ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問3 条件による分岐を辿れ

答3-4

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 ボロ衣をまとい、腰の曲がった老婆のような姿の「魍魎もうりょう」がどす黒い毒霧を吐き出した。

「20分くらいですねっ! まだっ!」

 ミューミューが体の正面で手を左右に振ると、大きな虹色の扇子が動きに合わせて振るわれ、生み出された強風で霧をかき消した。

「えーっ? 何がーっ?」

 かき消えた霧の残滓に飛び込み、みずちは4体でまとまっていた魍魎の中央で武道家のように徒手空拳を振るい数秒で全員叩き伏せた。

「何がって、分かるだろみずっち! さっきの攻略時間のまだ半分も経ってないぜっ?」

 チョッキは手に持った白銀の刃を上に放り投げた。空中でそれは4つに分裂すると輝く軌跡を残しながら射出され、転がされた魍魎を木の床に縫い付けた。

「おー、いいペースで来れたな」

 俺はとどめにまだ大切に持っていたピコピコハンマーを大上段から打ち付ける。ギャッ、と魍魎の最後の声が届く頃には消滅のエフェクトがハンマーの下から漏れ出た。

「……皆さん、本当に攻撃のペース配分と手札の切り方が上手いですね……」

 ここは既に5階層のボス部屋直前の部屋。これが最後の雑魚戦だった。
 体育館ほどの広さの部屋中に、消えゆくエネミーの残骸が無数に散らばっていた。

「ほぼ攻撃だけの狂戦士バーサークデッキが3人って、普通だったらパーティ崩壊するんだけどなぁ」

 とチョッキが1本に戻った剣を拾いながら言った。

「俺は一応ステータスとユーティリティも挿してるぞ」
「りょーちんはほら、いつも別の意味で頭が狂ったバーサークしたデッキ使ってるからノーカン」
「なんだと」
「あん? やるか?」
「やらいでか」
「やめんしゃい」

 みずちに二人ともスパンと頭をはたかれた。
 ミューミューがくすくす笑っている。これも段々見慣れた光景になってきた。

「本当に攻撃、攻撃、また攻撃! ってプレイしながら、なんで手札0ロストアクションにならないのか不思議です。ドロータイムを計算してる感じもしないのに」

 初心者がやりがちな失敗に、手札を引いたそばからどんどん切ってしまうというミスがある。
 ネクロは普通のゲームのようにカードを使う事それ自体にはMPやコストを設定されていない。
 その代わりに、起動に必要なアクションの複雑性とドロータイムの長短でゲームバランスを調整しているのだ。
 使ったカードのスロットに新たなカードが入るまで待たなければならない時間は、スペルカードのような大技だと1分以上かかるなんてこともザラだ。
 それを考えなしに引いた端から使ってしまえば、いつか4枚のカードのスロットが全てドロー待ち状態になり、何も出来ない空白の時間が出来てしまう。これが「ロストアクション」だ。

 ミューミューは全員が途切れず手札を使いながら、効果的に敵を倒す姿が気になるらしい。
 でも、この現象に俺たちは名前を付けていない。

「やっぱ私達の友情パワーっしょ!」
「ダサいことを恥ずかしげもなく言えるの、みずっちの良いところだぜ」
「いや、単純に全員が自分と互いの癖を熟知して、無意識下で最適解をはじき出してるだけだと思うぞ」

 ドロータイムによるデメリットを消すには、ドロータイムが長いカードを使った後は逆に短いカードを使い、抜けたカードの穴を上手く埋めながら闘うしかない。
 それが複数人でより効率的に出来たなら、「バランスよく闘う」よりも圧倒的に高いパフォーマンスを発揮出来る。

「りょーちんまーた小難しいこと言ってるー!」
「りょーちん先輩パイセン、要約してくれ」
「つまり、みんな勘が良い」
「勘、ですか……。言い得て妙ですね」

 ミューミューが納得したようにうんうんと一人で頷いていた。

「でも俺から言わせれば、その勘の応酬にいきなり入ってきて合わせてくるミューミューさんの方がすごいと思うよ」

 チョッキとみずちも確かに、と首肯しゅこうした。

「私は、まずはパーティに慣れるためにも『見て』覚えようとしましたから……」
「へー、すごいなそれ。見ただけで合わせられるんだ」

 さすがはランク2位と言ったところか。こちらも彼女の腕前はもう嫌というほど見せてもらった。

「さすがミューミューちゃん、くーっ! カッコいいねぇ。やっぱり玻璃猫様って言われてるだけあるわ、なんてったって――」
「あっ! また出た!」

 みずちがチョッキの話をぶった切って大声を上げた。
 部屋の中央に、因縁の千両箱がどっしりと出現している。

「……開けちゃう?」
「やめとけ」「開けねーよ」「もうしませんから……」

 みずちが本気のトーンと手付きで開けようとしていたので、3人で全力で止めた。

「じゃ、せっかくの全力攻略だし、レコード狙いならそろそろ行こう」
「あいよっ」

 俺が提案するとチョッキがすぐに同意してくれる。2人でみずちを宝箱から引き離しながら、そのままの勢いで扉に向かって放り投げた。
 みずちは空中でくるりと回ると、シュタッと両足でしっかり着地する。

「れっつごー!」

 何事も無かったかのように拳を上げたみずちを見て、残った三人で嘆息した。

「あ、作戦は……?」

 一応、といった声の調子でミューミューが皆に問いかける。
 扉の前に着くと、俺たちは彼女の少し心配そうな顔に笑いかけた。

「全員で」
「一斉に」
「ぶん殴る!」

「……了解です!」

 彼女も笑顔に変わっていた。







 扉を開けると、俺たちの予想していたものとは少し……いやかなり違う光景が広がっていた。

「なんだこれ」

 チョッキが眉をハの字にしている。
 俺も自分が何度か来た対カグツチ戦の様相とはかけ離れていて、愕然としてしまう。

 ソロで来た時は、だだっ広いお寺の本堂のような空間が広がり、3mほどの巨体の修行僧が座禅を組んでいた。
 もちろんその修行僧がカグツチその人で、ボス戦開始前の口上が終わると、体中から炎が吹き出して本性を現し、荒ぶる火の神となって襲いかかってくる。

 全員ソロ討伐の経験があるので、イメージしていたのはこの修行僧との静かな対話シーンだったはずだ。
 しかし、今回はこの空間からして違う。
 天井は裂け、城の侵入前と同じ夜空がパノラマで広がっていた。
 焼け落ちた梁は室内でごうごうと炎を上げながら乱雑に積み上がり、まだ延焼範囲を広げようとしている。
 そして――いるはずのカグツチの姿は無かった。

「おいちょっと待て。ネクロで敵の姿が見えない時は……」
「空か背後を疑え」

 全員でバッと見上げると、煌々と輝く月を背にしてカグツチが燃え盛る火球を振り下ろすところだった。
 容赦なく降り注ぐ熱に顔を照らされながら俺が思った事は「不意打ちファイアボール、カッコいいじゃん」というカグツチの登場センスへの賛美だった。
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