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問2 全てを注ぎ込む方法を示せ
答2-1
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俺がゲームフィールドを出ていつものベンチに向かおうとする足を阻んだのは、大勢の見知らぬ人たちだった。
「人垣」とはよく言ったものだ、と壁にしか見えない人々の群れに押しつぶされながら、俺はなんだかぼーっとするような頭で考えていた。
彼らにもみくちゃにされながら、喧騒の中、時折耳に飛び込んでくるキーワードで情報を探る。
聞こえてくるのは「デッキのレシピを教えて」だの「どうやったらあんな事が」だの「よくも俺のミューミューちゃんを」だの、おそらくさっきのゲームに関してのコメントのようだ。
でも、なんでこんなに大勢のプレイヤーが?
とにかく俺は落ち着ける場所に移動しようとするが、他のプレイヤーキャラクターに阻まれて俺はバグったようにボコボコと場所が飛ぶ。しかしそのおかげか、気づいたらひょっこり人垣の裏に飛び出していた。
「あ、おつかれりょーちん」
人垣を遠巻きに眺めていたメンツの中に、見知った顔があった。
「ちょ、ちょ、たすけて」
俺は割と必死な形相でみずちに助けを求めると、背後の人の群れが俺の居場所を再認識した気配を感じた。
「やば――」
「はいストーーーップ!!!」
みずちがロビー中に響くような声で叫ぶ。両手を左右に水平に伸ばし足を真っ直ぐ閉じ、体でTの字まで作って「タイム」を表現してくれている。
俺の背後の喧騒がピタリと止まった。
人々の意識がみずち1人に集中したところで、ゆっくり彼らを見渡し、よく通る声で彼女は口を開いた。
「えー、彼は今、混乱しています!」
どうやら俺の代弁をしてくれるらしい。ありがたい。
「なので、今から解説付きでリプレイウォッチと質問タイムを設けます。まずは広い場所に移動しましょう! 解説はみなさんご存知、この人!」
じゃじゃーん、と自分で効果音をつけながらみずちは手を横に降ると、最初に会ったときとはうってかわってしかめっ面のミューミューがいつの間にかそこにいた。
「はい、どうも。自信を粉々に踏み砕かれながら手も足も出ずにボコボコに負けたμMeowと申します。もう皆さん知ってると思いますけど。よろしく」
セリフも自虐的な上になんだか声のトーンも低い。
あれ、もしかしてこっちが素?
少し冷たさを感じる喋り方だったが、俺の後ろの方々はえらい盛り上がっていた。
なんだこれは。
俺は一体何をしでかしてしまったんだ?
物語は少し遡る。
2人がゲームフィールドに入った後、私はのんびりいつもの滝前のベンチで画面を観戦モードに切り替えて試合を見守っていた。
画面は1つのウィンドウで2分割だとちょっと見にくいので、贅沢に隣のベンチの観戦コンソールも立ち上げて2画面で2人の行動を追っていると、見知らぬ小柄なツインテールの娘が声をかけてきた。
「あのー、もしかして『燃える鬼神』の火香様ですか?」
「へ? あ、うんそうだよ」
「わー! やった! 本物だ! あっ、ごめんなさい急に。私、火香様がランク50位くらいの時からファンなんです! すごいアクロバティックなアバタームーブで、怒涛の攻撃……いつも公式試合の時は必ず観て応援してます! そうだ、もしご迷惑じゃなければ握手してくれませんか!?」
ありがとう、もちろんと答えながら握手をすると、彼女はぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでくれていた。
うーん、マシンガントークとお持ち帰りしたい可愛さが同居した生命体だ。
最近、男女問わずにこうして声をかけられる事が増えた。ランキング上位効果かな?
「あっ今誰かの試合観てらっしゃるんですね。ごめんなさい、ご迷惑でしたか?」
「ううん、大丈夫。友達の試合観てるだけだから」
急にしおらしい態度になってしまったので慌てて否定すると、彼女は何かに気付いたようで驚いた顔に変わった。
「あ、もしかして『玻璃猫』様の野良試合ですか!?」
知らない名前が出てきた。誰の事?
「ううん、シトラスとミューミューちゃんの試合だよ。はりねこ、って人はいないよ」
「あれ、もしかしてご存知無いんですか? 玻璃猫様っていうのは、ミューミュー様のあだ名ですよ?」
「ふーん? 今日初めて会ったばっかりだから、良く知らないんだよね」
どういう字で「はりねこ」か分からないし、まだ彼女の事には詳しくないので全くピンと来ない。
「え!? シングルランキング2位の玻璃猫様ですよ!?」
「ファッ!? 2位!? そんなに凄い人なの!?」
そうなんです、と画面を見ながら彼女はうっとりしてる。
ミューミューちゃんがランク2位とは。私より全然上のランクなのにさっきの態度は何だったのだろう。私のファンって言ってたけど、そんなことある?
「キリッとしたお姿と、誰にも媚びないあの目つき。あまりのかっこかわいさにとんでもない数のファンが居るあの方を、シングルランカーの火香様が知らないなんて、信じられないです……!」
「いやー、えへへへへ? 笑ってもごまかせない? ……ごめんなさい、全然知らなかった」
「それも逆に凄いです! 俗世を断って我が道を征く天才! って感じですね!」
「そんな大げさなもんじゃあございません……」
あんまり持ち上げるからかしこまってしまった。
「てっきりお二人は上位ランカーつながりかと思ったんですけど、まさか火香様が玻璃猫様のことを知らないとは思いませんでした。ホントにびっくりです」
いつの間にか私のベンチにちょこんと座りながら彼女は続ける。頭の上のアバターネームを見ると、「ぴょん吉」と書いてあった。名前もかわいい。
「ランク戦ってヒリヒリした熱みたいなのがあって好きなんだけど、あんまり対戦相手が誰って意識したことないから、他のランカーの人の事って知らないんだよね、私。がむしゃらに戦ってただけなのに、最近はこうして声もかけられるからビックリだよ。みんなよく観てるんだね、他の試合とか」
「私の学校でもみんなやってますし、休み時間なんかは結構好きなランカーの試合の話で盛り上がったりするんですよ~」
ぴょん吉は少し話して打ち解けて来たのか、ちょっと緊張したような顔はゆるみ、自然な笑顔に変わっていた。
画面の2人は接敵もしておらず大きな動きが無かったので、それからしばし私はぴょん吉とランクの話やゲーム仲間の話で盛り上がった。
「――じゃあ、その今玻璃猫様と戦ってる彼が火香様のご友人のシトラスさんなんですね?」
「そう。あやつのプレイスタイルは卑怯! からのロマン砲ぶっぱ! っていうのが得意なの。面白いよ?」
「ふーん。そうなんですかぁ」
彼女の好みはどうやらりょーちんではないらしく、興味無さげな反応だ。まあ全然良いんだけどね。
「火香様はまだ戦った事が無いから知らないと思いますけど、玻璃猫様といったら冷静沈着なカードさばきと先読みしたようなアクションテクが売りのプロ顔負けに上手いプレイヤーなんです。申し訳ないですけど、そこらの男性プレイヤーなんかじゃあサンドバッグの代わりにすらならないかもですよ?」
ミューミューちゃんの事となると急に熱く語ってくれる。
あれ、でもなんかその話だとおかしいぞ?
「そうなの? ミューミューちゃん、開幕は大暴れしてたから、私にそっくりなやり方だなぁって親近感湧いてたのに」
「えっ? もしかして火香様の『お嬢様ご乱心スタイル』?」
「あはは、変な名前だよねそれ。まあでもそう、そんな感じ」
うーん、と彼女は観戦に集中する。画面ではちょうどまたミューミューちゃんが隣のビルに爆発しながら飛び込んでいったところだった。
「ほんとだ……。デッキも何でしょうこれ? ……あれ、もしかして『ワンサイドスケイル』ですか!?」
「あ、ごめん私デッキのこととか全然わかんない」
なんか言っててちょっと悲しくなる。これじゃ私アホの子だ。あ、間違ってないや。
ぴょん吉は少し考え込むと、急に自分のコントローラーを操作し始めた。
視界ウィンドウを見ているのか、虚空にじっと目を向けていたかと思ったら、急に口を開いた。
「みんな、玻璃猫様がちょっとおもしろい試合やってるから集合!」
その言葉から数秒、ベンチの周りに女の子達が10人ほどポップしてきた。
一気に騒がしくなったなぁ、と私はまだその時はのんきに考えていた。
「人垣」とはよく言ったものだ、と壁にしか見えない人々の群れに押しつぶされながら、俺はなんだかぼーっとするような頭で考えていた。
彼らにもみくちゃにされながら、喧騒の中、時折耳に飛び込んでくるキーワードで情報を探る。
聞こえてくるのは「デッキのレシピを教えて」だの「どうやったらあんな事が」だの「よくも俺のミューミューちゃんを」だの、おそらくさっきのゲームに関してのコメントのようだ。
でも、なんでこんなに大勢のプレイヤーが?
とにかく俺は落ち着ける場所に移動しようとするが、他のプレイヤーキャラクターに阻まれて俺はバグったようにボコボコと場所が飛ぶ。しかしそのおかげか、気づいたらひょっこり人垣の裏に飛び出していた。
「あ、おつかれりょーちん」
人垣を遠巻きに眺めていたメンツの中に、見知った顔があった。
「ちょ、ちょ、たすけて」
俺は割と必死な形相でみずちに助けを求めると、背後の人の群れが俺の居場所を再認識した気配を感じた。
「やば――」
「はいストーーーップ!!!」
みずちがロビー中に響くような声で叫ぶ。両手を左右に水平に伸ばし足を真っ直ぐ閉じ、体でTの字まで作って「タイム」を表現してくれている。
俺の背後の喧騒がピタリと止まった。
人々の意識がみずち1人に集中したところで、ゆっくり彼らを見渡し、よく通る声で彼女は口を開いた。
「えー、彼は今、混乱しています!」
どうやら俺の代弁をしてくれるらしい。ありがたい。
「なので、今から解説付きでリプレイウォッチと質問タイムを設けます。まずは広い場所に移動しましょう! 解説はみなさんご存知、この人!」
じゃじゃーん、と自分で効果音をつけながらみずちは手を横に降ると、最初に会ったときとはうってかわってしかめっ面のミューミューがいつの間にかそこにいた。
「はい、どうも。自信を粉々に踏み砕かれながら手も足も出ずにボコボコに負けたμMeowと申します。もう皆さん知ってると思いますけど。よろしく」
セリフも自虐的な上になんだか声のトーンも低い。
あれ、もしかしてこっちが素?
少し冷たさを感じる喋り方だったが、俺の後ろの方々はえらい盛り上がっていた。
なんだこれは。
俺は一体何をしでかしてしまったんだ?
物語は少し遡る。
2人がゲームフィールドに入った後、私はのんびりいつもの滝前のベンチで画面を観戦モードに切り替えて試合を見守っていた。
画面は1つのウィンドウで2分割だとちょっと見にくいので、贅沢に隣のベンチの観戦コンソールも立ち上げて2画面で2人の行動を追っていると、見知らぬ小柄なツインテールの娘が声をかけてきた。
「あのー、もしかして『燃える鬼神』の火香様ですか?」
「へ? あ、うんそうだよ」
「わー! やった! 本物だ! あっ、ごめんなさい急に。私、火香様がランク50位くらいの時からファンなんです! すごいアクロバティックなアバタームーブで、怒涛の攻撃……いつも公式試合の時は必ず観て応援してます! そうだ、もしご迷惑じゃなければ握手してくれませんか!?」
ありがとう、もちろんと答えながら握手をすると、彼女はぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでくれていた。
うーん、マシンガントークとお持ち帰りしたい可愛さが同居した生命体だ。
最近、男女問わずにこうして声をかけられる事が増えた。ランキング上位効果かな?
「あっ今誰かの試合観てらっしゃるんですね。ごめんなさい、ご迷惑でしたか?」
「ううん、大丈夫。友達の試合観てるだけだから」
急にしおらしい態度になってしまったので慌てて否定すると、彼女は何かに気付いたようで驚いた顔に変わった。
「あ、もしかして『玻璃猫』様の野良試合ですか!?」
知らない名前が出てきた。誰の事?
「ううん、シトラスとミューミューちゃんの試合だよ。はりねこ、って人はいないよ」
「あれ、もしかしてご存知無いんですか? 玻璃猫様っていうのは、ミューミュー様のあだ名ですよ?」
「ふーん? 今日初めて会ったばっかりだから、良く知らないんだよね」
どういう字で「はりねこ」か分からないし、まだ彼女の事には詳しくないので全くピンと来ない。
「え!? シングルランキング2位の玻璃猫様ですよ!?」
「ファッ!? 2位!? そんなに凄い人なの!?」
そうなんです、と画面を見ながら彼女はうっとりしてる。
ミューミューちゃんがランク2位とは。私より全然上のランクなのにさっきの態度は何だったのだろう。私のファンって言ってたけど、そんなことある?
「キリッとしたお姿と、誰にも媚びないあの目つき。あまりのかっこかわいさにとんでもない数のファンが居るあの方を、シングルランカーの火香様が知らないなんて、信じられないです……!」
「いやー、えへへへへ? 笑ってもごまかせない? ……ごめんなさい、全然知らなかった」
「それも逆に凄いです! 俗世を断って我が道を征く天才! って感じですね!」
「そんな大げさなもんじゃあございません……」
あんまり持ち上げるからかしこまってしまった。
「てっきりお二人は上位ランカーつながりかと思ったんですけど、まさか火香様が玻璃猫様のことを知らないとは思いませんでした。ホントにびっくりです」
いつの間にか私のベンチにちょこんと座りながら彼女は続ける。頭の上のアバターネームを見ると、「ぴょん吉」と書いてあった。名前もかわいい。
「ランク戦ってヒリヒリした熱みたいなのがあって好きなんだけど、あんまり対戦相手が誰って意識したことないから、他のランカーの人の事って知らないんだよね、私。がむしゃらに戦ってただけなのに、最近はこうして声もかけられるからビックリだよ。みんなよく観てるんだね、他の試合とか」
「私の学校でもみんなやってますし、休み時間なんかは結構好きなランカーの試合の話で盛り上がったりするんですよ~」
ぴょん吉は少し話して打ち解けて来たのか、ちょっと緊張したような顔はゆるみ、自然な笑顔に変わっていた。
画面の2人は接敵もしておらず大きな動きが無かったので、それからしばし私はぴょん吉とランクの話やゲーム仲間の話で盛り上がった。
「――じゃあ、その今玻璃猫様と戦ってる彼が火香様のご友人のシトラスさんなんですね?」
「そう。あやつのプレイスタイルは卑怯! からのロマン砲ぶっぱ! っていうのが得意なの。面白いよ?」
「ふーん。そうなんですかぁ」
彼女の好みはどうやらりょーちんではないらしく、興味無さげな反応だ。まあ全然良いんだけどね。
「火香様はまだ戦った事が無いから知らないと思いますけど、玻璃猫様といったら冷静沈着なカードさばきと先読みしたようなアクションテクが売りのプロ顔負けに上手いプレイヤーなんです。申し訳ないですけど、そこらの男性プレイヤーなんかじゃあサンドバッグの代わりにすらならないかもですよ?」
ミューミューちゃんの事となると急に熱く語ってくれる。
あれ、でもなんかその話だとおかしいぞ?
「そうなの? ミューミューちゃん、開幕は大暴れしてたから、私にそっくりなやり方だなぁって親近感湧いてたのに」
「えっ? もしかして火香様の『お嬢様ご乱心スタイル』?」
「あはは、変な名前だよねそれ。まあでもそう、そんな感じ」
うーん、と彼女は観戦に集中する。画面ではちょうどまたミューミューちゃんが隣のビルに爆発しながら飛び込んでいったところだった。
「ほんとだ……。デッキも何でしょうこれ? ……あれ、もしかして『ワンサイドスケイル』ですか!?」
「あ、ごめん私デッキのこととか全然わかんない」
なんか言っててちょっと悲しくなる。これじゃ私アホの子だ。あ、間違ってないや。
ぴょん吉は少し考え込むと、急に自分のコントローラーを操作し始めた。
視界ウィンドウを見ているのか、虚空にじっと目を向けていたかと思ったら、急に口を開いた。
「みんな、玻璃猫様がちょっとおもしろい試合やってるから集合!」
その言葉から数秒、ベンチの周りに女の子達が10人ほどポップしてきた。
一気に騒がしくなったなぁ、と私はまだその時はのんきに考えていた。
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