フェンリルに育てられた転生幼女は『創作魔法』で異世界を満喫したい！

連載

第89話 少し変わった醤油

　ミルドに来てからの初めての宿は、厨房を貸してくれるところで値段も悪くない所に泊まることになった。

　他にも大きな宿などもあったのだが、個人店に近い宿の方が厨房も自由に使わせてもらえるだろうということで、少しだけご飯の時間もずらして厨房を使わせてもらうことになったのだった。

　厨房に立った私の位置から、エルドさんの楽しみそうな顔が見えて、私はその期待に応えようとアイテムボックスから調理器具と今日買ったアジザカナを用意して、さっそく料理に取り掛かることにしたのだった。

　幸いなことに、アジザカナは前世で知っているアジのように寄生虫が付くことはないとのことだった。

理由は単純で、寄生するならもっと魔力が高いものに寄生するからということらしい。

　何か寄生虫がいるかもしれないと思って生魚を出すことに少し抵抗もあったが、それなら遠慮なく振舞うことができるというもの。

　さて、ここからは料理の時間だ。

　今日はアジづくしにしようと思うので、三品作っていこうと思う。

　その中の一品目は、ただ切って皿に盛りつけただけの生魚なのだが、いつも使っている醤油とは少しだけ違う醤油を使ってみよう。

　まず初めに、アジザカナの身を刺身で食べるサイズに切り分けていく。それを盛り付けるだけで、『アジザカナの刺身』の完成だ。

　もちろん、それだけでは終わらない。

　私は何も入っていない小皿を用意して、私が求める醤油をイメージして【万能鑑定】のスキルを使用した。

　そして、私は何もない所に現れた材料が表示された画面を見ながら、独特の甘みのある醤油の味や舌ざわりなどをイメージして、【創作魔法】を使用したのだった。

　すると、すぐに何も入れていない小皿が光ったようだった。

その中身を確認した私は、その一見ただの醤油と変わらない色の液体に指の先を入れて、それを少しだけ舐めてみた。

「おおっ、できてる。うん、美味しい……この甘みが結構癖になるんだよね」

　塩辛いはずの醤油の中に感じる強い甘みを前に、私は少しだけ顔を蕩とろけさせていた。

ちらりと確認した【万能鑑定】の画面に書かれていたのは、『九州の甘口醤油』という文字。

そう、エルドさんに言った少し変わった醤油というのは、この甘い醤油のことだったのだ。

　九州独特の鳥刺しなどにも用いられるような甘い醤油。関東圏で暮らしていている人からすると、驚くような味かもしれないがこの甘みが癖になるのだ。

　この醤油と生魚の組み合わせが抜群にいい。特に、個人的には鯛とかはまちあたりとの相性が良い印象だ。

　もちろん、それはアジにだって合うので、今回のアジザカナにも合うはず。

　私は少しだけ刺身をつまんでしまおうかと思いながら、慌てて伸びかけていた手を引いて料理の続きを再開したのだった。

　今日は数品作るのだから、つまみ食いをしている暇はない。

　いや、でも今日の料理ってどれも調味料任せの手抜きな感じなんだよなぁ。

　そんなことを考えながらも、私はつまみ食いしそうな気持ちを抑えて、二品目の料理に取り掛かるのだった。