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第6話 『攻略本』が示す『モンスター攻略法』
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「どーしよ」
俺に与えられたギフトである『攻略本』を駆使してダンジョンに潜っていたら、なんか知ないうちに吸血鬼と契約していたらしい。
『攻略本』にそうやって指示されて行動しただけなのに、こんなことってありえるのか?
「そう言えば、リリィさんを助ける前にどこの国の言葉か分からない言葉を言ったな」
リリィが結晶に閉じ込められているとき、その結晶に触れながら何かブツブツと唱えた気がする。その後に、リリィが解放されたということは、やはりあの時の言葉がきっかけか。
まさか、あれが契約の儀式だったなんて思いもしなかった。
「まぁ、考えてもしかたないか。とりあえず、俺一人じゃこのダンジョンからでれないだろうしな」
「出られないというのは、どういうことでしょうか?」
「え、ああ。俺ってかなり弱いからさ、モンスターと戦えないのよ」
「弱い? ご主人様がですか?」
「えーと、京也でお願いできないか? さすがに、照れ臭い」
照れ臭いというかそういうプレイをしている気になって、興奮してしまう。だから、俺の鼻息が荒くなるまえにその呼び名をやめて欲しい。
「失礼しました。京也様とお呼びいたしますね」
「いや、様もいらんのだけど」
「なりません。それと、私のことはリリィと呼び捨てでお呼びください」
「いや、女子相手に呼び捨てはちょっと」
「……」
別に、名前を呼び捨てで呼ぶのが嫌いという訳ではない。ただ、思春期の男子からすると可愛い女子を呼び捨てで呼ぶという行為は緊張するのだ。
「リリィ」
だから、俺の声が少しだけ上ずったことはスルーして欲しい。
「なんでしょうか、京也様」
「……様付けは何とかならんものですか」
「なりません」
「……さいですか」
何とかならないなら仕方がないか。
リリィの言葉を聞く限り、俺とリリィの関係には上下関係があるように見える。というよりも、主従関係のようなものなのかもしれない。
友達のようなフレンドリーさなんてものは感じられず、後ろから付き従うかのような言動だしな。
そうなると、俺が結んだ契約は主従関係なのか? ダメだ、ただリリィを助け出そうと思って言葉を呟いただけだから、あの言葉が何を意味するものだったのか分からない。
契約内容が分からない契約って、かなり怖いな。
……今度契約するときは、面倒でも契約書を隅々まで読みこむことにしよう。
「ご主人様は、何か戦えない理由があるのですか?」
「いや、俺が弱いからだけど」
なんでここではてなワークがついてしまうんだ? 難しいことは言っていないはずなのに。
「分かった。それじゃあ、仮に俺がモンスターと対峙したときにでも確認してくれ。あ、でもあれだぞ、危なくなったら助けてくれよ?」
「ええ、分かりました」
言っても伝わらないなら、実践で俺の弱さを確認してもらうことにしよう。
……なんか情けないな。
そうは言っても、このダンジョンに入ってからモンスターと出会ってない。リリィに俺の弱さを証明する機会も来ないかもしれないな。
俺達がしばらく歩いていくと、道が二股に分かれた。片方を示すのはこのダンジョンに入ってからずっと頼ってきた矢印。そして、もう片方は先程リリィを助けたときに見たのと同じ色の矢印だった。
分岐点でありながら、『攻略本』が強く示すのはリリィを助けたときと同じ色の矢印。
……なんか嫌な予感がするな。
俺は振り返って、リリィの方に視線を向けた。
俺の視線を受けて、リリィはきょとんと可愛らしく首を傾けていた。
まぁ、この子を助けたことを後悔してるわけでもないしな。『攻略本』がそうしろと言うのなら、そうするよ。
俺はその『攻略本』が示す道に従って歩き出した。
そうして歩くこと数分。俺達の前には道を塞いでいる大きな猪のモンスターと遭遇した。距離が遠いせいか、まだ俺達の存在には距離がついていないみたいだ。
カバを一回り小さくしたくらいの大きさをしたそれは、鋭い角を二本鼻の脇から伸ばしている。
あんなのに突進でもされたら、ひとたまりもないな。
「うわっー、どうしよ。引き返すか」
「戦わないのですか?」
「戦えないの」
「どういう意味でしょう?」
「戦ったら俺死んじゃうからーーいや、丁度いいか」
「俺がどれだけ弱いのか、見せておこう」
どうやら、俺がリリィと契約をしたからか、リリィは俺のことを強者か何かだと勘違いしているらしい。なんか知らんが敬われているしな。
それなら、ここで俺の弱さをアピールしておこう。
多分、これからダンジョンを潜っていくにあたってリリィの力は必要になる。本当の危機に遭遇するよりも前に、俺の弱さを証明しておく必要があるだろう。
そうしないと、いざという時の反応が遅れるはずだ。俺を助ける反応が。
早くも俺は尊厳を失うのか。はぁ。
「もしも、というか、絶対に俺負けそうになるから颯爽と俺を助けに来てもらってもいいですか? 本当に。危ないと思った時にはもう手遅れなので、そこんところお願いします!」
「わ、分かりました。なぜそんな剣幕でおっしゃるのでしょう?」
「だって、見捨てられたら俺死んじゃうからな。頭くらいいくらでも下げるよ」
相手のモンスターは小柄ではないが、肉食獣という感じではない。なぶられても殺されることはないだろう。
それに、なんかリリィって最強とか言ってたしな。問題ないだろ。
俺はあえて音を大きく出して、猪のようなモンスターに向かい合った。当然、こちらが戦闘態勢を見せれば相手も戦闘の体勢に入る。
見つかったぁ。
というか、もしかして俺達のことには気づいていたのではないだろうか。戦う意思を見せなければ、黙って通してくれたかもしれない。
まぁ、目の前で突進に入る体制を取られた今となっては、もう遅いのだけれども。
「よ、よし、このくらいでいいだろ。リリィ、そろそろーーん?」
なんだろうか。モンスターを前にして何かの情報が頭に流れ込んできた。
まるで、アイテムを見つけたときと同じように『攻略本』が勝手に反応しているかのようだ。そして、頭には『モンスター攻略法』という文字が流れてきた。
な、なんだこれ? 『モンスター攻略法』?
その意味が分からないままでいると、そんな俺の考えなどお構いなしに猪のモンスターが突っ込んできた。慌てて視線をリリィに向けるが、リリィは特に動こうという様子を見せない。
え、まさかのスルーですか?
俺は急いで視線を猪のモンスターの方に向け直した。すると、先程の『モンスター攻略法』が勝手に頭に流れ込んできて、俺の行動を指示する。
何もしないと、俺はこのモンスターの突進を避けることはできない。そう考えた俺は、流れに任せるように『モンスター攻略法』に頼ることにした。
俺は体の動きをその『攻略法』に合わせるように、『攻略法』に体を任せるようにすることにした。むしろ、意識的に『モンスター攻略法』を発動させた。すると、何か脳の中でちかっと光のような物が見えた。
次の瞬間、体が勝手に動いていた。
無駄のない動きで短剣を引き抜くと、そのまま流れるように突進してくるモンスターに刃を向けた。攻撃をかわしながら、見切ったような体の使い方。そして、筋肉の流れに沿ったようにモンスターに当てられた刃は抵抗なくモンスターの体を切り裂いた。
ほんの数秒の出来事。短剣から血を払って鞘に納めた俺の後ろには、一太刀で切られて倒れているモンスターがいた。
「さすがです、京也様」
「……え?」
え、俺がやったのか?
いや、俺がどうやって? ていうか、俺って戦闘に向かないハズレのギフト持ちだったはずだろ?
それがどうして、こんなにあっさりとモンスターを狩っているんだ?
そこでふと、先程頭に流れ込んできた情報について思い出した。
『モンスター攻略法』。
まさか、『攻略本』ってただのダンジョン案内以外に使い道があったのか?
ていうか、『モンスター攻略法』ってなんだ?
俺に与えられたギフトである『攻略本』を駆使してダンジョンに潜っていたら、なんか知ないうちに吸血鬼と契約していたらしい。
『攻略本』にそうやって指示されて行動しただけなのに、こんなことってありえるのか?
「そう言えば、リリィさんを助ける前にどこの国の言葉か分からない言葉を言ったな」
リリィが結晶に閉じ込められているとき、その結晶に触れながら何かブツブツと唱えた気がする。その後に、リリィが解放されたということは、やはりあの時の言葉がきっかけか。
まさか、あれが契約の儀式だったなんて思いもしなかった。
「まぁ、考えてもしかたないか。とりあえず、俺一人じゃこのダンジョンからでれないだろうしな」
「出られないというのは、どういうことでしょうか?」
「え、ああ。俺ってかなり弱いからさ、モンスターと戦えないのよ」
「弱い? ご主人様がですか?」
「えーと、京也でお願いできないか? さすがに、照れ臭い」
照れ臭いというかそういうプレイをしている気になって、興奮してしまう。だから、俺の鼻息が荒くなるまえにその呼び名をやめて欲しい。
「失礼しました。京也様とお呼びいたしますね」
「いや、様もいらんのだけど」
「なりません。それと、私のことはリリィと呼び捨てでお呼びください」
「いや、女子相手に呼び捨てはちょっと」
「……」
別に、名前を呼び捨てで呼ぶのが嫌いという訳ではない。ただ、思春期の男子からすると可愛い女子を呼び捨てで呼ぶという行為は緊張するのだ。
「リリィ」
だから、俺の声が少しだけ上ずったことはスルーして欲しい。
「なんでしょうか、京也様」
「……様付けは何とかならんものですか」
「なりません」
「……さいですか」
何とかならないなら仕方がないか。
リリィの言葉を聞く限り、俺とリリィの関係には上下関係があるように見える。というよりも、主従関係のようなものなのかもしれない。
友達のようなフレンドリーさなんてものは感じられず、後ろから付き従うかのような言動だしな。
そうなると、俺が結んだ契約は主従関係なのか? ダメだ、ただリリィを助け出そうと思って言葉を呟いただけだから、あの言葉が何を意味するものだったのか分からない。
契約内容が分からない契約って、かなり怖いな。
……今度契約するときは、面倒でも契約書を隅々まで読みこむことにしよう。
「ご主人様は、何か戦えない理由があるのですか?」
「いや、俺が弱いからだけど」
なんでここではてなワークがついてしまうんだ? 難しいことは言っていないはずなのに。
「分かった。それじゃあ、仮に俺がモンスターと対峙したときにでも確認してくれ。あ、でもあれだぞ、危なくなったら助けてくれよ?」
「ええ、分かりました」
言っても伝わらないなら、実践で俺の弱さを確認してもらうことにしよう。
……なんか情けないな。
そうは言っても、このダンジョンに入ってからモンスターと出会ってない。リリィに俺の弱さを証明する機会も来ないかもしれないな。
俺達がしばらく歩いていくと、道が二股に分かれた。片方を示すのはこのダンジョンに入ってからずっと頼ってきた矢印。そして、もう片方は先程リリィを助けたときに見たのと同じ色の矢印だった。
分岐点でありながら、『攻略本』が強く示すのはリリィを助けたときと同じ色の矢印。
……なんか嫌な予感がするな。
俺は振り返って、リリィの方に視線を向けた。
俺の視線を受けて、リリィはきょとんと可愛らしく首を傾けていた。
まぁ、この子を助けたことを後悔してるわけでもないしな。『攻略本』がそうしろと言うのなら、そうするよ。
俺はその『攻略本』が示す道に従って歩き出した。
そうして歩くこと数分。俺達の前には道を塞いでいる大きな猪のモンスターと遭遇した。距離が遠いせいか、まだ俺達の存在には距離がついていないみたいだ。
カバを一回り小さくしたくらいの大きさをしたそれは、鋭い角を二本鼻の脇から伸ばしている。
あんなのに突進でもされたら、ひとたまりもないな。
「うわっー、どうしよ。引き返すか」
「戦わないのですか?」
「戦えないの」
「どういう意味でしょう?」
「戦ったら俺死んじゃうからーーいや、丁度いいか」
「俺がどれだけ弱いのか、見せておこう」
どうやら、俺がリリィと契約をしたからか、リリィは俺のことを強者か何かだと勘違いしているらしい。なんか知らんが敬われているしな。
それなら、ここで俺の弱さをアピールしておこう。
多分、これからダンジョンを潜っていくにあたってリリィの力は必要になる。本当の危機に遭遇するよりも前に、俺の弱さを証明しておく必要があるだろう。
そうしないと、いざという時の反応が遅れるはずだ。俺を助ける反応が。
早くも俺は尊厳を失うのか。はぁ。
「もしも、というか、絶対に俺負けそうになるから颯爽と俺を助けに来てもらってもいいですか? 本当に。危ないと思った時にはもう手遅れなので、そこんところお願いします!」
「わ、分かりました。なぜそんな剣幕でおっしゃるのでしょう?」
「だって、見捨てられたら俺死んじゃうからな。頭くらいいくらでも下げるよ」
相手のモンスターは小柄ではないが、肉食獣という感じではない。なぶられても殺されることはないだろう。
それに、なんかリリィって最強とか言ってたしな。問題ないだろ。
俺はあえて音を大きく出して、猪のようなモンスターに向かい合った。当然、こちらが戦闘態勢を見せれば相手も戦闘の体勢に入る。
見つかったぁ。
というか、もしかして俺達のことには気づいていたのではないだろうか。戦う意思を見せなければ、黙って通してくれたかもしれない。
まぁ、目の前で突進に入る体制を取られた今となっては、もう遅いのだけれども。
「よ、よし、このくらいでいいだろ。リリィ、そろそろーーん?」
なんだろうか。モンスターを前にして何かの情報が頭に流れ込んできた。
まるで、アイテムを見つけたときと同じように『攻略本』が勝手に反応しているかのようだ。そして、頭には『モンスター攻略法』という文字が流れてきた。
な、なんだこれ? 『モンスター攻略法』?
その意味が分からないままでいると、そんな俺の考えなどお構いなしに猪のモンスターが突っ込んできた。慌てて視線をリリィに向けるが、リリィは特に動こうという様子を見せない。
え、まさかのスルーですか?
俺は急いで視線を猪のモンスターの方に向け直した。すると、先程の『モンスター攻略法』が勝手に頭に流れ込んできて、俺の行動を指示する。
何もしないと、俺はこのモンスターの突進を避けることはできない。そう考えた俺は、流れに任せるように『モンスター攻略法』に頼ることにした。
俺は体の動きをその『攻略法』に合わせるように、『攻略法』に体を任せるようにすることにした。むしろ、意識的に『モンスター攻略法』を発動させた。すると、何か脳の中でちかっと光のような物が見えた。
次の瞬間、体が勝手に動いていた。
無駄のない動きで短剣を引き抜くと、そのまま流れるように突進してくるモンスターに刃を向けた。攻撃をかわしながら、見切ったような体の使い方。そして、筋肉の流れに沿ったようにモンスターに当てられた刃は抵抗なくモンスターの体を切り裂いた。
ほんの数秒の出来事。短剣から血を払って鞘に納めた俺の後ろには、一太刀で切られて倒れているモンスターがいた。
「さすがです、京也様」
「……え?」
え、俺がやったのか?
いや、俺がどうやって? ていうか、俺って戦闘に向かないハズレのギフト持ちだったはずだろ?
それがどうして、こんなにあっさりとモンスターを狩っているんだ?
そこでふと、先程頭に流れ込んできた情報について思い出した。
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