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第87話 到着、港町ミルド

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 途中でキャンプ飯を食べたりしてアウトドアを楽しんだ私たちは、最後に異世界のウナギを美味しく食べた後、数日間馬車に揺られて移動をすることになった。

 ずっと馬車に座り続けることが辛くもあったが、夜は厨房を貸してくれる宿で息抜きがてら料理をつくることもできて、中々悪くない旅路となった。

そして、そんな日々を過ごして、私たちは海魚が有名な街であるミルドに到着することができたのだった。

「やっと着きました! 港町、ミルド!」

 ミルドに着いた馬車から下りてみると、街のすぐ近くには青色に煌めく海が広がっていた。海魚が盛んというだけあって、港には多くの船が止まっており、なんとなく街の雰囲気も活気が良い気がした。

 海から香ってくる潮の香りを肺いっぱいに吸い込んだ後、私はそのまま体をぐっと大きく伸ばして心身共に少しだけスッキリとさせていた。

「やけに喜んでるように見えるな。……馬車移動、きつかったか」

「……はい。体がムズムズとしていました」

 馬車の乗り心地自体は悪くないものだったし、一定のリズムで揺れる馬車は人よっては眠くなったりもするかもしれない。

 それでも、そんなこと以上にずっと体を一つの場所に置いておくということに対して、私は体をむず痒くさせてしまったのだった。

 前世ではそんなことはなかったのにと思いながら、もしかしたら、フェンリルとして育てられた環境は案外今の自分に合っていたのかもしれないとか思ってしまっていた。

 ……何度隣を並走するシキのことを羨ましく思ったことか。

「アンはどこか行きたいところとかあるか? 長い間我慢していたんだから、初めにアンが行きたいとこに行こうぜ」

「行きたいところですか……」

 エルドさんに言われて考えてみたが、特にどこかを観光したいというような発想にはならなかった。

 あ、でも、市場とかで食べ歩いたりとか、飲食店を巡りたいっていうのはある。

 それでも、やはり最初にしたいことと言えば、一つだろう。

「とりあえず、魚市場とかあったら行ってみたいですね。どんな魚が取れるのかチェックしたいです」

「了解、そうしようか。魚料理か……ちなみに、海魚料理ってどういうのがあるんだ?」

「うーん、色々とありますよ。それこそ、醤油だけでなくて味噌を使った料理とかもありますし」

 そう、魚料理というのは魚の種類や調味料の組み合わせによって多くの種類が存在するものなのだ。

 そして、和食である魚料理も当然奥が深いものだと思う。

「でも、一番初めはシンプルに醤油をつけて食べるのもいいかもしれませんね」

「ほう、醤油だけで食べるのか。確かに合いそうだな」

 エルドさんは私の隣でその味を想像したのか、その表情を緩めているようだった。

前世が日本人だったともあり、異世界の人に和食の良さを知ってもらえるのはなんだか嬉しいと思った。

「それも、いつも通りの醤油ではないちょっと変わってる醤油です」

「ちょっと変わっている醤油?」

 そう、和食で使われる醤油というのも地方によって色々と味が違ったりするのだ。醤油に興味を持ってもらっていそうだし、できたら関東風ではない醤油も味わってもらうのもいいかもしれない。

「実は、醤油って結構奥が深いんですよ」

 私は少しだけ得意げにエルドさんの顔を覗き込みながら、小さく笑みと共にそんな言葉を口にしたのだった。


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