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第13話 初めての魔物との戦い
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「倒すって、私たち二人でですか?」
魔物に襲われて引き返すように言われた馬車の中で、アリスさんは考え事をしていた顔を上げると、真剣な顔でそんなことを口にした。
「うん。サーベルウルフの話はおじいちゃんから聞いたことあるけど、そんな凄い魔物じゃなかった気がするもん」
私は魔物についての知識がほぼゼロの状態だ。おじいちゃんの昔の話を聞いたこともあるけど、あまり魔物と戦った話は聞いていない気がする。
そうなると、この状況的にもアリスさんの意見の方が正しいのかもしれない。
でも、それだと馬車の中の人達の反応と随分違うことになる。
それに、血相を変えていた冒険者の男の人の反応から見て、穏やかではない状況なのは確かだった。
「ここは、冒険者さんたちの指示に従った方がいいんじゃないですか?」
「そうなんだけどさ。……また引き返して、馬車に長時間乗るのも嫌じゃない?」
「そ、それは確かにそうですね」
ここまで来るのにも結構時間がかかった。どこまで引き返すのか分からないし、今度はもっと時間がかかるかもしれない。
「無理だったら、すぐに逃げれば大丈夫だと思う。それに、私の正体を忘れたわけじゃないでしょ」
アリスさんはそう言うと、胸を反らしてドヤ顔混じりの笑みを見せてきた。
そう、アリスさんは宮廷魔術師だったおじいちゃんと同じ魔法を使うことができる、ホムンクルス。
おじいちゃんが簡単に勝てたのなら、アリスさんがいれば勝てるかもしれない。
そして、それ以上に私は少し嬉しくなっていた。
おじいちゃんが生きていたころによくしてくれた表情。それをまた見ることができて、私は胸の奥の方が少しだけ温かくなっていた。
久しぶりに見たようなそんな表情を見せられて、私は懐かしさを感じながら口元を緩めてしまった。
そして、またこの顔を曇らせたくないという気持ちから、私はアリスさんの提案を却下することができなくなってしまっていた。
こんな無邪気な顔で見つめられて、これだけ元気を取り戻したアリスさんを見て、この提案に首を拒否するなんてことできるはずがなかった。
「分かりました。私もできるだけお手伝いします」
「よっし、その意気だ! 行くよ、カエデ!」
「はいっ!」
私達は馬車の中で立ち上がると、引き返そうと止まっていた馬車から飛び降りた。
「え? ちょっ、ちょっと、危ないって!!」
後方に聞こえてきたのは、この馬車に引き返すようにと指示してきた冒険者の言葉だった。
それでも、私達はその言葉を聞こえないふりをしながら、他の冒険者たちが集まっている所に走っていった。
冒険者たちの集まっているところに近づいていくと、すぐに冒険者たちが対面している魔物の姿を捉えることができた。
「で、でっか」
「え、これ、本当に私達で倒せますか?」
サーベルウルフと言われる魔物は、動物園で見たサイを一回りくらい大きくした体をしていて、口の中に納まりきらなくなった牙を露にしていた。
太い手足から伸びる爪が地面を削っていて、冒険者たちをその爪と牙で威嚇をしていた。
こんな野生の動物をさらに凶暴にしたような動物を前に、小学生の年齢の私達が勝てる未来なんて見えるはずがなかった。
「ひっ」
「え? 子供?」
私が脅えて漏らした声に反応して、冒険者とサーベルウルフの目が一気に集まってしまった。
そして、私が作り出してしまった隙は、そのまま私達を襲う隙になってしまったみたいだった。
「マズい! そっちに行ったぞ!」
サーベルウルフは冒険者たちの包囲網を抜けて、一気に私達の方に突っ込んできた。そのスピードは獣のそれで、距離が離れていた私達の所まですぐにやってきそうだった。
「カエデ、準備して!」
「じゅ、準備?! な、なんのですか?!」
「私と同じイメージして! 今から言うことを頭の中でイメージして、それをサーベルウルフにぶつけるの!」
私は凄い勢いでこちらに向かっているサーベルウルフの姿が怖くて、顔を伏せながら、アリスさんと同じ方向に手のひらを向けて、アリスさんの言葉にだけ集中するようにした。
「水魔法の要領で大気の水をかき集めて、その水の塊の温度を一気に冷やして、尖った氷を作って! そしたら、それをサーベルウルフにぶつけるイメージで、手のひらから発射させるの! 『アイスウェポン』」
「水をかき集めて……温度を一気に冷やして……」
私はアリスさんからの言葉をそのままイメージに繋げるようにしながら、想像を膨らませた。
大気にある水をかき集めて、かき集めて、かき集めて……それの温度を一気に下げて、鋭利な氷の塊を作るように……
何かが凍るようなビキビキッという大きな音が聞こえてきた気がするけど、これも氷が固まることをイメージしているから、そんな音が聞こえている気がするだけなのだろう。
そんなことを考えながら、私はひたすらに大きな氷の塊をイメージし続けた。
「で、できたと思います! 『アイスウェポン』」
「よっし、それじゃあ、それを発射――発射?」
「い、行きます!」
私はアリスさんの言葉を受けて、一瞬だけ顔を上げてサーベルウルフの姿を捉えた。
あ、あれ? なんかサーベルウルフが足を止めている?
今がチャンスだと思って、そこに目がけて全力でその氷をぶつけるイメージで、私は氷の塊を投げつけた。
「えいっつ! え、あれ?」
私とアリスさんの手から発射された氷の塊はサーベルウルフめがけて、一直線に飛んでいった。
「ぎ、ギャァァ!!」
手のひらサイズの大きさの氷が複数と、サーベルウルフの体の半分ほどの大きさの氷の塊。そんな大きな氷の塊が飛んでくると思わなかったのだろう。サーベルウルフは取り乱したように慌てていたが、どうすることもできずに、その大きな氷の下敷きになってしまった。
少しやり過ぎたような魔法。
そして、なぜか冒険者とアリスさんが驚いたような顔で私を見つめていた。
「えっと……アリスさんって、結構容赦ないんです、ね?」
「あのでかい氷はカエデだからね!」
何とか誤魔化そうとしたけれど、当然誤魔化しきれるはずがなかった。
どうしよう……冒険者さん達が凄いこっち見てきてる。
どうやら、また私は魔力を込め過ぎてしまったらしかった。
こうして、私達はサーベルウルフの討伐を無事に完了したのだった。
魔物に襲われて引き返すように言われた馬車の中で、アリスさんは考え事をしていた顔を上げると、真剣な顔でそんなことを口にした。
「うん。サーベルウルフの話はおじいちゃんから聞いたことあるけど、そんな凄い魔物じゃなかった気がするもん」
私は魔物についての知識がほぼゼロの状態だ。おじいちゃんの昔の話を聞いたこともあるけど、あまり魔物と戦った話は聞いていない気がする。
そうなると、この状況的にもアリスさんの意見の方が正しいのかもしれない。
でも、それだと馬車の中の人達の反応と随分違うことになる。
それに、血相を変えていた冒険者の男の人の反応から見て、穏やかではない状況なのは確かだった。
「ここは、冒険者さんたちの指示に従った方がいいんじゃないですか?」
「そうなんだけどさ。……また引き返して、馬車に長時間乗るのも嫌じゃない?」
「そ、それは確かにそうですね」
ここまで来るのにも結構時間がかかった。どこまで引き返すのか分からないし、今度はもっと時間がかかるかもしれない。
「無理だったら、すぐに逃げれば大丈夫だと思う。それに、私の正体を忘れたわけじゃないでしょ」
アリスさんはそう言うと、胸を反らしてドヤ顔混じりの笑みを見せてきた。
そう、アリスさんは宮廷魔術師だったおじいちゃんと同じ魔法を使うことができる、ホムンクルス。
おじいちゃんが簡単に勝てたのなら、アリスさんがいれば勝てるかもしれない。
そして、それ以上に私は少し嬉しくなっていた。
おじいちゃんが生きていたころによくしてくれた表情。それをまた見ることができて、私は胸の奥の方が少しだけ温かくなっていた。
久しぶりに見たようなそんな表情を見せられて、私は懐かしさを感じながら口元を緩めてしまった。
そして、またこの顔を曇らせたくないという気持ちから、私はアリスさんの提案を却下することができなくなってしまっていた。
こんな無邪気な顔で見つめられて、これだけ元気を取り戻したアリスさんを見て、この提案に首を拒否するなんてことできるはずがなかった。
「分かりました。私もできるだけお手伝いします」
「よっし、その意気だ! 行くよ、カエデ!」
「はいっ!」
私達は馬車の中で立ち上がると、引き返そうと止まっていた馬車から飛び降りた。
「え? ちょっ、ちょっと、危ないって!!」
後方に聞こえてきたのは、この馬車に引き返すようにと指示してきた冒険者の言葉だった。
それでも、私達はその言葉を聞こえないふりをしながら、他の冒険者たちが集まっている所に走っていった。
冒険者たちの集まっているところに近づいていくと、すぐに冒険者たちが対面している魔物の姿を捉えることができた。
「で、でっか」
「え、これ、本当に私達で倒せますか?」
サーベルウルフと言われる魔物は、動物園で見たサイを一回りくらい大きくした体をしていて、口の中に納まりきらなくなった牙を露にしていた。
太い手足から伸びる爪が地面を削っていて、冒険者たちをその爪と牙で威嚇をしていた。
こんな野生の動物をさらに凶暴にしたような動物を前に、小学生の年齢の私達が勝てる未来なんて見えるはずがなかった。
「ひっ」
「え? 子供?」
私が脅えて漏らした声に反応して、冒険者とサーベルウルフの目が一気に集まってしまった。
そして、私が作り出してしまった隙は、そのまま私達を襲う隙になってしまったみたいだった。
「マズい! そっちに行ったぞ!」
サーベルウルフは冒険者たちの包囲網を抜けて、一気に私達の方に突っ込んできた。そのスピードは獣のそれで、距離が離れていた私達の所まですぐにやってきそうだった。
「カエデ、準備して!」
「じゅ、準備?! な、なんのですか?!」
「私と同じイメージして! 今から言うことを頭の中でイメージして、それをサーベルウルフにぶつけるの!」
私は凄い勢いでこちらに向かっているサーベルウルフの姿が怖くて、顔を伏せながら、アリスさんと同じ方向に手のひらを向けて、アリスさんの言葉にだけ集中するようにした。
「水魔法の要領で大気の水をかき集めて、その水の塊の温度を一気に冷やして、尖った氷を作って! そしたら、それをサーベルウルフにぶつけるイメージで、手のひらから発射させるの! 『アイスウェポン』」
「水をかき集めて……温度を一気に冷やして……」
私はアリスさんからの言葉をそのままイメージに繋げるようにしながら、想像を膨らませた。
大気にある水をかき集めて、かき集めて、かき集めて……それの温度を一気に下げて、鋭利な氷の塊を作るように……
何かが凍るようなビキビキッという大きな音が聞こえてきた気がするけど、これも氷が固まることをイメージしているから、そんな音が聞こえている気がするだけなのだろう。
そんなことを考えながら、私はひたすらに大きな氷の塊をイメージし続けた。
「で、できたと思います! 『アイスウェポン』」
「よっし、それじゃあ、それを発射――発射?」
「い、行きます!」
私はアリスさんの言葉を受けて、一瞬だけ顔を上げてサーベルウルフの姿を捉えた。
あ、あれ? なんかサーベルウルフが足を止めている?
今がチャンスだと思って、そこに目がけて全力でその氷をぶつけるイメージで、私は氷の塊を投げつけた。
「えいっつ! え、あれ?」
私とアリスさんの手から発射された氷の塊はサーベルウルフめがけて、一直線に飛んでいった。
「ぎ、ギャァァ!!」
手のひらサイズの大きさの氷が複数と、サーベルウルフの体の半分ほどの大きさの氷の塊。そんな大きな氷の塊が飛んでくると思わなかったのだろう。サーベルウルフは取り乱したように慌てていたが、どうすることもできずに、その大きな氷の下敷きになってしまった。
少しやり過ぎたような魔法。
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「えっと……アリスさんって、結構容赦ないんです、ね?」
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