ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

文字の大きさ
上 下
23 / 92
問3 条件による分岐を辿れ

問3-1

しおりを挟む
 

 物心ついた頃から私はとても可愛がられていた。
 伯爵家の次女として生まれ優しいお父様お母様に可愛がられ、周囲の使用人も温かく接してくれた。
 5つ歳上のお姉様もとても優しく、いつも一緒に遊んでくれて幸せだった。

 私にとって世界が優しいのは当たり前のことで、誰もにとってもそうだと思っていた。
 その日までは。



『お姉様今日もお勉強?』

『ええ、ミリアレナ』

 その日もお姉様の部屋に行くと教本を抱えたお姉様が授業の準備をしていた。

『遊んでくれないの?』

『ごめんなさい、今日はダメなの』

 その日は後でねとは言ってくれなかった。
 どうしてもお姉様と遊びたかった私はヤダとわがままを言った。メイドが別のことをして遊びましょうと促すのに駄々をこねて首を振る。

『イヤ、お姉様と一緒がいいの!』

 困った顔を浮かべるお姉様にお願い!と言い募る。

『何の騒ぎだ』

 外に声が聞こえたのか通りがかったお父様が入ってくる。
 メイドが事情を説明するとお父様の表情が変わった。

『遊んでやればいいだろう。
 妹の願いを無碍にするとはなんて冷たい奴だ』

『ですがお父様、今日の教師の方はわざわざ遠方から招いて時間を取っていただいているのです』

 ですから今日は……、と続けるお姉様の言葉を遮り怒りの形相を浮かべる。

『だからなんだ!
 また改めて呼べばいいだろう!
 なぜ妹に優しくできない、自分の都合ばかり優先しようとして。
 利己的なのもいい加減にしろ!』

 大きな怒鳴り声でお姉様に迫るお父様。
 そんな大きな声を聞いたことのなかった私は怖くなって後退あとずさる。
 どうしてそんなに怒るのかわからず、潤んだ目で豹変したお父様を見つめた。

『お父様、怖い……』

 そう訴えると一転して笑顔に変わる。
 その変化が余計に恐ろしく感じる。けれど私を見つめる目はいつもと同じ優しいお父様のものだった。

『とにかくもう少し妹に優しくしてやりなさい』

『……承知しました』

 悲しそうに眉を寄せ手を握りしめるお姉様。
 私のせいだ。私がわがままを言ったから。
 いいな、と念を押してお父様は部屋を出て行った。
 静かになった部屋でどうしようと思っているとすっと息を吸う音が聞こえた。深呼吸をしたお姉様が微笑んで私を見つめる。

『何をして遊びたかったの、ミリアレナ?』

 優しい声で聞いてくれるお姉様に胸がずきんと痛んだ。

『……やっぱりいい』

『ミリアレナ?』

 お姉様と遊びたいけど、それをしちゃいけないんだと思った。
 お姉様を困らせたくない。

『遊ばなくていい』

『ミリアレナ……』

 困った顔で名前を呼ぶお姉様に別のお願いをしてみる。

『でも、お勉強が終わったら一緒にケーキ食べてくれる?』

 これなら良いって言ってくれるかなと思いながらお姉様を窺う。

『いいわ、終わったら一緒にお茶にしましょう』

 にっこりと微笑んでそう言ってくれた。
 うれしくって満面の笑みを浮かべる。

『でも夕食の前だから小さいケーキね。
 ミリアレナが好きな小さくて可愛いケーキよ』

 ふふっと笑うお姉様につられてミリアレナも笑顔になる。
 手のひらよりも小さいケーキは料理長の特製だ。 
 きゅっと絞ったクリームも乗せたフルーツも全部小さくてとっても可愛い。
 お茶の時間ならいくつも食べていいけど今日は夕食前だからひとつだけ。
 そう約束してお姉様の部屋から出た。
 自分の部屋に戻って一人で遊ぶ。お姉様が怒ってなくて良かった。お勉強は大事、お姉様の部屋にあるたくさんの本を思い浮かべて頷く。
 お人形やおもちゃでいっぱいの私の部屋と違ってお姉様の部屋には本やお勉強するための物がいっぱいある。
 だからお姉様はお勉強が好き。
 好きなことをしちゃダメって言われるのが嫌なのはミリアレナにもわかった。


 それからはお勉強のときは邪魔しないように側で見てるか近づかないようにした。
 お姉様に嫌われたくなかったし、お父様が怒るのも怖い。
 一度お姉様が勉強している横で一緒に聞いていたらお父様にすごいと褒められた。
 難しくてよくわからないところもいっぱいあったけど、褒められたのは嬉しい。
 お姉様はもっとすごいのよと自慢したらお父様はミリアレナよりたくさん勉強しているんだから当たり前だって。本当にすごいのに。
 私の頭を撫でて褒めてくれたお父様はお姉様の先生と少しだけ話をして出て行く。
 お姉様の頭は撫でてくれてない。
 出て行くお父様を見つめるお姉様を見てたら、なんだか苦しくて不安になる。
 けれど私を向いたお姉様は笑顔に戻っていて、優しく頭を撫でてくれて。 
 二人で授業に戻ったときには不安はどこかに行っていた。



 些細なこと、けれど確かな違和感は幾度も繰り返し不和を起こしていた。
 それが見える形で問題になったのはお姉様の10歳の誕生日パーティでのことだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

無職で何が悪い!

アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。 消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。 ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。 ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。 毎日8時半更新中!

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...