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第3話 アリスの正体

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「別に、私寂しいなんて言ってないもん。そんなに子供でもないし」

「そうは言っても、同い歳くらいの話し相手は欲しかったじゃろ」

「それは……そうだけどさぁ」

 アリスさんは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、こちらから顔を背けてしまった。

 そんな素直ではないアリスさんの様子を見て、オラルさんは頬を緩ませて笑みを浮かべた。

「えっと、それじゃあ、特に世界の危機を救うために呼ばれたとかでは、ないってことですか?」

「ん? なぜ世界の危機を救うために、異世界人を呼ばねばならんのだ?」

「わ、私の世界ではそれがお決まりだったので。あくまで、作り話の世界ですけど」

 オラルさんはきょとんと首を傾げて、本気で私の言っている意味が分からないといったような反応をしていた。

 そんな純粋に尋ねられると、確かにわざわざ異世界人を呼び意味なんてないよねって、思ってしまう。

 異世界に行くと、なんか凄い力を貰えたりするんだけど、あれはアニメの中の話であって、実際にはないのかもしれない。

 そうだよね、冷静に考えれば訳分からないもんね。

「この家で、ワシたちと一緒に過ごして欲しい。ただそれだけじゃ。……嫌だったかな?」

「いえ、そんな! 助けてもらっただけでも、ありがたいのに、そんな自由も与えてもらえて、嫌なわけがありません」

 命を救ってもらっておいて、ただ一緒に生活するだけでいいなんてかなり好待遇過ぎる。

 不満になんて思っていないことを告げようと、慌てたように返答してしまった私を見て、アリスさんが小さな笑みを浮かべていた。

「そんなに恐縮しないでいいよ。おじいちゃん、孫が好きなんだって。孫に囲まれて過ごしたいからっていう理由で、私を造るくらいだし」

「造る?」

 孫って出来るものであって、造るようなものではない気がする。

 アリスさんの言っている意味が分からずに首を傾げていると、アリスさんはオラルさんの方にちらりと視線を向けて、言葉を続けた。

「おじいちゃん、カエデには本当のこと言っておいていいでしょ?」

「そうじゃな。なんせ、カエデちゃんはワシたちの家族だからの」

「本当のこと?」

 何やら二人の間で交わされている会話に置いていかれているみたいだった。

 私が不思議そうに二人の会話をする様子を眺めていると、アリスさんは小さく咳ばらいを一つした後に言葉を続けた。

「うん。私、実はホムンクルスなんだよね」

「ホムンクルス……え、ホムンクルスって、あのホムンクルスですか?」

 ホムンクルス。前に、何かの漫画かアニメで観たことがあった。

 人間によって造られた人造人間的な存在だったと思う。

 でも、あれ? こんなに可愛い容姿をしているし、普通の女の子にしか見えないよね。

 だって、ほっぺもぷにぷにだっただし。……ぷにぷにだったし。

「えへへ、驚いたでしょ。まぁ、ほとんど人と一緒なんだけどね。違うのは、ここの造りと身体的な機能かな」

 アリスさんはそう言うと、自分の頭を人差し指でとんとんと軽く叩いていた。そして、私の方に少し口元を緩ませながら、アリスさんは言葉を続けた。

「おじいちゃんの使える魔法が全部使える理由が、私がホムンクルスだからなんだよ。さすがに、十二歳の女の子が宮廷魔術師が使える魔法をすべて覚えるってのは、無理があるでしょ?」

 そんなことを話すアリスさんの自慢げな笑みの中に、少しだけ不安の色が見えたような気がした。

気のせいか、頭に置いてある指先が微かに震えているよう見える。

 どうしたんだろ?

 そんなことを考えながら、私はアリスさんの話を聞いて、心から思ったような言葉が自然と口から漏れ出ていた。

「魔法、使えるんですよね。いいなぁ……」

 ただ純粋に羨むのような口調。

 アニメとかを見て、アニメに出てくるキャラクターが魔法を使えるのが羨ましかった。その力を使って、人々を守ったりする姿に感動していたのを覚えている。

 だから、同世代くらいの女の子が魔法が使えるってきいて、単純に羨ましいなって思ってしまった。

「私がホムンクルスだって聞いて、初めに出る言葉がそれ?」

 アリスさんは目をぱちくりとさせてそんな言葉を漏らしていた。

 ホムンクルスという凄い存在を前にしているのに、反応が薄かったかもしれない。

そうだ、せっかく教えてくれたのに、薄い反応だとつまらないかもしれない。

 それに、もっと他に驚くべきことだってあるはずだ。

「あ、ごめんなさい。えっと、凄いですね! 宮廷魔術師と同等なんて!」

「……いい子だね、カエデって」

「え? そうですかね?」

 アリスさんは優しい目で私を見つめると、今度はそんな言葉を口にした。その瞳が微かに潤いを増しているような気がしたが、私は優しく笑うアリスさんの表情に目を奪われてしまっていた。

 なんで急に褒められたのだろう? 反応が良かったからかな?

「そんなに魔法使えるのが羨ましいなら、教えてあげようか?」

「え?! いいんですか?」

「うん、教えてあげる。私、お姉さんだしね」

 そんなことを言っていたアリスさんの顔には、先程感じたような不安の色が姿を消しているように見えた。

 誇らしげな笑みを向けてきたアリスさんに手を引かれて、私はさっそくアリスさんに魔法を教わることになったのだった。
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