ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問1 パターンを解明せよ

答1-1

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「なんであそこから引き分けドローになるかなぁ」

 対人部屋から退出した俺は、ロビーのベンチに腰掛けてみずちを待っていた。
 ロビーは観葉樹木が植えられ、大きな噴水や東屋などちょっとした公園のような施設をドーム内に入れた広い空間だ。
 ゲーム内での情報や宣伝が流れる巨大ディスプレイがそこら中にあり、その周囲にくつろげるソファやテーブルも用意されているためプレイヤーたちは各々デッキを組んだり談笑に興じている。
 俺の定位置は大きな滝を模した水場の正面に置かれた木のベンチだ。
 こうやってぼーっと流れ落ちる水を見ているだけで心が落ち着く。

 ゲームは終了した。しかし、ド派手な勝利を飾ったと確信した瞬間、俺のディスプレイはブラックアウトし、大きく画面に表示されたのは「DRAW」の文字と少し物悲しいBGM。
 納得がいかない。
 引き分けなので当然みずちももう部屋からは出ているはずだ。
 そろそろ来る頃かな、と思いふと右手を見ると、いた。彼女だ。

「おっす」

 みずちは無言で腕を組み、足を大股に開き仁王立ちしている。
 あれ?聞こえなかったのかな?

「おつかれさん、とりあえず座れば?」

 もう1度声をかけるが、まだ彼女は動かない。顔は口をぴったり横一文字に結び、目はまったく笑っていない。もしかして怒ってるのか?

「何か、言うことは、ありませんか?」

 彼女がロボットのように抑揚の無い調子で口を開いた。

「え、何かってなんだよ」
「……何か、言うことは、ありませんか?」

 なんだこいつ。会話が成立しないぞ。
 怒っている理由がわからん。まあ確かに、ちょっとばかし嫌らしい攻撃方法でみずちの行動を阻害したり、最後はハメ気味にフィニッシュまで持ってったけど、それを怒ってるのか?しかしそんなことにいちいち腹を立てていたらそもそもこんな相手を貶めたもん勝ちなゲームなんて続けられないし、ちょっと対人メタで特定の相手を殺すようなカードチョイスが無かったとは言えないけど、それも別にルールの範囲内だ。つまり俺は正当な方法で自らが気持ちよくなるために不意打ちや妨害を駆使したけれどもそれはあくまで目的のための手段であり――

「あれ、バラすよ?」
「大変申し訳ありませんでした。今後このようなことが無いよう一層の努力を続けて参ります」
「よろしい」

 ふぅ、なんとか一命を取り留めた。俺が安堵すると、彼女は軽い足取りで近づきぽすっとベンチに腰掛けた。

「あーあ、なーんか変な終わり方だったね」
「だなー」
「流石に絶対死んだと思ったけど、相打ちだったんだねあれ。もしかして自分で当たったの?」
「いや、そんなミスをするはず無いんだけどなぁ。リプレイ見ようぜ」

 そう言って俺はベンチの横に備え付けられたコンソールを操作した。
 すると、空中に70インチ以上ある大きなモニターが出現し、先程の試合ゲームの様子が冒頭から映し出された。

「とりあえず飛ばしてフィニッシュのとこまで行くぞ」

 画面下のシークバーを動かして右端あたりのところで止める。

「ここからだね」

 彼女の言葉と同時に、画面では俺が詠唱する姿が映し出される。このゲームは試合内容がオート録画されているので、こうやって後から見返して反省や検証に使える。
 しかも何も編集せずデフォルトの状態で、アクションのしぐさや攻撃にズームが入ったり、広範囲への攻撃が引いた画角からの映像だったり、妙にアクション映画っぽい演出が入るのでただ見直すだけで格好良く映っているので割と楽しい。今もただ詠唱しているだけの俺の周りを少し下のアングルからゆっくりカメラが動いて緊張感のあるシーンになっている。
 詠唱が終わった。空とプレイヤーが同時に映るように横からのアングルで雷が落ちる瞬間が映し出される。
 落ちた雷は、画面が分割され複数の銅鏡の反射エフェクトを散らすシーンが表示された後、真上からのアングルに変わった。上から見るとよく分かる。雷の軌跡は彼女を中心に花火のように開いているが、一本だけ異常な道筋で俺に向かって飛んできているのが確認出来た。動画を止める。

「これだ。なんでこの雷だけ俺に向かってるんだ?」
「んふふー。りょーちんの失敗でしょー? 認めなよー」

 みずちがうっとおしい声を出す。いや、俺は認めない。12本の雷の内、11本はきちんと想定どおり反射して対象に向かっている。ん? 11本は……正しく?

「あー!! もしかして!!」

 俺は声を上げると、少し前に戻す。みずちが【老師の秘奥義】を撃つシーン。ここだ。

「え、やめてよ恥ずかしい」
「違う違う。この直前、みずっちは俺の【卑弥呼の銅鏡】をパクったよね?」
「あれそんな名前のカードなんだ。初めて見たよ誰かに使われたの」
「使うやついないもんな……。じゃなくて!」
「あーうん、パクったよ。落ちてきたから。でも【レイルドスター】が弾かれたの見てショックでどっかにぶん投げた」
「もしかして、それ……」
「あっ!」

 彼女も気づいたようだ。画面を動かし、投げられた銅鏡にカーソルを当ててロック。そのままシークバーを動かし最終局面に戻ると、そこには思っていた通りの状況が映し出される。

「この鏡、ちょうど反射して……」
「あはははははははは!!」

 爆笑するみずち。
 あれだけ準備したのに、最後はこれかよ。俺は落胆してしまう。この攻撃が決まったら何か褒美が出るってわけでもないんだけど、はあーぁ。ため息しか出ない。

「あはははは、あー面白い。そんなことあるんだねー。いやいや、因果応報因果応報。正面から戦わずに小狡い技ばっかり使うからこうなるってことですよりょーちんさん」
「小狡いって言うな。戦略的と言え」
「はいはい策士策士」

 脳筋なみずちは事あるごとに俺の作戦やコンボデッキを「面倒くさい」と一蹴するのだ。

「ところであの反射の鏡、あんなにたくさんいつの間に設置してたの? そんなカードあったっけ?」
「ふふふ、見えなかったろう気づかなかったろう。バレないようにこそこそ準備してたんだぞ。どうやったか教えてほしいかい? 鬼神さんよぉ」
「うわー、うっざー。そんな事言うやつには……こうだっ!」

 みずちはベンチのコンソールを自分の側からも起動させ、リプレイのシーンをきゅるきゅると動かすと「あるシーン」で止めた。

「あっ! そこは――」
『はたき落としてしまえばどうということはない』

 画面の俺がキザったらしくセリフを放ったところだった。

「キリリッ! 『はたき落としてしまえばどうということはない!』」
「やめて……」
「いやー、相変わらずかっこいいねぇりょーちんは。『どうということはない!』キリリリリッ!」
「ごめんて……テンション上がっちゃったんだよ……」
「素直に教える?」
「素直に教えます」
「よろしい」

 こういう時、彼女のほうが1枚も2枚も上手になる。
 仕方ない。どうせ解説したくてたまらないのはこっちなのだ。俺は気を取り直して映像を巻き戻した。
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