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連載
第91話 ひっそりと食べる夕食
しおりを挟む私たちは店の人に許可を貰って、宿の外にアウトドアグッズを出してシキと一緒にご飯を食べることになった。
さすがに、店の前で堂々とアウトドアグッズを広げるわけにはいかないので、宿の陰に隠れるようにして机や椅子などを出して、そこにアジザカナの料理や炊き立てのお米などを広げたのだった。
ちょうど通りからは隠れる形になり、なんだか秘密基地感があって中々に悪くない空間だった。
エルドさんとシキのすぐ近くには、よく冷えている黄金色のお酒が準備されていたこともあって、少しだけ悪いことをしているような気分にもなる。
これから食べる物にかけられた調味料は、この世界の人からしたら未知の調味料だろし、変に注目されずにご飯を食べれるという今の環境はむしろいいかもしれない。
そんなことを考えながら、目の前に広がるアジザカナづくしの料理に目を向けた。
『アジザカナの刺身』、『アジザカナのなめろう』、『アジザカナのフライ』。
どれも凝った料理ではないかもしれないが、魔法で生成した調味料を活かした料理ということができると思う。
「これがアンの言っていた少し変わった醤油か? 色は……そんなに普通の醤油と変わらないよな」
「こっちの料理にかけられている調味料はなんだ? 少しとろみがあるぞ」
エルドさんもシキも初めて見る調味料に戸惑いながら、目の前に並ぶ料理を見て表情を緩めていた。
どんな調味料が使われているのか分からないけど、それでお美味しそうだと思ってくれているのだろう。
「それじゃあ、いただきましょうか」
私がそう言うと、エルドさんもシキも緩んでいた表情をそのままに、嬉しそうな顔をしながら各々料理に手を伸ばした。
どれ、初めは私もエルドさんと同じく『アジザカナの刺身』から頂こうかな。
私は『アジザカナの刺身』を一切れ取ると、小皿に分けてある『九州の甘口醤油』を少しだけつけて、それを口に運んだ。
「んんっ、これ、これですよ。美味しい……」
「うまっ! な、なんだこの少しとろみのあるような甘さは! なんでこんなに魚と合うんだ?!」
口の中に広がるのはとろりとした甘みと醤油のしょっぱさ。おそらく、この味が生魚の魚臭さを消しているのだろう。
そんな必要がないくらいにアジザカナが新鮮なため、魚の旨味を『九州の甘口醤油』のコク深さが相乗効果で高めることになっていた。
ちらりと隣を見ると、エルドさんは黄金色のお酒とその醤油の相性の良さに心を奪われかけているようだった。
そして、その反対側ではシキが『アジザカナのフライ』を食べて尻尾をぶんぶんと振っていた。
「なんなんだ、この調味料は! 魚を揚げた物との相性が抜群だ!」
どうやら、シキは初めて口にしたソースの美味しさに感動しているようだった。
興奮しながら『アジザカナのフライ』を食べる姿が気になって、私も『アジザカナのフライ』に手を伸ばして、それを口に運んでみた。
「あっ、美味しい。サクサクの衣に深みのあるソースが絡んでる」
サクッという音と共にじゅわっと少しの油が溢れてきて、そこに奥深い味をしているソースが追いかけてきて、淡白な味のアジザカナの身と絡まり合う。
多分、タルタルソースとかでも美味しいんだろうけど、この生成したソースは少しの酸味があって、揚げ物との相性が抜群に良いみたいだった。
どうやら、一品目も二品目も美味しく作れたみたいだ。
不意にエルドさんのほうにまた視線を向けると、エルドさんの視線は『アジザカナのなめろう』に向けられていた。
私はこれから『アジザカナのなめろう』を食べるエルドさんの反応を想像して、そっと口元を緩めたのだった。
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