5 / 21
第5話 私の才能
しおりを挟む
「オラルさんの数倍の魔力が、私にーー」
「おじいちゃんじゃ」
「お、おじいちゃんの数倍の魔力量が私にあるって、本当ですか?」
異世界に来て一日も経たずして、私は魔法が使えるようになった。
その理由というのが、私には膨大な魔力があるとのことらしいんだけど、そんなことを言われても信じられるはずがなかった。
「でも、私ずっと魔法なんて使ったことなかったし、普通の女の子でしたよ?」
魔法に憧れてはいた。でも、実際に魔法を使ったのは今日が初めてで、魔法を使えた自分に対して驚いているくらい自覚がなかった。
「そりゃあ、魔法を使うための概念がないのなら仕方があるまい。……もしくは、魔素が限りなくゼロの環境だと、回復手段がないから体が魔法を使えないようにしていていたのかもーー」
「おじいちゃん、もっと分かりやすく教えて」
「ああ、すまんすまん」
オラルさんは自分の世界に入り込んだように、ぶつぶつと独り言みたいな言葉を呟いていた。
話し始めてすぐに会話に置いていかれそうになっていた私に気遣って、アリスさんがそんなことを言うと、オラルさんははっとしたように一人の世界から戻ってきてくれた。
何か考えこんでいると凄い貫禄が出るのに、アリスさんや私に話しかけられると、すぐに破顔したように顔を緩めてしまう。
やっぱり、元宮廷魔術師というだけあって、考えこむと学者さんみたいに聡明な顔つきになる。
私達と話しているときは、どこにでもいるおじいちゃんみたいになるのに、本当は凄い人なんだなと思ってしまう。
「分かりやすくいうと、魔法の力が存在しない世界にいたから、カエデちゃんは自分の魔力量の多さに気づけなかったんじゃ」
「初めて使った生活魔法であの出力って、カエデって魔法の才能凄いかもしれないよ?」
「ほ、本当ですか?」
私は特に得意なことというのがなかった。
運動も得意というほどではないし、勉強だってそこまで出来る方ではない。唯一、料理はお母さんのお手伝いをしていたから、少しできるくらい。
だから、特に誇れるものがないのが私の悩みでもあったのだ。
でも、本当は私にも誰かに誇れるようなものがあったんだ。
気づかないだけで、気づけなかっただけで、私だけの才能と呼べるものが。
「あの、もっと魔法教えてもらってもいいですか?」
それに気づいた時、少しだけ世界が煌めいているように私の目には映った。少しのコンプレックスが払拭されたような感覚。
世界ではなくて、世界を見る私の心が微かに変わったような気がした。
そんな私の表情は分かりやすかったのだろう。
アリスさんは私の顔を見て、嬉しそうに口元を緩めていた。
「もちろん。ふふっ、お姉さんに任せなさーーくちゅんっ」
アリスさんは少しだけ大人びたような笑みを浮かべようとして、可愛らしいくしゃみを一つした。
それから、恥ずかしそうに鼻をすすると、その恥ずかしさをそのままにして顔をそっと背けてしまった。
大人っぽく見せようとしたのに示しがつかなくなったみたいで、それを隠そうとする所作には、言葉で言い表せないような可愛さがあった。
「とりあえず、二人とも服を乾かしてからにしなさい。あと、魔法は明日からの方が良いじゃろ。今日は街に下りて、カエデちゃんの必要な物を色々揃えなくてはな」
「え、そ、そんな悪いですよ」
「何を言うか、おじいちゃんは孫に何かを買え与えることに幸せを感じるのじゃぞ。遠慮はいらんよ。その代わり喜んでもらえると、おじいちゃんは嬉しいぞ」
オラルさんはそんなことを言うと、私の顔を覗き込んで笑みを浮かべていた。
咄嗟に遠慮してしまったが、私に気を遣わせないような返答をされてしまい、私はなんて言葉を返したらいいのか分からなくなってしまった。
「そうだよ、あんまり遠慮しないの。それに、カエデだって、ずっとその服一枚で過ごすのは無理でしょ?」
「た、確かに服は何着か欲しいですね」
今だって着ている服はびしょびしょだし、できれば次の日は違う服を着たい。欲を言えば、寝巻とか下着だって欲しい。
本当にいいのかなと思って、ちらりとオラルさんの方に視線を向けると、オラルさんは得意げな笑みを浮かべて言葉を続けた。
「おじいちゃんは元宮廷魔術師じゃから、お金はたんまりあるぞ」
そう言われてよく建てられている家とか、二人が着ている服とかを見てみると、確かにお金がないようには見えなかった。
家だって大きいし、着ている服も肌触りがよさそうだ。
「それに、今日は新しい家族の歓迎会じゃ。美味しいものも買ってパーティーするぞ! パーティーじゃ、パーティー!」
「やった! カエデ、今日は多分良いお肉だよ! やったね!」
遠慮しようとする私の前で、軽い小躍りでもするかのように高くなったテンションの二人。
そんな二人のテンションに笑いが抑えられなくなって、私はくすりと笑みを漏らしていた。
「やっと笑ったね、カエデ」
「え? ……あっ」
そう言われて、こちらの世界に来てから表情が硬くなっていたことに気がついた。
アリスさんに大人びた笑みを向けられて、私は二人が陽気に振舞っていてくれたことの意味が分かったような気がした。
もしかして、二人は私のために、あえて明るくーー
「よっし、服乾かして街に繰り出すぞ! お日様が出ているうちからお酒を飲むんじゃーー!!」
「私もジュース飲みたい! 甘くておいしいやつ!」
「あ、あれ?」
二人は私を笑わせた後も、上がったテンションそのままにしていた。
気を遣ってくれていたのかと思っていたけど、単純に二人のテンションが上がっていただけなのかもしれない。
「カエデ、早く服乾かして街に行くよ!」
「あっ、はい!」
私はアリスさんに促されるようにその場を後にして、服を乾かして街へと繰り出すことになったのだった。
「おじいちゃんじゃ」
「お、おじいちゃんの数倍の魔力量が私にあるって、本当ですか?」
異世界に来て一日も経たずして、私は魔法が使えるようになった。
その理由というのが、私には膨大な魔力があるとのことらしいんだけど、そんなことを言われても信じられるはずがなかった。
「でも、私ずっと魔法なんて使ったことなかったし、普通の女の子でしたよ?」
魔法に憧れてはいた。でも、実際に魔法を使ったのは今日が初めてで、魔法を使えた自分に対して驚いているくらい自覚がなかった。
「そりゃあ、魔法を使うための概念がないのなら仕方があるまい。……もしくは、魔素が限りなくゼロの環境だと、回復手段がないから体が魔法を使えないようにしていていたのかもーー」
「おじいちゃん、もっと分かりやすく教えて」
「ああ、すまんすまん」
オラルさんは自分の世界に入り込んだように、ぶつぶつと独り言みたいな言葉を呟いていた。
話し始めてすぐに会話に置いていかれそうになっていた私に気遣って、アリスさんがそんなことを言うと、オラルさんははっとしたように一人の世界から戻ってきてくれた。
何か考えこんでいると凄い貫禄が出るのに、アリスさんや私に話しかけられると、すぐに破顔したように顔を緩めてしまう。
やっぱり、元宮廷魔術師というだけあって、考えこむと学者さんみたいに聡明な顔つきになる。
私達と話しているときは、どこにでもいるおじいちゃんみたいになるのに、本当は凄い人なんだなと思ってしまう。
「分かりやすくいうと、魔法の力が存在しない世界にいたから、カエデちゃんは自分の魔力量の多さに気づけなかったんじゃ」
「初めて使った生活魔法であの出力って、カエデって魔法の才能凄いかもしれないよ?」
「ほ、本当ですか?」
私は特に得意なことというのがなかった。
運動も得意というほどではないし、勉強だってそこまで出来る方ではない。唯一、料理はお母さんのお手伝いをしていたから、少しできるくらい。
だから、特に誇れるものがないのが私の悩みでもあったのだ。
でも、本当は私にも誰かに誇れるようなものがあったんだ。
気づかないだけで、気づけなかっただけで、私だけの才能と呼べるものが。
「あの、もっと魔法教えてもらってもいいですか?」
それに気づいた時、少しだけ世界が煌めいているように私の目には映った。少しのコンプレックスが払拭されたような感覚。
世界ではなくて、世界を見る私の心が微かに変わったような気がした。
そんな私の表情は分かりやすかったのだろう。
アリスさんは私の顔を見て、嬉しそうに口元を緩めていた。
「もちろん。ふふっ、お姉さんに任せなさーーくちゅんっ」
アリスさんは少しだけ大人びたような笑みを浮かべようとして、可愛らしいくしゃみを一つした。
それから、恥ずかしそうに鼻をすすると、その恥ずかしさをそのままにして顔をそっと背けてしまった。
大人っぽく見せようとしたのに示しがつかなくなったみたいで、それを隠そうとする所作には、言葉で言い表せないような可愛さがあった。
「とりあえず、二人とも服を乾かしてからにしなさい。あと、魔法は明日からの方が良いじゃろ。今日は街に下りて、カエデちゃんの必要な物を色々揃えなくてはな」
「え、そ、そんな悪いですよ」
「何を言うか、おじいちゃんは孫に何かを買え与えることに幸せを感じるのじゃぞ。遠慮はいらんよ。その代わり喜んでもらえると、おじいちゃんは嬉しいぞ」
オラルさんはそんなことを言うと、私の顔を覗き込んで笑みを浮かべていた。
咄嗟に遠慮してしまったが、私に気を遣わせないような返答をされてしまい、私はなんて言葉を返したらいいのか分からなくなってしまった。
「そうだよ、あんまり遠慮しないの。それに、カエデだって、ずっとその服一枚で過ごすのは無理でしょ?」
「た、確かに服は何着か欲しいですね」
今だって着ている服はびしょびしょだし、できれば次の日は違う服を着たい。欲を言えば、寝巻とか下着だって欲しい。
本当にいいのかなと思って、ちらりとオラルさんの方に視線を向けると、オラルさんは得意げな笑みを浮かべて言葉を続けた。
「おじいちゃんは元宮廷魔術師じゃから、お金はたんまりあるぞ」
そう言われてよく建てられている家とか、二人が着ている服とかを見てみると、確かにお金がないようには見えなかった。
家だって大きいし、着ている服も肌触りがよさそうだ。
「それに、今日は新しい家族の歓迎会じゃ。美味しいものも買ってパーティーするぞ! パーティーじゃ、パーティー!」
「やった! カエデ、今日は多分良いお肉だよ! やったね!」
遠慮しようとする私の前で、軽い小躍りでもするかのように高くなったテンションの二人。
そんな二人のテンションに笑いが抑えられなくなって、私はくすりと笑みを漏らしていた。
「やっと笑ったね、カエデ」
「え? ……あっ」
そう言われて、こちらの世界に来てから表情が硬くなっていたことに気がついた。
アリスさんに大人びた笑みを向けられて、私は二人が陽気に振舞っていてくれたことの意味が分かったような気がした。
もしかして、二人は私のために、あえて明るくーー
「よっし、服乾かして街に繰り出すぞ! お日様が出ているうちからお酒を飲むんじゃーー!!」
「私もジュース飲みたい! 甘くておいしいやつ!」
「あ、あれ?」
二人は私を笑わせた後も、上がったテンションそのままにしていた。
気を遣ってくれていたのかと思っていたけど、単純に二人のテンションが上がっていただけなのかもしれない。
「カエデ、早く服乾かして街に行くよ!」
「あっ、はい!」
私はアリスさんに促されるようにその場を後にして、服を乾かして街へと繰り出すことになったのだった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説


村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
魔法使いアルル
かのん
児童書・童話
今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。
これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。
だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。
孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。
ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる