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第4話 車中での会話
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「車をお持ちなんですね、天様」
「ええ。さすがに、歩いて来るにはここは遠すぎるので」
手慣れた操作で車を運転する天様の隣で、私は初めて乗る車から見る外の景色に魅入っていた。
すぐに景色は街中から自然の中を走るようになり、私が来たことのない場所を一定の速度で走っていた。
変わりゆく景色の様子が斬新でしばらく見入っていると、隣に座っている天様がくすりと笑い声を漏らした。
「珍しいですか?」
「す、すみません。少し舞い上がっておりました」
「謝らないでください。私も、初めて車に乗ったときは同じような反応をしていましたから」
つい田舎の娘のような反応をしていしまったことを恥ずかしくなってしまい、私は顔をただ静かに赤くしてしまっていた。
話題を別のものに変えようと思った私は、何か話題を変えられるようなものがないかと必死に頭をぐるぐると回した。
「あの、天様。今はどこに向かわれているのでしょうか?」
「もう少し先の街に向かいます。そこで着物を購入しようと思いまして」
「お着物ですか?」
着物屋なら私がいた街にもあったのにと思いながら、天様が来ている着物をちらりと見てみて、天様が私がいた街で着物を買わなかった理由が分かった。
上質な藍色の生地を丁寧に仕立て上げた着物。そんな高等な裁縫の技術や、高価な生地からなる着物は、私の知る着物屋には置いていない逸品だった。
きっと、これから向かう着物屋は普段私が目にすることができないような高級な着物を揃えた店なのだろう。
そんな店に私のような者が入ってもいいのだろうか。いや、一緒に店に入れてもらえるわけがないか。
使用人が着ている物よりも安価で粗悪な物。そんな着物を着ている私が、そんな上流階級の人たちが使っているような店に入れてもらえるはずがない。
「日和様に合うものを数着購入していこうと思っています」
「……え。私の物を、ですか?」
「はい。今着ているものは少し質素過ぎますし、大きさも合っていないでしょう?」
思いもしなかった言葉を言われて、私は目をぱちくりとさせてしまった。
天様のものではなくて、私の物?
いまいち理解が追い付かずに、再び自分が着ている着物に目を降ろしたところで、ふと重要なことを思い出した。
「い、いえ、私はこの着物で問題ありません。その……あまり、お店には行きたくはないです」
「そうでしたか。……でしたら、後で着物屋に家に来てもらうようにしますか」
「いえ、そうではなくてっ」
さらっとさらにお金がかかりそうなことを提案されて、私は少しだけ声を大きくしてしまった。
このままでは、本当に着物屋を呼ばれてしまうのではないかと思った私は、着物をきゅうっと握りながら、言葉を漏らした。
「その、あまり採寸されたくない体と言いますか」
「採寸されたくない?」
天様は私の顔色をちらりと確認した後、ゆっくりと車のブレーキを踏み込んで車を道の端の方に停めた。
「天様?」
天様はじっと真剣な瞳を私に向けた後、その視線を下に下ろしていった。なんだろうかと思っていると、私のお腹付近にそっと天様の手が乗せられた。
「いたっ」
優しく押されただけなのに、そこはお母さまに蹴り上げられた場所で、私は小さく声を漏らしてしまった。
私の反応を見て何かを確信したのか、天様は悲しそうに顔を歪ませて言葉を漏らした。
「これも、あの家族から受けた暴力ですか?」
「……はい」
「本当に、あの人たちは」
天様はぎりっと歯ぎしりの音をさせた後、短く息を吐いた。そして、微かに温かさを感じさせる手のひらを私に当てて目を閉じた。
「あの、天様?」
「少しだけ、じっとしていてください」
天様はそう言うと、そのまま優しい手の先で私の体を労わるように撫でてくれいた。手のひらから伝わる温かさと優しさが心地よかったので、私は恥ずかしさを覚えながらも天様に身を任せることにした。
お腹のあざの痛さが消えていたことに気づいたのは、それからしばらく経ってからだった。
「ええ。さすがに、歩いて来るにはここは遠すぎるので」
手慣れた操作で車を運転する天様の隣で、私は初めて乗る車から見る外の景色に魅入っていた。
すぐに景色は街中から自然の中を走るようになり、私が来たことのない場所を一定の速度で走っていた。
変わりゆく景色の様子が斬新でしばらく見入っていると、隣に座っている天様がくすりと笑い声を漏らした。
「珍しいですか?」
「す、すみません。少し舞い上がっておりました」
「謝らないでください。私も、初めて車に乗ったときは同じような反応をしていましたから」
つい田舎の娘のような反応をしていしまったことを恥ずかしくなってしまい、私は顔をただ静かに赤くしてしまっていた。
話題を別のものに変えようと思った私は、何か話題を変えられるようなものがないかと必死に頭をぐるぐると回した。
「あの、天様。今はどこに向かわれているのでしょうか?」
「もう少し先の街に向かいます。そこで着物を購入しようと思いまして」
「お着物ですか?」
着物屋なら私がいた街にもあったのにと思いながら、天様が来ている着物をちらりと見てみて、天様が私がいた街で着物を買わなかった理由が分かった。
上質な藍色の生地を丁寧に仕立て上げた着物。そんな高等な裁縫の技術や、高価な生地からなる着物は、私の知る着物屋には置いていない逸品だった。
きっと、これから向かう着物屋は普段私が目にすることができないような高級な着物を揃えた店なのだろう。
そんな店に私のような者が入ってもいいのだろうか。いや、一緒に店に入れてもらえるわけがないか。
使用人が着ている物よりも安価で粗悪な物。そんな着物を着ている私が、そんな上流階級の人たちが使っているような店に入れてもらえるはずがない。
「日和様に合うものを数着購入していこうと思っています」
「……え。私の物を、ですか?」
「はい。今着ているものは少し質素過ぎますし、大きさも合っていないでしょう?」
思いもしなかった言葉を言われて、私は目をぱちくりとさせてしまった。
天様のものではなくて、私の物?
いまいち理解が追い付かずに、再び自分が着ている着物に目を降ろしたところで、ふと重要なことを思い出した。
「い、いえ、私はこの着物で問題ありません。その……あまり、お店には行きたくはないです」
「そうでしたか。……でしたら、後で着物屋に家に来てもらうようにしますか」
「いえ、そうではなくてっ」
さらっとさらにお金がかかりそうなことを提案されて、私は少しだけ声を大きくしてしまった。
このままでは、本当に着物屋を呼ばれてしまうのではないかと思った私は、着物をきゅうっと握りながら、言葉を漏らした。
「その、あまり採寸されたくない体と言いますか」
「採寸されたくない?」
天様は私の顔色をちらりと確認した後、ゆっくりと車のブレーキを踏み込んで車を道の端の方に停めた。
「天様?」
天様はじっと真剣な瞳を私に向けた後、その視線を下に下ろしていった。なんだろうかと思っていると、私のお腹付近にそっと天様の手が乗せられた。
「いたっ」
優しく押されただけなのに、そこはお母さまに蹴り上げられた場所で、私は小さく声を漏らしてしまった。
私の反応を見て何かを確信したのか、天様は悲しそうに顔を歪ませて言葉を漏らした。
「これも、あの家族から受けた暴力ですか?」
「……はい」
「本当に、あの人たちは」
天様はぎりっと歯ぎしりの音をさせた後、短く息を吐いた。そして、微かに温かさを感じさせる手のひらを私に当てて目を閉じた。
「あの、天様?」
「少しだけ、じっとしていてください」
天様はそう言うと、そのまま優しい手の先で私の体を労わるように撫でてくれいた。手のひらから伝わる温かさと優しさが心地よかったので、私は恥ずかしさを覚えながらも天様に身を任せることにした。
お腹のあざの痛さが消えていたことに気づいたのは、それからしばらく経ってからだった。
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