53 / 83
連載
第87話 到着、港町ミルド
しおりを挟む
途中でキャンプ飯を食べたりしてアウトドアを楽しんだ私たちは、最後に異世界のウナギを美味しく食べた後、数日間馬車に揺られて移動をすることになった。
ずっと馬車に座り続けることが辛くもあったが、夜は厨房を貸してくれる宿で息抜きがてら料理をつくることもできて、中々悪くない旅路となった。
そして、そんな日々を過ごして、私たちは海魚が有名な街であるミルドに到着することができたのだった。
「やっと着きました! 港町、ミルド!」
ミルドに着いた馬車から下りてみると、街のすぐ近くには青色に煌めく海が広がっていた。海魚が盛んというだけあって、港には多くの船が止まっており、なんとなく街の雰囲気も活気が良い気がした。
海から香ってくる潮の香りを肺いっぱいに吸い込んだ後、私はそのまま体をぐっと大きく伸ばして心身共に少しだけスッキリとさせていた。
「やけに喜んでるように見えるな。……馬車移動、きつかったか」
「……はい。体がムズムズとしていました」
馬車の乗り心地自体は悪くないものだったし、一定のリズムで揺れる馬車は人よっては眠くなったりもするかもしれない。
それでも、そんなこと以上にずっと体を一つの場所に置いておくということに対して、私は体をむず痒くさせてしまったのだった。
前世ではそんなことはなかったのにと思いながら、もしかしたら、フェンリルとして育てられた環境は案外今の自分に合っていたのかもしれないとか思ってしまっていた。
……何度隣を並走するシキのことを羨ましく思ったことか。
「アンはどこか行きたいところとかあるか? 長い間我慢していたんだから、初めにアンが行きたいとこに行こうぜ」
「行きたいところですか……」
エルドさんに言われて考えてみたが、特にどこかを観光したいというような発想にはならなかった。
あ、でも、市場とかで食べ歩いたりとか、飲食店を巡りたいっていうのはある。
それでも、やはり最初にしたいことと言えば、一つだろう。
「とりあえず、魚市場とかあったら行ってみたいですね。どんな魚が取れるのかチェックしたいです」
「了解、そうしようか。魚料理か……ちなみに、海魚料理ってどういうのがあるんだ?」
「うーん、色々とありますよ。それこそ、醤油だけでなくて味噌を使った料理とかもありますし」
そう、魚料理というのは魚の種類や調味料の組み合わせによって多くの種類が存在するものなのだ。
そして、和食である魚料理も当然奥が深いものだと思う。
「でも、一番初めはシンプルに醤油をつけて食べるのもいいかもしれませんね」
「ほう、醤油だけで食べるのか。確かに合いそうだな」
エルドさんは私の隣でその味を想像したのか、その表情を緩めているようだった。
前世が日本人だったともあり、異世界の人に和食の良さを知ってもらえるのはなんだか嬉しいと思った。
「それも、いつも通りの醤油ではないちょっと変わってる醤油です」
「ちょっと変わっている醤油?」
そう、和食で使われる醤油というのも地方によって色々と味が違ったりするのだ。醤油に興味を持ってもらっていそうだし、できたら関東風ではない醤油も味わってもらうのもいいかもしれない。
「実は、醤油って結構奥が深いんですよ」
私は少しだけ得意げにエルドさんの顔を覗き込みながら、小さく笑みと共にそんな言葉を口にしたのだった。
ずっと馬車に座り続けることが辛くもあったが、夜は厨房を貸してくれる宿で息抜きがてら料理をつくることもできて、中々悪くない旅路となった。
そして、そんな日々を過ごして、私たちは海魚が有名な街であるミルドに到着することができたのだった。
「やっと着きました! 港町、ミルド!」
ミルドに着いた馬車から下りてみると、街のすぐ近くには青色に煌めく海が広がっていた。海魚が盛んというだけあって、港には多くの船が止まっており、なんとなく街の雰囲気も活気が良い気がした。
海から香ってくる潮の香りを肺いっぱいに吸い込んだ後、私はそのまま体をぐっと大きく伸ばして心身共に少しだけスッキリとさせていた。
「やけに喜んでるように見えるな。……馬車移動、きつかったか」
「……はい。体がムズムズとしていました」
馬車の乗り心地自体は悪くないものだったし、一定のリズムで揺れる馬車は人よっては眠くなったりもするかもしれない。
それでも、そんなこと以上にずっと体を一つの場所に置いておくということに対して、私は体をむず痒くさせてしまったのだった。
前世ではそんなことはなかったのにと思いながら、もしかしたら、フェンリルとして育てられた環境は案外今の自分に合っていたのかもしれないとか思ってしまっていた。
……何度隣を並走するシキのことを羨ましく思ったことか。
「アンはどこか行きたいところとかあるか? 長い間我慢していたんだから、初めにアンが行きたいとこに行こうぜ」
「行きたいところですか……」
エルドさんに言われて考えてみたが、特にどこかを観光したいというような発想にはならなかった。
あ、でも、市場とかで食べ歩いたりとか、飲食店を巡りたいっていうのはある。
それでも、やはり最初にしたいことと言えば、一つだろう。
「とりあえず、魚市場とかあったら行ってみたいですね。どんな魚が取れるのかチェックしたいです」
「了解、そうしようか。魚料理か……ちなみに、海魚料理ってどういうのがあるんだ?」
「うーん、色々とありますよ。それこそ、醤油だけでなくて味噌を使った料理とかもありますし」
そう、魚料理というのは魚の種類や調味料の組み合わせによって多くの種類が存在するものなのだ。
そして、和食である魚料理も当然奥が深いものだと思う。
「でも、一番初めはシンプルに醤油をつけて食べるのもいいかもしれませんね」
「ほう、醤油だけで食べるのか。確かに合いそうだな」
エルドさんは私の隣でその味を想像したのか、その表情を緩めているようだった。
前世が日本人だったともあり、異世界の人に和食の良さを知ってもらえるのはなんだか嬉しいと思った。
「それも、いつも通りの醤油ではないちょっと変わってる醤油です」
「ちょっと変わっている醤油?」
そう、和食で使われる醤油というのも地方によって色々と味が違ったりするのだ。醤油に興味を持ってもらっていそうだし、できたら関東風ではない醤油も味わってもらうのもいいかもしれない。
「実は、醤油って結構奥が深いんですよ」
私は少しだけ得意げにエルドさんの顔を覗き込みながら、小さく笑みと共にそんな言葉を口にしたのだった。
126
お気に入りに追加
3,278
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
チートなタブレットを持って快適異世界生活
ちびすけ
ファンタジー
勇者として召喚されたわけでもなく、神様のお告げがあったわけでもなく、トラックに轢かれたわけでもないのに、山崎健斗は突然十代半ばの少し幼い見た目の少年に転生していた。
この世界は魔法があるみたいだが、魔法を使うことが出来ないみたいだった。
しかし、手に持っていたタブレットの中に入っている『アプリ』のレベルを上げることによって、魔法を使う以上のことが出来るのに気付く。
ポイントを使ってアプリのレベルを上げ続ければ――ある意味チート。
しかし、そんなに簡単にレベルは上げられるはずもなく。
レベルを上げる毎に高くなるポイント(金額)にガクブルしつつ、地道に力を付けてお金を溜める努力をする。
そして――
掃除洗濯家事自炊が壊滅的な『暁』と言うパーティへ入り、美人エルフや綺麗なお姉さんの行動にドキドキしつつ、冒険者としてランクを上げたり魔法薬師と言う資格を取ったり、ハーネと言う可愛らしい魔獣を使役しながら、山崎健斗は快適生活を目指していく。
2024年1月4日まで毎日投稿。
(12月14日~31日まで深夜0時10分と朝8時10分、1日2回投稿となります。1月は1回投稿)
2019年第12回ファンタジー小説大賞「特別賞」受賞しました。
2020年1月に書籍化!
12月3巻発売
2021年6月4巻発売
7月コミカライズ1巻発売
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。