ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

文字の大きさ
上 下
28 / 92
問3 条件による分岐を辿れ

問3-6

しおりを挟む
 俺は「待て、俺は一人の時間が欲しいから束縛しないでくれ」と言えるほどに肝は座っていなかったし、一ヶ月くらいならいいかという気持ちもあった。
 というか、左右の女性にこんな場で逆らうような愚を犯すほど馬鹿ではない。

 結局その後は妙に緊張した雰囲気のまま質問コーナーになったのだが、会場の人々も初めは空気を読んで試合ゲーム内容についての質問が多かった。
 俺や彼女達への興味は一旦蓋をし、当初の目的であっただろう「俺のデッキと計画プラン」へ興味の先を移したようだった。こういうところは、さすが皆ゲーマーだと思う。
 なぜあの時ああしたのか、このカードは何の為に入っているのか、どういう方法でミューミューの行動を予測していたのか。
 俺はときに答え、ときに適当にごまかした。本当に全ての手の内を明かす必要は無いだろう。
 だが質問が続くにつれて会場にじわりと広がる空気は感じていた。

 それはおそらく、落胆。

 理由は想像がつく。ゲームの物理法則を利用した罠や、その他俺専用にチューンナップされたデッキは非常にピーキーで、ネタも割れてしまった今となっては皆が興味を示すほどの「素晴らしいデッキ」では無いことが分かったからだろう。
 そうなると、さっき蓋をしたはずの興味がむくむくと持ち上がってきてしまったようだ。
 質問は形を変え、俺とみずちの関係やそれに類する事、そしてついにミューミューへの失礼な質問へつながった。

 ミューミューの返答は、完全な無言。
 いや、蔑みの視線はあったかもしれない。

 彼女は俺にサッとフレンド申請だけ飛ばすと、簡単な挨拶をしてあっという間に立ち去ってしまった。
 壇上に取り残された俺とみずちは、ここらが潮時としっかり挨拶をして会を閉じた。
 なんだかんだ盛り上がった「会見」だったが、終わり方はもやもやする感じになってしまった。

 俺は居心地も悪かったので早々とその場を去った。
 マイルームに戻り簡単なデッキ整理と今日得たデータを専用のフォルダに放り込んでいると、フレンド登録を許可したばかりのミューミューから連絡をもらったので、翌日のペアダンジョンの約束をすることになった。
 俺は彼女の返事を確認すると、いつもより疲れた感覚に引きずられログアウトした。

 これが昨日の顛末だ。







 ――そして今。

 俺は合流したミューミューと腐れ縁2人と共にここダンジョンに立っていた。

「ちょっとこっち手伝ってくれよ! 俺だけじゃ抑えきれない! おい! りょーちん! おい!!」
「あーーー!! 私の素材ーーーー!!! 逃げるなーーー!!!」
「シトラスさん! 火香さんが一人で、ちょっと! 待ってくださいってば! あー!! 危ない!!」

 どうしてこうなった。

 一人でエネミーの群れに突っ込んだみずちが、当然の事だが反撃を食らって包囲の外側にぶっ飛ばされる。
 それをフォローしようとしたミューミューは横からの攻撃に気づいていなかったので、俺が間に入ろうと飛び込むと、同じ事を考えていたチョッキと肩をぶつけてしまい弾かれる。
 そのせいで肝心の攻撃は弾かれた二人の肩の隙間を抜けて結局ミューミューに直撃してしまい、俺はというとバランスを崩してエネミーの中に背中から突っ込む形になってしまった。

 まぁ、この辺でいいだろう。
 パーティは瓦解し、エネミーに蹂躙され、そしてダンジョン入り口に全員で強制送還される事になった。

「「「「………………」」」」

 4人分の沈黙。

 星の瞬く夜空を背景に、大きな炎にまとわれ燃え上がりながらもそびえ立つ天守閣。
 俺達はその正面、砂利を敷いた広場のような空間に戻された。
 他のプレイヤーも大勢いるここで、お互い何もしゃべらずただ向かい合って疲れたように4人で座り込む。

 何故だ。一人増えただけで何故こうなる。普通逆だろ、増えてるんだから。楽になるはずだろ。

 既にボスにもたどり着けず、俺達にとってこれでだった。

「――やっぱり、私のせい、ですよね?」

 声に感情はあまり乗っていなかったが、少しだけ悲しそうな顔でミューミューが口を開いた。

「ううん! そんな事ないよ! 今のはカッチン来て突っ込んだ私が悪かった! ごめんね!」

 みずちが慌てて取り繕う。
 だが、残念ながらミューミューの言う通り、おそらく責任は彼女にあった。
 全滅の原因はみずちが突っ込んだことだが、問題はそこではない。もっと前の段階だ。

「あのー、ミューミューちゃん?」

 チョッキが意を決したように彼女に向き合った。

「もしかして……あー、ちょっと失礼な質問だったから聞きにくかったんだけどさ。……パーティプレイ、やったこと、無い感じの人?」

 ミューミューはその言葉を聞くと、顔を伏せてしまった。
 そして数秒後、小さくこくりとうなずいた。

 あぁ、やっぱりか。
 少しずつ臭っていた違和感だったが、もう3度目のさっきのダンジョンはおそらく他の2人もミューミューへの「もしかして」を感じていただろう。

 1つ目の違和感は、合流して俺らがパーティ用に組んだ各人のデッキの最終確認をしている間、ミューミューはどこか慌てたような雰囲気だったところか。
 彼女が持ってきたデッキはジョブデッキとしての何かのスタイルではなく、一人で全てをバランスよくこなせるソロプレイヤーっぽい内容だった。
 その時の俺達はどういう状況でも適応出来るデッキならパーティーのバランスは崩れないだろうと深く考えてはいなかった。

 2つ目の違和感は、今回のイベント「迦具土かぐつち城を落とせ」によって生まれた巨大な天守閣ダンジョン、迦具土城へと足を踏み入れた1周目のことだ。

 ソロならダンジョンは複雑な生成をせず、基本は一本道に近い形でバトルの連戦をするスタイルになる。
 ゲームの性質上、デッキに含められるカードの種類数は決まっている。
 コンクエストデッキはカードコストの制限はなくとも、デッキ上限は25枚から変わらないからだ。
 そうなると、戦闘向きのカードとダンジョン探索向きのカードとどうしても用途が違うため、都合よく手札が来なければ探索にストレスがある。
 なので、こういったダンジョンではソロの場合、攻略は省かれ戦闘に焦点が当たるようになっているのだ。
 プレイヤーとしても、素材や目的のカードはしっかり集まり、実戦能力も鍛えられ、そしてストレスは少ないので悪くはない。

 だが、パーティプレイでは話が変わってくる。
 全体のカードの種類は増やせるため、よりダンジョンでは戦闘面以外での「攻略」に関するゲームプレイが重要視されてくる。
 例えばダンジョンの名の通り、マップの迷宮化。
 複数プレイヤーによる協力が必要なパズルや、罠など戦闘以外のイベントの増加。
 戦闘面でもエリアボスと呼ばれる強敵だけではなく、先程の「ラッシュ」のように大群との戦闘があったりと手強さが格段に上がる。

 ゲームとして楽しいのはパーティ、単なる収集の為の周回ならソロだ。
 ちなみにペアはその中間くらいのバランスになっている。

 彼女はそのパーティの「当たり前」をあまり知らないようだった。
 迷宮化しているのに、正面の道をずんずん進んで罠に引っかかってみたり、敵の群れに大げさに驚いてみたり。

 俺たちはしっかりして見えるミューミューにもおっちょこちょいな面もあるのかとその時は笑っていた。
 
 1周目は強敵に急襲され、連携が上手く行かず盾役のチョッキが落ちライフ0になった為全滅してしまった。

 笑えなくなるのは、2周目からだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

無職で何が悪い!

アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。 消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。 ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。 ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。 毎日8時半更新中!

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...