ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

文字の大きさ
上 下
50 / 92
問4 異なる2点間の距離を求めよ

答4-7

しおりを挟む
 俺は、視線だけで射殺そうとする孤狼丸と対峙していた。

「おわかり……いただけただろうか……」

 精一杯ホラーっぽい言い方で場を和ませようとするが、無事空振った。

「はぁ……。その顔を見れば君の想像通りじゃなかった事は分かる。でも、これで俺は正々堂々とやってるって事も証明されたはず。……だから戦いを続けたいところなんだけど?」

 孤狼丸からの返答は無い。仕方がないので俺は勝手に話を進める。

「こんなところから『じゃあ再開しましょう』って言ってもなかなか難しいだろうから、俺はとりあえずこの場を離れて島の北端までダッシュするわ。んで、待つ。一旦仕切り直して、残りのゲーム時間が20分を過ぎた時――ダマランチャガさんの噴火を目安に、動く」

 カードのアクティブ化操作をしている様子もないし、この場は穏便に離れられそうだ。

「ま、君はどういうやり方をしてくれてもいいよ。今すぐ追いかけてくるなら迎え撃つし、北端に近寄る姿が見えても攻撃する。でも、またさっきみたいに隠れて準備するならご自由にどうぞ。俺が気づかない範囲なら好きにやってくれ。その方が力を発揮出来るだろうし。……いや、それはこっちの都合か」

 座り込んでいた孤狼丸が、ゆっくり立ち上がった。
 何かしゃべるつもりなのかと思いきや、特に何もせずやはり睨んでくるだけだ。
 俺は諦めて行動を開始する。

「じゃ、いい試合を」

 その場を離れようと反動をつけてくるっと幹の上に立った瞬間、彼がぼそっと口を開いた。

「え?」
「……チャガさんじゃねぇ、チャガさんだ」
「ははっ。ご指摘ありがとう。でも――」

 俺は木の幹をバネのように弾ませ、大きくジャンプした。

「――ホントは『ダランマチャガ』だぞー!」

 そのまま【空画整理】でほいほいと足場を作って北を目指す。
 さ、こっちも準備をしておきますか。







 轟音に、大地が震えた。
 光を通さぬ黒煙があっという間に空を覆うほどに膨れ上がり、第一波の噴石が地上に降り注ぐのが遠目にも見える。
 あっという間に熱気が立ち込め、火山灰が辺りにちらちらと舞い始めた。

 いやー、この光景、ちょっとトラウマだ。

 この黒々と染まる大地を背景に、石造りの村に住む彼らは「ああ、洗濯物を仕舞わねば」程度の反応だった。
 雑すぎない? その世界観。
 AIが組み込まれているわけでもないNPCとゲーム世界に常識を求める方がおかしいかも知れないが、いくらなんでもまともな人間の生活の営みには見えない。
 俺の狼狽もどこ吹く風。彼らはその状況下でも平気で「薬用石鹸を買ってきてくれ」と頼んで来やがる。
 いい加減にしろ、と。
 お前に必要なのは薬用石鹸じゃなくて常用してそうな精神に効くお薬じゃないのかと。
 いやね、そりゃあダンジョン前に物資の補給も必要だし、ここにプレイヤーが立ち寄れる拠点があるべきだっていうのは分かる。
 でもその村のクエストに必要な物資ががわざわざ本島に戻らなければ買えない物にさせるなよ、と。

「俺、この試合が終わったら運営に意見書送るんだ……」

 よし、フラグ立ても終わった。
 自分でフラグを立てている事を認識しながらあえてフラグを立てる奴は大丈夫理論だ。思い出すたび実行しているが、目に見える効果を感じたことはない。

 俺は悪くなった視界の中で目を凝らして孤狼丸を探すが、案の定彼の姿は見つからなかった。

 未だお互いライフの変動はなし。全力で楽しもう。
 もう見くびらない。油断もしない。ただ彼を倒すことだけを考えれば良い。

 こんな風に思うだなんて、自分でも意外だ。
 より強い相手を求める戦闘狂。精神性で言ったらスーパーな野菜ネームの方々と同じなんじゃないか?
 ――それも俺。楽しんでるのも俺。今からロマン砲の準備をするのも俺。
 がんばりまっしょい。

 まずは襲い来る脅威への準備をしよう。そろそろ第二波の噴石が来る。
 かなりの上空まで吹き上がっていた小粒の噴石は、ここまで飛んでくるのだ。
 高速で降り注ぐそれらは一発一発が弾丸のような速度を持ち、馬鹿にならないダメージを与える。

 でもね、これも「安置」があるんですねぇ。

 ひょいひょいと安置から安置へ進む。安置の目印はフィールドが多少変動しようが全く同じ。
 既に地面に転がっている噴石のオブジェクト上には降らない、だ。
 噴石同士の衝突は演算が増えすぎてしまうからか、ちょっとしたプログラム上の工夫が見える。地面にめり込む分には影響が少なそうだもんな。

 おかげさまで、石から石へ飛び移るときにルートを遮りそうな噴石だけに気を配れば問題はない。
 バスン、バスンと洒落にならない音を立てて地面をえぐる噴石の雨の中、俺の気分は「矢の方が避けていく」でお馴染み、アレクサンドロス大王だ。

「知識なしではスキルは発揮できない。スキルなしでは力は生み出せない。力なしでは知識は応用できない」
 
 彼の名言を口にしながら南進していると、右手側からチカッと何かが光るのが見えた。
 光は俺の頬をかすめると、背後の岩肌に当たり派手な火花のエフェクトを散らした。

 来たな?
 だよな。ならここで来るに決まってる。

 俺は【脚火】をアクティブ化させ、降り注ぐ噴石から手頃な大きさのものを選び、蹴り飛ばす。
 よし、だいたい狙い通りの場所に飛んでいった。
 光の発生源近くで石は爆発し、着弾地点に小さなクレーターを作った。
 ちょうど良く第二波の噴石の雨が収まった。

 一気に距離を詰めると、俺は待ち伏せしているであろう孤狼丸と【忍犬衆】を押しつぶすため、手頃な石を踏み台に大きく跳ねる。
 空中で【鳴神:玖】をアクティブ化し、両手を頭上に伸ばし雲を「溜める」。
 さらに【空中跳躍】で高く飛び上がり、5mほどの位置から大きく手を振り下ろした。
 それは同時にアクティブ化させた【濁流の垂下】の起動アクションでもあり、溜め中の【鳴神:玖】の発射アクションでもあった。

 濁流が一帯を飲み込み、標的が視認できていない【玖】の雲は地上近くで雷撃を放った。
 バヂンッ! と強烈な音が鼓膜を揺らす。
 溢れた水分を伝って電撃が走り、姿の見えぬ孤狼丸のライフは大きく削れた。

 研究結果。
 起動アクションの重ね打ちは無効だが、カードの起動アクションと、「発射アクション」は別基準のためか、同じ動作でもそれぞれが同時に条件を満たす。
 つまり、両手を振り下ろす動作1回で「電流撃」のお手軽コンボ!
 お手軽過ぎてとてもロマン砲とは呼べない代物さ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

無職で何が悪い!

アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。 消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。 ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。 ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。 毎日8時半更新中!

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...