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第86話 キャンプ飯の締めくくり

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「できましたよ、『ウナアナゴ丼』ですっ」

 数度かば焼き用のたれを塗って焼いてを繰り返してできたかば焼きと、ご飯に染み込んだそのタレの香りに強く食欲を刺激されながら、私は豪勢にウナアナゴが盛られた『ウナアナゴ丼』をエルドさんとシキの元に運んだ。

「おおっ、凄いうまそうだな。作っている最中から匂いがずっと気になるくらい、いい匂いだったぞ」

「まさか、あの長細い魚がこんなふうになるとはな。匂いだけでも美味しそうなのが分かる」

 『ウナアナゴ丼』を目の前に置かれたエルドさんとシキは、湯気によって運ばれてきたかば焼きのタレと炭の香りをもろに吸ったようで、幸せそうにその表情を緩めていた。

 シキに関しては、いつものように料理を食べる前から尻尾をパタパタとさせている。

 どうやら、これ以上食べるのを待てないのは私だけではないみたいだった。

「それじゃあ、いただきましょうか」

 私がそう言うと、エルドさんもシキも待ってましたとでもいうかのように、『ウナアナゴ丼』をかき込むように口に運んでいた。

 私もそんな二人に倣うように、ウナアナゴの身とご飯を一気に口の中に運んだ。

 そして、そのあまりの美味しさを前に口元緩めてしまっていた。

「んんっ、お、おいしい。身がふっくらしていて、タレが良く馴染んで……この世界のウナギ、美味しすぎる」

「うますぎるぞ! ウナアナゴも美味いけど、このタレはタレだけでもご飯食べられるくらいにうまい!」

「ウナアナゴがここまで美味しくなるのか?! これは、想像を大きく超えすぎたうまさだ!」

 炭でじっくりと丁寧に焼かれたことで身の香りが引き立っており、そこに甘辛いウナギのタレがよく馴染んでいる。

 身はふっくらとして柔らかく、甘辛いタレに負けないくらの魚の旨味がそこにはあった。

 そして何より、ウナギのタレとの相性が抜群に良い。

 各々感動の言葉を漏らした後、黙々と食べ進めてしまうくらいには、『ウナアナゴ丼』は美味しかったらしい。


私のわがままに付き合ってもらっている手前、気に入ってもらえてよかったと私は胸をなでおろしていた。

「……タレがこの色ってことは、醤油っていう調味料を使ってるのか?」

 エルドさんは黙々と『ウナアナゴ丼』を食べ進めていたのだが、何かに気づいたようにじっとウナアナゴを見つめながら、そんなことを聞いてきた。

「そうです。基本的には醤油とみりんの味ですね」

「この醤油っていうのは、本当に何にでも合うんだな」

「そういえば、そうですね。醤油は合わないものはあまりないかもしれません」

 前世の私が食べていた物の中には、結局どこかで醤油が入っていたことが多かった気がする。

 そう考えると、醤油の偉大さに頭が上がらなくなるかもしれない。

「醤油というのは、ウナアナゴをここまで美味しくするのか。これから向かう街でも、魚が有名なのだろう? その街でも同じように美味しい料理が食べれるのか?」

 いつの間にか『ウナアナゴ丼』を完食していたシキは、機嫌良さげに尻尾を振りながらそんな言葉を口にしていた。

 とても満足そうな表情をしながらも、早くも次の料理に期待をしてくれているみたいだった。

「期待していてよ。何よりも、醤油が一番合うのは海魚なんだから」

 私は得意げな顔でそう言うと、口いっぱいに『ウナアナゴ』を頬張りながら、その美味しさに口元を緩めていた。

 唐突に終わりを告げられてしまったキャンプだったが、外で食べる最後のご飯がこれになるなら、文句を言えるはずがない。

 私は『ウナアナゴ丼』の味を堪能しながら、次に行くミルドという街でどんな魚料理をしようかと期待に胸を膨らませるのだった。

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