ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

文字の大きさ
上 下
47 / 92
問4 異なる2点間の距離を求めよ

答4-4

しおりを挟む
「孤狼丸……孤狼丸かぁ……」

 さっきの一悶着あったヤツだよなぁ。

 俺は朝焼けに照らされた海を、途方に暮れた漂流者のように砂浜で体育座りをしながら眺める。

 今度のフィールドは「懸崖けんがいの孤島」だ。
 ごろごろとした黒い火山岩が浜辺にも転がり、荒涼とした風景が背後に広がっている。
 島の中央には、ゲーム終盤になると荒ぶる予定のダランマチャガざんが円錐状にそびえ立ち、威容を誇示している。山の名前をまともに呼べるプレイヤーは少ないらしい。

 フィールドは、実際に通常のゲーム内で訪れることが出来る場所が模倣されている。
 この島は「渡航権」を得るための一連のイベントをこなした上に、しょっちゅう噴火する島で平気な顔をして暮らしている異常な住民からの「お前それここ以外なら簡単に手に入るから移住しろ」と言いたくなるような物品のお使いイベントを大量にこなし、その上でようやくアポを取った村長に延々と嫌味を言われた後にやっとこさ火山のダンジョンに挑戦する権利を得る事が出来る、という思い出深い島だ。

 みずちが死ぬほど欲しがっていた【燃え上がる愛】の為に何度もかよったなぁ。

 俺は立ち上がると、近くの小石を蹴っ飛ばしながらマップを確認する。
 今居る場所はフィールドの最南端だ。実際の島よりも大分縮小された規模になっているが、北端まで行くには数分はかかるだろう。
 孤狼丸がどこからスタートしたかは分からないが、一定範囲には出現しないようになっているはずなので、大まかに北方向から来るのではと当たりをつけている。

 ……気乗りしない。
 さっきミューミューにノックアウトされた孤狼丸を俺が倒すというのは、なんというか、後味の悪いオーバーキルな気がする。
 しかし負けてやる訳にも行かない。デメリットは大してないが、さしてメリットがあるわけでもなく、彼には失礼を働くことになり、何よりそんな腑抜けた八百長は俺のプライドが許さない。
 ならばやるべきこと……いや、るべきことは一つしかない。

 俺は砂を踏みしめ、大きくジャンプする。今回の初手は最高のドローだった。
 【空画整理】をアクティブ化させ、視界ディスプレイ上で空中の足場をセットする。
 スタッと、地上から2mほどの位置に足をつける。俺には半透明の2m幅くらいの板が浮いているのが認識出来るが、他のプレイヤーからは俺が何もない場所に立っているように見えるだろう。
 このカードは使用回数を5回に増やしてあるので、そのままポンポンと階段を作るように地上10mの高さまで上がった。

 ミャーミャーとうみねこの鳴き声が聞こえる。
 岩場以外の高い遮蔽物が少ない島のため、この位置からなら十分遠くまで見渡せる。

「さーて、見える位置に居るかな?」

 ぐるりと見渡すが、動くものは何も見つけられなかった。
 【空画整理】の足場は大体2分ほどで消滅する。俺はその間見える範囲に小さな変化でもあれば見逃すまいと注視していたが、1分半が過ぎても島には風が吹くばかりで期待したような事は起こらなかった。

 だが降りようと下を眺めた瞬間に背後からの強烈な熱を感じ、俺は確認することもなく地上へ飛び降りた。
 俺が立っていた場所を、ごう、と音を立て炎の筋が通り過ぎる。
 危機一髪。体を半分足場から出していたおかげで、転がり落ちるように避ける事が出来た。
 
「後ろっ!?」

 俺は空中で体をひねり、足を地表に向けて姿勢を整える。
 孤狼丸の姿を探すが、見えるのは何もない広い砂浜と凪いだ海だけだ。
 隠れるような場所はない。

 着地点は気をつけなければならない。避けたとはいえ、必ず落ちどころを狙ってくるだろう。
 俺は地上から1mほどの位置で、もう1枚手札に抱えていた【空画整理】をアクティブ化させてその上に降り立つ。
 俺が本来落ちる予定だった足元を、三日月型の白い尾を引く斬撃が通過していく。
 その攻撃は、またしても俺の背後から射出されたいた。

 今のは中距離ショットカードの【花月蝶かげつちょう】。始めのも同じく中距離ショットカードの【火遁かとん蛇道じゃどう】だ。
 振り返るが、やはり奴の姿は無い。

 なるほど、これはおそらく「ニンジャスタイル」だ。

 獣人のアバターにニンジャスタイル。海外のヒーローものにありそうな組み合わせだなぁと関係の無い思考が混じる。
 まだ判断するには早いが、少なくとも身を隠す何かしらのステータスカードは起動させているはずだ。

 さっきの問答から直情的なオラオラアタッカー系かと思いきや、案外こすい技で攻めてくる。
 俺の戦略を否定出来るような動きじゃなかろう。

 とりあえず俺は足場から地上に降り、【花月蝶】の射出予測地点に走る。
 ドローは【激痛電】だ。今は役に立たない。
 代わりに俺は手札の【さざなみの調べ】を撃つ。

 【さざなみの調べ】
 薄青く扇状に広がる波動を放ち、当たった対戦相手に小ダメージと数十秒の行動速度低下アクションスローの効果を与えるショット&ステータスカードだ。
 アクションスローは、アバターの操作性能を落とすような意味ではなく、ドロータイムがわずかに延長され、アクティブ化させたアクションの効果発揮までにタイムラグを生じさせるデバフだ。

 このカードは広い範囲への攻撃と共に当たった時に目立つ青白い光のエフェクトがあるため、姿を隠している敵にもそれなりに有効だ。

 しかし【さざなみの調べ】は何の反応も返さず、数メートル先で波動のエフェクトが消えた。

 上に回避されたか、既にこの場を離れたか。
 孤狼丸からの反撃は無い。

 意外と厄介な相手らしい。良いねぇ。そうでなくっちゃ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

無職で何が悪い!

アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。 消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。 ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。 ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。 毎日8時半更新中!

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...