ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問2 全てを注ぎ込む方法を示せ

問2-3

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 この攻撃の瞬間というのは、一番気をつけなければならない。
 なぜなら、「自分が攻撃をする側である」実感が極限まで大きくなってしまい、身を守る意識が最も希薄になるからだ。
 そのわずかな気の緩み、意識の逸れが相手にとっては大きなチャンスとなる。
 だから私は必ず攻撃に転じる時でも何割かは周囲へと意識を向けているし、おかげで「その攻撃」もかろうじて認識することが出来た。

 右足元を大きく蹴りつけるように横っ飛びに跳ねると、直前まで私がいた場所を通りぬけた光弾が背後の壁に当たり破裂する小さな音が聞こえた。

「やっぱり、見込んだ通りの人みたいですね……」

 大きな「巣」を作った上で、万が一その巣に獲物がかからず、あまつさえ反撃しようとしても自らは安全な位置から敵を討つことに専念する。
 2手先はどうかまだわからないが、少なくとも1手先は読めるようだ。
 しかし反撃が小さな光弾とは珍しい。普通は相手を大きく削れる攻撃をするだろう。

 もしかして、私が回避することを織り込んでいる?
 まさか。いや、分からない。私が目ざとく罠を察知した時点で知恵は働くようだと私の評価を上げたのだろうか?
 細かいことを考えても仕方ない、とにかく、

「ようやく見つけましたよっ!」

 彼の攻撃の出処は、蔦に覆われていたビルの隣、周りよりも一回り背の高いビルだ。
 確かにあそこからなら私がどう動くかはよく見えていただろう。それゆえに、私が最も意識を向けていた場所でもある。
 時間がない。あの蔦のビルに罠を仕掛けていた時間を考えれば、まだあのビルに罠は少ないはずだ。
 急ごう。ここで逃したらまた振り出しに戻ってしまう。
 私は彼が光弾を撃った場所に狙いを定め、まだ【龍鱗の加護】の効果時間が残っていることを画面上で確認すると、バレットカード【悪意ある贈り物】をアクティブ化する。

 【悪意ある贈り物】は、右手でボールをアンダースローするようなアクションをトリガーに、手の先から赤いリボンで装飾された黒い箱が放物線を描きながらふわふわと飛び出てくる。
 重力に影響されていないようにゆっくりとそれは距離を伸ばしていくが、そのままではとてもあのビルには届かない。なので私は、もう1枚のバレットカード【刹那の衝撃】を黒い箱に向かって撃つ。

 ズドンッ、とトラックが事故を起こしたような重い音がビルの間にこだますると、黒い箱が衝撃の反対側に向けて大きく破裂し、中身を溢れ出させるのが見えた。
 中から現れたのは、ドス黒い煙に見えるほど密集した羽虫の群れ。
 羽虫たちは箱から逃れるように一気にビルに飛びつくと、ガリガリと音をたてながら一瞬でビルの外壁を直径5メートルほど円形に削り取り、後は死骸も残さず霧散した。
 この【悪意ある贈り物】というカードはエフェクトのあまりの醜悪さに使っても使われても嫌なカードだが、効果は高く汎用性も馬鹿にならないため渋々デッキには入れている。

「やっぱり、乙女が使うカードじゃないですね、これ」

 私はそうひとりごちると、さっき引いてきていたユーティリティカード【視界跳躍しかいちょうやく】をアクティブ化。視界ディスプレイに映る小さな赤い光点を今しがた開いたビルの穴へと合わせ、「ジャンプ!」と叫んだ。
 このカードはわざわざ大きく宣言するアクションが必要だが、50mほどの距離までをほぼ無条件で移動できる便利なカードだ。まともな移動系カードはこれだけだが、まあこれだけ採用していれば近接戦闘では困らないくらいには強い。

 跳躍したビルの内部は薄暗かった。
 それもそのはず、既に太陽は地平線に身を沈め、今まさに夕から夜へと移り変わる境目の時間に到達した。
 つまり、ゲーム開始から15分が経過したということだ。
 ゲーム時間は40分のミドルマッチで設定してあるので、残された時間は約25分。ここから彼を発見し、追い詰めるのは容易い。私は次の行動へ移るために一歩を踏み出し、

 ガン、と殴られたような衝撃に頭を揺さぶられた。
 実際はダメージによる痛みなどの刺激は極限まで小さくなっているが、副次的に起こる視界の揺れは、感じる痛み以上にクラクラと気分を悪くさせる。
 体をよろめかせなが振り返ると、そこには大きなトゲの生えた鉄球が頭上からゆらゆらと振り子のように吊るされていた。これはまさか。

「げ、原始的な自作罠ガジェットトラップ?」

 ハッとして足元を見ると、細く黒いコードが張り巡らされている。先程の【領有権の蔦】ではなく、フィールド内にあらかじめPOPしているただのゴミオブジェクトだ。
 私はどうやらこれに引っかかったらしい。
 攻撃自体はたいしたダメージではない。なぜなら、ぶつかったオブジェクトはガジェットカード【モーニングスター】を使用しているようだが、プレイヤーが力を込めて振った武器としての使用方法ではないため、何割かは威力減衰しているからだ。
 
 でも、なんで? どうして?
 頭がぐるぐる廻る。既にここに来ることは読まれていた?
 こんな面倒なトラップをこんな階層にとっくに用意していた?
 さっきの蔦のビルはそれそのものが大きな囮だったとでも?

 嫌な予感がする。
 私は突入してきた穴へと無意識に後ずさる。

 ピキッ。

 足元から音が聞こえた。
 その音は、亀裂が口を開く合図。
 ミシミシと音を立てて、私が立つ部屋に小さな溝が何本も走り抜けた。
 慌てて跳躍するための時間はとっくに無くなっていて、私はそのまま階層ごと下に崩れ落ちた。
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