4 / 5
第4話 車中での会話
しおりを挟む
「車をお持ちなんですね、天様」
「ええ。さすがに、歩いて来るにはここは遠すぎるので」
手慣れた操作で車を運転する天様の隣で、私は初めて乗る車から見る外の景色に魅入っていた。
すぐに景色は街中から自然の中を走るようになり、私が来たことのない場所を一定の速度で走っていた。
変わりゆく景色の様子が斬新でしばらく見入っていると、隣に座っている天様がくすりと笑い声を漏らした。
「珍しいですか?」
「す、すみません。少し舞い上がっておりました」
「謝らないでください。私も、初めて車に乗ったときは同じような反応をしていましたから」
つい田舎の娘のような反応をしていしまったことを恥ずかしくなってしまい、私は顔をただ静かに赤くしてしまっていた。
話題を別のものに変えようと思った私は、何か話題を変えられるようなものがないかと必死に頭をぐるぐると回した。
「あの、天様。今はどこに向かわれているのでしょうか?」
「もう少し先の街に向かいます。そこで着物を購入しようと思いまして」
「お着物ですか?」
着物屋なら私がいた街にもあったのにと思いながら、天様が来ている着物をちらりと見てみて、天様が私がいた街で着物を買わなかった理由が分かった。
上質な藍色の生地を丁寧に仕立て上げた着物。そんな高等な裁縫の技術や、高価な生地からなる着物は、私の知る着物屋には置いていない逸品だった。
きっと、これから向かう着物屋は普段私が目にすることができないような高級な着物を揃えた店なのだろう。
そんな店に私のような者が入ってもいいのだろうか。いや、一緒に店に入れてもらえるわけがないか。
使用人が着ている物よりも安価で粗悪な物。そんな着物を着ている私が、そんな上流階級の人たちが使っているような店に入れてもらえるはずがない。
「日和様に合うものを数着購入していこうと思っています」
「……え。私の物を、ですか?」
「はい。今着ているものは少し質素過ぎますし、大きさも合っていないでしょう?」
思いもしなかった言葉を言われて、私は目をぱちくりとさせてしまった。
天様のものではなくて、私の物?
いまいち理解が追い付かずに、再び自分が着ている着物に目を降ろしたところで、ふと重要なことを思い出した。
「い、いえ、私はこの着物で問題ありません。その……あまり、お店には行きたくはないです」
「そうでしたか。……でしたら、後で着物屋に家に来てもらうようにしますか」
「いえ、そうではなくてっ」
さらっとさらにお金がかかりそうなことを提案されて、私は少しだけ声を大きくしてしまった。
このままでは、本当に着物屋を呼ばれてしまうのではないかと思った私は、着物をきゅうっと握りながら、言葉を漏らした。
「その、あまり採寸されたくない体と言いますか」
「採寸されたくない?」
天様は私の顔色をちらりと確認した後、ゆっくりと車のブレーキを踏み込んで車を道の端の方に停めた。
「天様?」
天様はじっと真剣な瞳を私に向けた後、その視線を下に下ろしていった。なんだろうかと思っていると、私のお腹付近にそっと天様の手が乗せられた。
「いたっ」
優しく押されただけなのに、そこはお母さまに蹴り上げられた場所で、私は小さく声を漏らしてしまった。
私の反応を見て何かを確信したのか、天様は悲しそうに顔を歪ませて言葉を漏らした。
「これも、あの家族から受けた暴力ですか?」
「……はい」
「本当に、あの人たちは」
天様はぎりっと歯ぎしりの音をさせた後、短く息を吐いた。そして、微かに温かさを感じさせる手のひらを私に当てて目を閉じた。
「あの、天様?」
「少しだけ、じっとしていてください」
天様はそう言うと、そのまま優しい手の先で私の体を労わるように撫でてくれいた。手のひらから伝わる温かさと優しさが心地よかったので、私は恥ずかしさを覚えながらも天様に身を任せることにした。
お腹のあざの痛さが消えていたことに気づいたのは、それからしばらく経ってからだった。
「ええ。さすがに、歩いて来るにはここは遠すぎるので」
手慣れた操作で車を運転する天様の隣で、私は初めて乗る車から見る外の景色に魅入っていた。
すぐに景色は街中から自然の中を走るようになり、私が来たことのない場所を一定の速度で走っていた。
変わりゆく景色の様子が斬新でしばらく見入っていると、隣に座っている天様がくすりと笑い声を漏らした。
「珍しいですか?」
「す、すみません。少し舞い上がっておりました」
「謝らないでください。私も、初めて車に乗ったときは同じような反応をしていましたから」
つい田舎の娘のような反応をしていしまったことを恥ずかしくなってしまい、私は顔をただ静かに赤くしてしまっていた。
話題を別のものに変えようと思った私は、何か話題を変えられるようなものがないかと必死に頭をぐるぐると回した。
「あの、天様。今はどこに向かわれているのでしょうか?」
「もう少し先の街に向かいます。そこで着物を購入しようと思いまして」
「お着物ですか?」
着物屋なら私がいた街にもあったのにと思いながら、天様が来ている着物をちらりと見てみて、天様が私がいた街で着物を買わなかった理由が分かった。
上質な藍色の生地を丁寧に仕立て上げた着物。そんな高等な裁縫の技術や、高価な生地からなる着物は、私の知る着物屋には置いていない逸品だった。
きっと、これから向かう着物屋は普段私が目にすることができないような高級な着物を揃えた店なのだろう。
そんな店に私のような者が入ってもいいのだろうか。いや、一緒に店に入れてもらえるわけがないか。
使用人が着ている物よりも安価で粗悪な物。そんな着物を着ている私が、そんな上流階級の人たちが使っているような店に入れてもらえるはずがない。
「日和様に合うものを数着購入していこうと思っています」
「……え。私の物を、ですか?」
「はい。今着ているものは少し質素過ぎますし、大きさも合っていないでしょう?」
思いもしなかった言葉を言われて、私は目をぱちくりとさせてしまった。
天様のものではなくて、私の物?
いまいち理解が追い付かずに、再び自分が着ている着物に目を降ろしたところで、ふと重要なことを思い出した。
「い、いえ、私はこの着物で問題ありません。その……あまり、お店には行きたくはないです」
「そうでしたか。……でしたら、後で着物屋に家に来てもらうようにしますか」
「いえ、そうではなくてっ」
さらっとさらにお金がかかりそうなことを提案されて、私は少しだけ声を大きくしてしまった。
このままでは、本当に着物屋を呼ばれてしまうのではないかと思った私は、着物をきゅうっと握りながら、言葉を漏らした。
「その、あまり採寸されたくない体と言いますか」
「採寸されたくない?」
天様は私の顔色をちらりと確認した後、ゆっくりと車のブレーキを踏み込んで車を道の端の方に停めた。
「天様?」
天様はじっと真剣な瞳を私に向けた後、その視線を下に下ろしていった。なんだろうかと思っていると、私のお腹付近にそっと天様の手が乗せられた。
「いたっ」
優しく押されただけなのに、そこはお母さまに蹴り上げられた場所で、私は小さく声を漏らしてしまった。
私の反応を見て何かを確信したのか、天様は悲しそうに顔を歪ませて言葉を漏らした。
「これも、あの家族から受けた暴力ですか?」
「……はい」
「本当に、あの人たちは」
天様はぎりっと歯ぎしりの音をさせた後、短く息を吐いた。そして、微かに温かさを感じさせる手のひらを私に当てて目を閉じた。
「あの、天様?」
「少しだけ、じっとしていてください」
天様はそう言うと、そのまま優しい手の先で私の体を労わるように撫でてくれいた。手のひらから伝わる温かさと優しさが心地よかったので、私は恥ずかしさを覚えながらも天様に身を任せることにした。
お腹のあざの痛さが消えていたことに気づいたのは、それからしばらく経ってからだった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる