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問1 パターンを解明せよ
問1-3
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「なんかりょーちんの今日のデッキ、怪しいぞ?」
俺に向かって走りながら、彼女は首をかしげる。
りょーちんは俺の本名「橘良寛」のあだ名だ。ゲーム内でのアバター名は「citrus」なのでりょーちんと呼ばれてしまうと本名バレしてしまうのだが、まぁ今更指摘はしない。
というか言ってもどうせ聞き入れる質でもないだろう。
「なーに言ってんだ。俺が怪しくないデッキを組むわけないだろ」
「それもそっかー」
彼女は5メートルほど手前で止まり、手をパーの形で体の前に突き出した。
手のひらを広げて狙うタイプのアクションのカードは限定的だ。彼女の傾向からおそらく【地獄釜】と予測して横への回避ではなく縦への跳躍を選ぶ。
予想は的中したようで、俺の足元の半径3メートルほどが煮えたぎるマグマに変化していた。
もう都合良く【空中跳躍】は手札に無い。次の攻撃が来たらまず避けられないが、当然彼女はこの隙を見逃すほど甘くはない。むしろ上に避けさせるための攻撃だったはずだ。
彼女がすかさず飛ばした追撃は出の早い【あなたの辿る結末】だった。
さっき鉄壁を切り落としたのもおそらくこのカードだ。2本の指で虚空をなぞるアクションに呼応して赤い軌跡が描かれ、それは前方に向かって描かれた軌跡そのままに等速で直進する。もちろんそれに触れたものすべてを切断しながら、だ。
俺の使う【斜斬:弐の型】のほぼ上位互換で、その分レアリティも高いバレットカードだ。欲しい。
移動による回避は可能だが、障壁など通常の防御手段では防ぐことは出来ず両断されるので意味がない。
いつもの俺ならば回避の手段を用意し続ける努力をし、それが叶わない状況ならば最小限のダメージで抑えられるように身体でもひねるべきだが、今日の俺はこの状況を待っていた。
「俺の予想通り動いてくれてありがとう!」
手札で温めていた【卑弥呼の銅鏡】をアクティブ化。すぐに手元に物体として現れたそれを自分と赤い軌跡との間に滑り込ませる。
キィン!と甲高い音が響き、銅鏡から光が散らばるエフェクトが飛び出す。
防げないのは「通常の防御手段」である。
逆に言えば、「数少ない防御ではない手段」を使えばこの攻撃は跳ね返せる。
【卑弥呼の銅鏡】
アクティブ化で人の頭ほどの大きさの銅鏡を出現させるガジェットカードだ。
鏡の能力は見たまんま攻撃の反射。わかりやすく強いように思えるが、もろもろの理由によりカスレア扱いされている。
「へっ? ――ぴぎゃっ!」
まさか反射されるとは思っていなかったであろうみずちの間抜けな声。
全年齢向けゲームなので四肢損壊描写などはなく、両断の憂き目には合わずに済んだだろうが、ダメージは入ったようだ。
無事着地した俺はすぐさま追撃……をせずに彼女が立ち上がるのを待つ。
情けではない。俺には目指す「勝ち方」がある。
「ぐぬぬ……なめおってからに……っ!」
「なんか強キャラぶってた雑魚が言いそうなセリフだぞ、みずっち」
「うるせー! なんでそんなカード持ってんだよー! 怪しいと思った!」
「さぁ? なんででしょうか……ねっ!」
立ち上がるの待ったくせに、不意打ち気味に俺は【まばゆい陽光】を放つ。
2指で作った∨字を両手で額に当てるアクションで発動。古来より伝わる目くらましの伝統的手法だ。
「まぶしっ!」
彼女が強い光にひるむ。うまく当てられれば効果は30秒~1分だ。そのわずかに稼いだ時間で手早く準備を整えなければならない。連打で【卑弥呼の銅鏡】をアクティブ化。手元に溢れた銅鏡を小脇に抱えて既定の場所にセットする。
「あーもう見えないけど打つ! 腹立つ!」
物騒なセリフを吐きながらみずちは次々と炎を、石つぶてを、斬撃を飛ばし始めた。
明後日の方向に攻撃が飛んだかと思えば、目の前を灼熱が通り抜ける。
「子供じゃないんだから駄々っ子モードはやめろー!」
俺はそう声をあげると、「そこか!」と彼女から炎の返礼が来た。
とっさに鏡で身を守ると、うまいこと彼女の方に跳ね返りまた小さな悲鳴が聞こえた。
「りょーおーちーんー!」
彼女の美しい赤い髪をさらに赤く炎で燃やしながら、目には見えないが怒りのオーラがさらにその上から燃え立っている気がする。
目くらましからは立ち直ったようだが、状況は悪そうだ。
え? 彼女の? 違う違う。俺の状況が。
「その鏡を……渡せー!」
ここからが正念場だ。
■□ ガジェットカード □■
便利なアイテムを呼び出すことができるカードタイプ。
現れるのは物体のため特定のアクションをする必要がなくすぐに使用できる。
ほとんどは武器や防具で、他のカードの効果を上げるのが主な役割だ。例えばリアル剣士がいれば剣そのもので攻撃することも可能だが、ゲーム内で特殊なアシスト機能があるわけでもないため平和な現代ではほまともに扱えるプレイヤーは少ない。
そもそも斬撃が飛ぶのに剣を振り回す意味とは? という問題に直面する。
防具などには耐久値があり、探知系には使用回数などが設定されている。これらのカードはバフを与えるカードや同じ効果を生むカードに比べて効果はやや低いが、「状況がハマれば便利」くらいの差はある。
デメリットは「奪われると対戦相手にも使用できること」。パーティーを組んでいるときは「仲間に与えられる」というメリットにもなるので一長一短だ。
眼前の怒れる女はこの鏡を奪いに来るだろう。
でも、まだ彼女は知らない。俺が何を企んでいるのかを。俺の手元にあった他の5枚の鏡がどこに行ったのかを。
俺に向かって走りながら、彼女は首をかしげる。
りょーちんは俺の本名「橘良寛」のあだ名だ。ゲーム内でのアバター名は「citrus」なのでりょーちんと呼ばれてしまうと本名バレしてしまうのだが、まぁ今更指摘はしない。
というか言ってもどうせ聞き入れる質でもないだろう。
「なーに言ってんだ。俺が怪しくないデッキを組むわけないだろ」
「それもそっかー」
彼女は5メートルほど手前で止まり、手をパーの形で体の前に突き出した。
手のひらを広げて狙うタイプのアクションのカードは限定的だ。彼女の傾向からおそらく【地獄釜】と予測して横への回避ではなく縦への跳躍を選ぶ。
予想は的中したようで、俺の足元の半径3メートルほどが煮えたぎるマグマに変化していた。
もう都合良く【空中跳躍】は手札に無い。次の攻撃が来たらまず避けられないが、当然彼女はこの隙を見逃すほど甘くはない。むしろ上に避けさせるための攻撃だったはずだ。
彼女がすかさず飛ばした追撃は出の早い【あなたの辿る結末】だった。
さっき鉄壁を切り落としたのもおそらくこのカードだ。2本の指で虚空をなぞるアクションに呼応して赤い軌跡が描かれ、それは前方に向かって描かれた軌跡そのままに等速で直進する。もちろんそれに触れたものすべてを切断しながら、だ。
俺の使う【斜斬:弐の型】のほぼ上位互換で、その分レアリティも高いバレットカードだ。欲しい。
移動による回避は可能だが、障壁など通常の防御手段では防ぐことは出来ず両断されるので意味がない。
いつもの俺ならば回避の手段を用意し続ける努力をし、それが叶わない状況ならば最小限のダメージで抑えられるように身体でもひねるべきだが、今日の俺はこの状況を待っていた。
「俺の予想通り動いてくれてありがとう!」
手札で温めていた【卑弥呼の銅鏡】をアクティブ化。すぐに手元に物体として現れたそれを自分と赤い軌跡との間に滑り込ませる。
キィン!と甲高い音が響き、銅鏡から光が散らばるエフェクトが飛び出す。
防げないのは「通常の防御手段」である。
逆に言えば、「数少ない防御ではない手段」を使えばこの攻撃は跳ね返せる。
【卑弥呼の銅鏡】
アクティブ化で人の頭ほどの大きさの銅鏡を出現させるガジェットカードだ。
鏡の能力は見たまんま攻撃の反射。わかりやすく強いように思えるが、もろもろの理由によりカスレア扱いされている。
「へっ? ――ぴぎゃっ!」
まさか反射されるとは思っていなかったであろうみずちの間抜けな声。
全年齢向けゲームなので四肢損壊描写などはなく、両断の憂き目には合わずに済んだだろうが、ダメージは入ったようだ。
無事着地した俺はすぐさま追撃……をせずに彼女が立ち上がるのを待つ。
情けではない。俺には目指す「勝ち方」がある。
「ぐぬぬ……なめおってからに……っ!」
「なんか強キャラぶってた雑魚が言いそうなセリフだぞ、みずっち」
「うるせー! なんでそんなカード持ってんだよー! 怪しいと思った!」
「さぁ? なんででしょうか……ねっ!」
立ち上がるの待ったくせに、不意打ち気味に俺は【まばゆい陽光】を放つ。
2指で作った∨字を両手で額に当てるアクションで発動。古来より伝わる目くらましの伝統的手法だ。
「まぶしっ!」
彼女が強い光にひるむ。うまく当てられれば効果は30秒~1分だ。そのわずかに稼いだ時間で手早く準備を整えなければならない。連打で【卑弥呼の銅鏡】をアクティブ化。手元に溢れた銅鏡を小脇に抱えて既定の場所にセットする。
「あーもう見えないけど打つ! 腹立つ!」
物騒なセリフを吐きながらみずちは次々と炎を、石つぶてを、斬撃を飛ばし始めた。
明後日の方向に攻撃が飛んだかと思えば、目の前を灼熱が通り抜ける。
「子供じゃないんだから駄々っ子モードはやめろー!」
俺はそう声をあげると、「そこか!」と彼女から炎の返礼が来た。
とっさに鏡で身を守ると、うまいこと彼女の方に跳ね返りまた小さな悲鳴が聞こえた。
「りょーおーちーんー!」
彼女の美しい赤い髪をさらに赤く炎で燃やしながら、目には見えないが怒りのオーラがさらにその上から燃え立っている気がする。
目くらましからは立ち直ったようだが、状況は悪そうだ。
え? 彼女の? 違う違う。俺の状況が。
「その鏡を……渡せー!」
ここからが正念場だ。
■□ ガジェットカード □■
便利なアイテムを呼び出すことができるカードタイプ。
現れるのは物体のため特定のアクションをする必要がなくすぐに使用できる。
ほとんどは武器や防具で、他のカードの効果を上げるのが主な役割だ。例えばリアル剣士がいれば剣そのもので攻撃することも可能だが、ゲーム内で特殊なアシスト機能があるわけでもないため平和な現代ではほまともに扱えるプレイヤーは少ない。
そもそも斬撃が飛ぶのに剣を振り回す意味とは? という問題に直面する。
防具などには耐久値があり、探知系には使用回数などが設定されている。これらのカードはバフを与えるカードや同じ効果を生むカードに比べて効果はやや低いが、「状況がハマれば便利」くらいの差はある。
デメリットは「奪われると対戦相手にも使用できること」。パーティーを組んでいるときは「仲間に与えられる」というメリットにもなるので一長一短だ。
眼前の怒れる女はこの鏡を奪いに来るだろう。
でも、まだ彼女は知らない。俺が何を企んでいるのかを。俺の手元にあった他の5枚の鏡がどこに行ったのかを。
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