ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問4 異なる2点間の距離を求めよ

問4-1

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 ロビーに戻った俺達4人は、いつもの滝前のベンチ……の近くにあるテラステーブルを囲うように腰掛けた。
 明るい時間帯は、ロビーのあるこのドームの天井は大きく二つに開き、日光を直接採り入れるようになっている。
 ゲーム内は現実時間で3時間ごとに昼夜を繰り返しているので、正午を回った今はゲーム内では朝方の気持ち良い陽射しがロビーに降り注いでいた。

「なんとか誰も落ちずにイベントボス倒せたねー」

 みずちが「んーっ」と大きく伸びをしながら話題を振った。

「いやー、あのギリギリで届いたミューミューちゃんのアレがすごかったわ。何だっけ? 【スターレイン】?」

 確かに。あの土壇場であのスピードは尋常じゃなかった。

「本当に凄いよ。普通1分はかかるからな、あのカードの詠唱は。あれだけ動けるのに詠唱も得意っていうのは……天は二物を与えたんだなぁって感じだよ」
「いえ、私なんかまだまだです……皆さんに付いていくだけで必死で。最後のはたまたま上手くハマって思いの外短縮出来ただけですから」
「謙遜しなーい! 味方撃ちフレンドリーファイアのダメージ無効なんていつやってたのか気づかなかったし!」
「死んだと思ったわー」

 俺も同意してうなずいた。多分、使ったのはタイミング的に【スターレイン】のドロー前だ。そこまで見越してやっていたなら結局先見性が異常って話になる。

「デッキを回すために切ったカードがたまたま……ってだけです。あ、でもデッキに慌てて入れたのは4周目直前だったので、活躍してくれて良かったです」

 ミューミューはパッと手元に1枚のカードを出した。
 【ヘタクソはこれ使え】と書いてある。何度見ても名前が酷いカードだ。誰だこの名前で通した奴は。
 カード名は相当なクソカスだが、能力はまさにパーティ初心者向け。自分の攻撃が味方にだけダメージを与えなくなるというステータスカードだ。
 大抵のカードはパーティ戦では味方にはそもそも効かないものが多いので、普通は必要がない。あるとすれば、デメリットがあっても尚強いカードを使いたくて、でも撃つ場面を限定させたくない時だろうか。
 今回のシーンではまさにそれだったので、望外の活躍を見せてくれた訳だ。

「私、3回も皆さんの足を引っ張って全滅させてしまって、ようやく分かったんです。自分の力量を過大評価していたって」
「えー? そんな事ないと思うけどなー」
「いえ、昨日の敗因もそうです」

 ミューミューは手元のカードを消しながら、神妙な面持ちになる。

「私は強い。私の戦い方が一番。このカードを本当に使いこなしているのは私だけ。自分でそう暗示をかけて戦ってきたんです、ずっと」

 でも、と彼女は俺達と目を合わせながら告げた。

「違いました。カード1枚にも色んな可能性があって……こんなただのゲームの中でこういう事を言ってしまうのは恥ずかしいですけど……私は頭が硬かったのかなって。ようやく気付けました」

 少しだけ柔らかい表情に変わった。
 チョッキがうんうんと大げさに頷くのが視界の端に映る。

「今回のダンジョン攻略、ソロとは全然違いました。戦い方、連携方法、敵の強さも。私が知っていたセオリーが何の役にも立たなくて、結局最後はこんなカード使うわけ無いと思ってたカードに手が伸びてました」
「そんな名前のカード、使いたい効果でもデッキに入れたくないよなぁ」
「本当にそう思います。でも、おかげでなんとか勝ちを拾えました」

 彼女はそう言うと、俺の顔をじっと見た。
 気恥ずかしくなって、ふいと顔を横に向けてしまうと、みずちの意外に真面目っぽい顔が目に入った。

「シトラスさんの、こういうカードに陽を当てるような戦い方が参考になったんです。ありがとうございました」
「え!? 俺? いやいや、俺じゃないよ。それはミューミューさんがたどり着いたんだからあなたのものと言うか――」

 急に話が俺に向かってビビる。褒められ慣れてないんだってば。

「なんかさー、りょーちんとミューちゃんって、似てるね」
「はぁっ!?」「えっ?」

 あはは、とみずちが笑う。

「なんかごちゃごちゃ考えて、ゲームなのにすっごい真面目で。私もネクロ好きだから結構ガチでやってるけど、そんなにいろいろ考えたりしないもん。ね、チョッキ?」
「そこで俺に振るんか。……まぁ、似てる似てないは置いといて、二人が真面目なのには同意だな。俺ってほら、刹那主義だから」
「刹那主義ってお前……意味分かって使ってる?」
「その時が楽しけりゃいいって考え方だろ? 合ってるさ」
「別に刹那主義と真面目は同居出来ない訳ではないが」
「うるせーなぁ、いいだろ別に。俺は不真面目な刹那主義者なの。分かった? ロマン主義者くん」
「ロマン主義者?」

 変なところにミューミューが食いついて来た。

「あー、違う違う。俺は『ロマン砲主義者』だよ。大技好きのカッコつけ野郎ってこと」
「いつも言ってるもんね~。良いと思うよ、私は。カッコつけるのも、どかーんって敵をぶっ飛ばしたくなるのも、オトコノコだもんね」
「そういう言い方されると恥ずかしくなってくるなぁ」
「ふふ、良いですね『ロマン砲主義者』ってネーミング。私もさっきの【スターレイン】、本当に気持ちよかったです。またあれやりたいなぁって考えてるってことは、私もロマン砲主義者の仲間入りですね?」
「おっ? 分かっちゃった? その気持ち良さ」
「やめとけミューミューちゃん、せっかくのランクと腕前が勿体無いぜ。りょーちんはその為にずーっと一人でデッキいじってる根暗なんだから一緒になっちゃ駄目だよ」
「おい、本当のことをバラすな」

 笑い声に包まれたテーブルを囲い、ざぁざぁと落ちる滝の音も、こんなくだらないやり取りも本当に居心地が良かった。
 ああ、友達が増えるってのも良いもんだな、と久しぶりに感じる。

 午後の波乱の気配は、まだその時は微塵も無かった。
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