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第99話 私たちの魚料理

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「できました、これが私たちの料理です」

 お爺さんのお店の厨房を借りて作った魚料理が完成したので、私はそれをおぼんに乗せて店の机で待つお爺さんの所に持っていった。

 私が作った料理をお爺さんの前に持っていくと、そのお爺さんは感心したように声を漏らしていた。

「ほぉ……本当に初めて見る調味料だな。食欲を刺激される匂いだ」

 そのお爺さんの意見には同感しかない。

 おぼんで運んでいるときから、『異世界魚のあら汁』の味噌の香りと『ブリザカナ大根』の甘辛い香りに刺激されて、お腹の虫を押さえ込むのが大変だった。

 湯気によって運ばれたそれらの香りを嗅ぎながら、お爺さんは目を見開いたようにしながら私たちの料理をじっと見ていた。

 その視線はただ香りに当てられてお腹が減っているだけとは思えないくらい、真剣な表情をしているように思えた。

「どれ、それでは、これからいただこうか」

 お爺さんは三品を見定めるように見た後、『マグロザカナの鉄火丼』に手を伸ばしてそれをフォークでそれ口に運んだ。

 そして、その瞬間驚くように小さく声を漏らした。

「う、うまいっ。マグロザカナの身が、一段と引き締まった味になっている。……というか、なんだこの魚に妙に合う調味料は?」

「それは醤油という調味料を使用しています。今回はその調味料に漬けてみました」

 お爺さんの感動するような反応を見る限り、どうやら悪くない出来だったようだ。

 お爺さんはそのまま一口、もう一口と鉄火丼をかき込んで食べる手が止まらなくなっているようで、次々に口に鉄火丼を運んでいった。

 そうなんだよね。鉄火丼とかって身にしっかり味が付いてるから、すぐに白米をかき込みたくなって、今度はその白米に味が欲しくなって身をかき込む。そんな永遠ループの世界に誘い込まれる食べ物なのだ。

「こっちはどんな味がするんだ?」

 お爺さんはそう言うと、鉄火丼を食べてもぐもぐとさていた口の中を呑み込んでから、湯気が出ているあら汁の方に手を伸ばした。

 そして、少し匂いを嗅いだ後、それをそのまま口に運んだ。

「おおっ、何だこの奥深い味は……魚のあらから出ている旨味を、この味わい深い調味料が引き立てている。染みる味だな、これは」

「それは味噌という調味料を使った料理ですね」

 ただ味噌を溶かしただけなら味噌汁だが、そこに魚のあらが入ることで全く別の料理になる。

 魚介の旨味を煮詰めたような物を、コクが深い味噌が包み込んで優しく奥深い味に仕立て上げるのだ。

 魚料理のお供にぴったりの一品と言えるだろう。

「どれもうますぎるなっ……こっちはどんな味だ?」

 お爺さんは残る一品が気になったのか、すぐにその手を『ブリザカナ大根』に伸ばした。そして、それを口に運んだ瞬間に目を見開かせた。

「うまいな、これはっ……甘辛いソースがしっかりと染みていて、野菜にもブリザカナの旨味が染み込んでいる」

 お爺さんはそう言うと、『ブリザカナ大根』をおかずに『マグロザカナの鉄火丼』をかき込んでいた。

 そして、それをあら汁で流し込むという豪快な食べ方。見ているこちらが涎を垂らしそうになるような食べっぷり。

 私は生唾を呑み込んでその刺激された食欲を抑え込んでから、言葉を続けた。

「こんな感じの奴なら、作り置きしておけますから、すぐに提供もできると思います。どうですかね?」

 私がそう尋ねると、お爺さんは本来の目的を思い出したように体をぴくんとさせた後、からっとした笑みを向けてきた。

「まさか、噂の味がここまでとは思わなかった。ぜひこの店で作って欲しい。申し遅れた、この店の店主のドーナだ。よろしく頼むよ」

 そんなドーナさんの返答を受けて、私たちのちょっとした試験は幕を閉じたのだった。

 そして、それと同時に私とエルドさんのお腹の虫も同時に鳴ってしまった。

 ……今すぐ厨房に残してある分の料理を持ってこよう。

 こうして、試験が終わった私たちは自分たちの分をよそうために、厨房に戻っていたのだった。

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