

 ……だがそれはわざわざ俺を待ったり、自らが尊敬するミューミューに無茶だと分かっているお願いをしてでも叶えたいほどの熱量がある望みなのか?

 俺は彼にどういう影響を与えてしまったのか、聞いてすら無い。
 戦う前までは、いや、戦っている最中も、彼は「敵」だった。現実世界ではそうそう敵など居ない。そんな彼がたった1試合だけで俺に何を見出したんだ?
 コミュニケーションが得意ではないことは、コミュニケーションを取らない理由にはならない。

 俺は聞くべきだ。彼に、なぜその結論に至ったかを。

「……いや。ごめん。何も話を聞かないのは、流石に失礼だった」
「……えっ?」
「俺の何を見て、弟子入りなんてしたいなんて言ったの?」
「それは――」

 彼のアバターの瞳を見据える。例えアバターでも、人間の心は目に出る。
 どんなに意識しようとごまかせないくらい、目っていうのは正直だ。

「――かっこよかったから。録画を見直して、映像でシトラスさんの動きを一つ一つ分解して見て、全てに意思が宿ってるのが、分かったんです」

 俺の心に、彼の言葉がすとんと落ちた。

「僕が何を目指しているのか、ゲームに何を求めていたのか、思い出せました。強いっていうことの証明は、相手に対して示すものじゃないんだって。シトラスさんは、自分自身に示し続けているんですよね? だから、教えてほしいんです。玻璃猫様でも他の誰でもなく、あなたに」
「………………」
「……シトラスさん?」
「あーあ、そんなこと言われちゃったら、りょーちん……」

「………………だああああー!! くっそー!!! 反則だぞー!!! そんなん言われたら……うれっしいに決まってるじゃん!!!」
「シトラスさん!?」
「……やっぱり」

 行動、戦略、意思。その1つ1つが絶対に曲げられない俺の信念の形だ。
 たかがゲーム、されどゲーム。
 その信念が俺を通して誰かに伝わったのなら、それ以上に嬉しいことはない。
 「やるならば、芯を通せ」……じいちゃんに教わった数少ない「正しい教訓」だ。

「でも……弟子っていうのはこれとは別で……」

 そんな嬉しい事を言ってくれる孤狼丸に、俺は現実的問題との葛藤で苦悶する。
 困った。……今じゃなければどうだ? 1ヶ月後。フリーになった俺には時間がある。ならそこから教えれば良いのでは?
 
 何かしらの方法を模索する俺に、後ろからチョッキがぽん、と手をおいた。

「困ってるところ悪いが、君に朗報があるぞ、シトラスくん」

 仰々しい言葉使いがうっとおしい。誰だお前。

「そこの孤狼丸氏は……」
「あ、チョッキさん!? お久しぶりです!!」

「女子だ」

「「「えっ!?」」」

 顔が地平線の如く広い男、チョッキ。

 彼の以前の「巣」のひとつに【玻璃猫組】があったという情報を知るまで、あと30秒。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

無職で何が悪い!

アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。 消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。 ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。 ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。 毎日8時半更新中!

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...