6 / 63
第6話 冒険者ギルドと借り
しおりを挟む「ギルドか。冒険者ギルドと商人ギルド、どっちに行くか迷うところだよな」
異世界アニメでは冒険者ギルドと、商人ギルドというのが存在した。その両方に登録をすると言うのもあるが、どちらに重きを置くかで物語が大きく変わっていく分岐点でもある。
「え、おっさんが登録するのは冒険者ギルドじゃないのか?」
ノエルは当たり前のような顔でそう言うと、きょとんと首を傾げた。それから、見えてきた街の中でも大き目な建物を指さす。
「というか、もうそっちに向かっちゃってるんだけど。ほら」
「おお、ここが冒険者ギルドか」
俺はノエルに指さされた建物を見上げてそんな感動の声を漏らした。
アニメなどで見たことのあるテンプレな感じの冒険者ギルド。ここに来る途中にレンガ造りの家や建物は見てきたが、その中でも冒険者ギルドと言われると特別な建物のような気がする。
俺は何度もアニメで見てきた冒険者ギルドを前に、興奮を隠しきれずにいた。
「まぁ、とりあえず、冒険者ギルドにも登録は必要だよな」
「ていうか、おっさん手ぶらだし、商人するのは無理なんじゃないのか?」
「……それもそうだな」
確かに、商人ギルドに登録するような主人公たちはみんなそれ専用のスキルを持っていた。それに対して、俺は『おっさん』というスキルがあるだけだ。
いくら便利なスキルだといっても、『おっさん』のスキルを使って商人になる未来は見えてこない。
身分証明を作るにはこっちの方がいいよな。
「じゃあ、入るぞ」
俺がそんなことを考えていると、ノエルが冒険者ギルドの扉を開けた。
すると、そこにはまた何度もアニメなどで見た冒険者ギルドの景色が広がっていた。
役所と居酒屋を併設しているような造りをしていて、依頼が張り出されている掲示板には冒険者と思われる男たちが群がっている。カウンターには制服を着た職員たちが数人いて、冒険者と何かの手続きをしていた。
「おおっ、マジでアニメの中みたいだ」
「おっさん、おっさん。こっち来てくれ。早く手続き済ませようぜ」
「ああ、そうだったな」
俺はノエルに案内されながら空いているカウンターへと向かった。俺たちがカウンターに近づいていくと、二十代くらいの女性が俺たちに営業スマイルを向けていた。
「こんにちは、今日はどのようなご用件ですか?」
「おっさんに冒険者ギルドのカードを発行して欲しいんだけど」
ノエルは冒険者ギルドのカウンターに両肘を乗せて前のめりになる。それから、くいっと俺のことを親指で指さした。
カウンターの女性はノエルの言葉を聞いて、視線を俺に向ける。
「冒険者ギルドへの新規加入ということでよろしいでしょうか?」
「はい。それでお願いします。身分証明が必要と言われまして」
「そうですね。冒険者ギルドから発行されるカードを持っていれば、それが身分証になりますから。それでは、簡単にご説明しますね」
カウンターの女性はそう言ってから、冒険者ギルドの役割と冒険者ランクについて説明をしてくれた。
冒険者ギルドの役割としては、アニメなんかと同じで魔物の討伐や素材の採取の依頼を発行する場所らしい。
冒険者のランクは八段階に分かれていて、上からS、A、B、C、D、E、F、Gのランクに分かれるとのこと。
そして、俺は一番下のGランクから始まるらしい。騎士団から冒険者になるなどのバックグラウンドがある人を除いて、基本的に一番下の冒険者ランクから始まるらしい。
それから、他にいくつか基本的な説明を受けて、手続きは順調に進んでいった。
「それでは、最後に入会費ですね」
「入会費……入会費?」
手続きを終えて冒険者カードが発行される寸前までいってから、俺はそんな女性の言葉を聞いて顔を引きつらせる。
それから、ポケットをがさごそと探して見るが、当然そこには都合よくお金が入っているようなことはなかった。
そうだよな。こっちに転移したときに初めに確認したし、お金を持っていたとしても日本の金しか持っていない。
俺が笑って誤魔化そうとしていると、それに気づいたノエルが俺の顔を覗き込んできた。
「おっさん、どうしたんだ?」
「いや、その、田舎から出てくるまでの間に色々あってな、無一文なんだよ」
俺がノエルにだけ聞こえるようにそう言うと、ノエルはマジかよと言って眉を下げた。それから、ノエルは小さくため息を吐いた。
「仕方ないか。おっさん、うちがお金貸してやるよ」
「え? いいのか?」
「おっさんには助けられたしな。このくらい、当たり前だろ?」
ノエルはそう言うと、俺の代わりに財布を取り出して金をカウンターにいる女性に渡した。
女性は一瞬躊躇って俺をちらっと見てから、ノエルから渡されたお金と引き換えに冒険者カードを俺に手渡す。
……いいのだろうか。アラフォーのおっさんが小学生くらいの子供にお金を借りてしまって。
俺はじっと発行されたばかりのギルドカードを見ながら、そんなことを考えてしまった。
「さ、さすがに、子供にお金を借りたままにはできん」
普通に大人としてマズいだろ!
俺は頭を横にブンブンと振ってから、冒険者ギルドの入会の手続きをしてくれた女性に尋ねる。
「あの、すぐにできる依頼とかないですか? できれば、入会費を返せるくらいの報酬の奴がいいんですけど」
俺がそう言うと、職員の女性はいくつかの依頼書を持ってきてくれた。
持ってきてはくれたのだが……まるで文字が読めないぞ。
「えっと、この場合は翻訳家の力を使えばいいのか?」
『おっさんスキル発動:おっさん翻訳家』
そんな声が脳内に聞こえてきたと思った次の瞬間、依頼書に書かれている言葉がスラスラと読めるようになった。
うん。これなら依頼の内容が分かるな。
「おっさん、おっさん。うちも一緒に行っていい?」
「え? ノエルは待っていてくれていいんだけど」
「いいや、うちも一緒に行きたい」
俺が断ろうとすると、ノエルは首を横に振ってから真剣な眼差しを俺に向けてきた。
何をそんなに真剣になっているんだと思ったところで、俺はノエルが真剣になっている理由に気がついた。
これって、俺がお金を返さずに逃げると思っているから、逃がさないために同伴したいってことか?
確かに、このまま俺がとんずらする可能性もあるわけだしな。
「すまないな、ノエル。一緒に来てくれ」
ここで無理にノエルを置いていく方が怪しまれるだろう。そう考えて言うと、ノエルはニカッと笑ってからサムズアップした。
「うちが案内してやるから、安心してくれ! おっさん方向音痴だもんな!」
……どうやら、ノエルが心配していたことは俺が想像していたことと全く違っていたらしい。
そんなことがあって、俺はノエルと共に異世界にきて初めての依頼を受けることになるのだった。
126
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる