おじいちゃんの汚名を払拭、最強姉妹の冒険記録~長所がなかったはずの私の長所は膨大な魔力量?!~

荒井竜馬

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第5話 私の才能

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「オラルさんの数倍の魔力が、私にーー」

「おじいちゃんじゃ」

「お、おじいちゃんの数倍の魔力量が私にあるって、本当ですか?」

 異世界に来て一日も経たずして、私は魔法が使えるようになった。

 その理由というのが、私には膨大な魔力があるとのことらしいんだけど、そんなことを言われても信じられるはずがなかった。

「でも、私ずっと魔法なんて使ったことなかったし、普通の女の子でしたよ?」

 魔法に憧れてはいた。でも、実際に魔法を使ったのは今日が初めてで、魔法を使えた自分に対して驚いているくらい自覚がなかった。

「そりゃあ、魔法を使うための概念がないのなら仕方があるまい。……もしくは、魔素が限りなくゼロの環境だと、回復手段がないから体が魔法を使えないようにしていていたのかもーー」

「おじいちゃん、もっと分かりやすく教えて」

「ああ、すまんすまん」

 オラルさんは自分の世界に入り込んだように、ぶつぶつと独り言みたいな言葉を呟いていた。

 話し始めてすぐに会話に置いていかれそうになっていた私に気遣って、アリスさんがそんなことを言うと、オラルさんははっとしたように一人の世界から戻ってきてくれた。

 何か考えこんでいると凄い貫禄が出るのに、アリスさんや私に話しかけられると、すぐに破顔したように顔を緩めてしまう。

 やっぱり、元宮廷魔術師というだけあって、考えこむと学者さんみたいに聡明な顔つきになる。

 私達と話しているときは、どこにでもいるおじいちゃんみたいになるのに、本当は凄い人なんだなと思ってしまう。

「分かりやすくいうと、魔法の力が存在しない世界にいたから、カエデちゃんは自分の魔力量の多さに気づけなかったんじゃ」

「初めて使った生活魔法であの出力って、カエデって魔法の才能凄いかもしれないよ?」

「ほ、本当ですか?」

 私は特に得意なことというのがなかった。

 運動も得意というほどではないし、勉強だってそこまで出来る方ではない。唯一、料理はお母さんのお手伝いをしていたから、少しできるくらい。

 だから、特に誇れるものがないのが私の悩みでもあったのだ。

 でも、本当は私にも誰かに誇れるようなものがあったんだ。

気づかないだけで、気づけなかっただけで、私だけの才能と呼べるものが。

「あの、もっと魔法教えてもらってもいいですか?」

 それに気づいた時、少しだけ世界が煌めいているように私の目には映った。少しのコンプレックスが払拭されたような感覚。

 世界ではなくて、世界を見る私の心が微かに変わったような気がした。

 そんな私の表情は分かりやすかったのだろう。

 アリスさんは私の顔を見て、嬉しそうに口元を緩めていた。

「もちろん。ふふっ、お姉さんに任せなさーーくちゅんっ」

 アリスさんは少しだけ大人びたような笑みを浮かべようとして、可愛らしいくしゃみを一つした。

 それから、恥ずかしそうに鼻をすすると、その恥ずかしさをそのままにして顔をそっと背けてしまった。

 大人っぽく見せようとしたのに示しがつかなくなったみたいで、それを隠そうとする所作には、言葉で言い表せないような可愛さがあった。

「とりあえず、二人とも服を乾かしてからにしなさい。あと、魔法は明日からの方が良いじゃろ。今日は街に下りて、カエデちゃんの必要な物を色々揃えなくてはな」

「え、そ、そんな悪いですよ」

「何を言うか、おじいちゃんは孫に何かを買え与えることに幸せを感じるのじゃぞ。遠慮はいらんよ。その代わり喜んでもらえると、おじいちゃんは嬉しいぞ」

 オラルさんはそんなことを言うと、私の顔を覗き込んで笑みを浮かべていた。

 咄嗟に遠慮してしまったが、私に気を遣わせないような返答をされてしまい、私はなんて言葉を返したらいいのか分からなくなってしまった。

「そうだよ、あんまり遠慮しないの。それに、カエデだって、ずっとその服一枚で過ごすのは無理でしょ?」

「た、確かに服は何着か欲しいですね」

 今だって着ている服はびしょびしょだし、できれば次の日は違う服を着たい。欲を言えば、寝巻とか下着だって欲しい。

 本当にいいのかなと思って、ちらりとオラルさんの方に視線を向けると、オラルさんは得意げな笑みを浮かべて言葉を続けた。

「おじいちゃんは元宮廷魔術師じゃから、お金はたんまりあるぞ」

 そう言われてよく建てられている家とか、二人が着ている服とかを見てみると、確かにお金がないようには見えなかった。

 家だって大きいし、着ている服も肌触りがよさそうだ。

「それに、今日は新しい家族の歓迎会じゃ。美味しいものも買ってパーティーするぞ! パーティーじゃ、パーティー!」

「やった! カエデ、今日は多分良いお肉だよ! やったね!」

 遠慮しようとする私の前で、軽い小躍りでもするかのように高くなったテンションの二人。

 そんな二人のテンションに笑いが抑えられなくなって、私はくすりと笑みを漏らしていた。

「やっと笑ったね、カエデ」

「え? ……あっ」

 そう言われて、こちらの世界に来てから表情が硬くなっていたことに気がついた。

 アリスさんに大人びた笑みを向けられて、私は二人が陽気に振舞っていてくれたことの意味が分かったような気がした。

 もしかして、二人は私のために、あえて明るくーー

「よっし、服乾かして街に繰り出すぞ! お日様が出ているうちからお酒を飲むんじゃーー!!」

「私もジュース飲みたい! 甘くておいしいやつ!」

「あ、あれ?」

 二人は私を笑わせた後も、上がったテンションそのままにしていた。

 気を遣ってくれていたのかと思っていたけど、単純に二人のテンションが上がっていただけなのかもしれない。

「カエデ、早く服乾かして街に行くよ!」

「あっ、はい!」

 私はアリスさんに促されるようにその場を後にして、服を乾かして街へと繰り出すことになったのだった。


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