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連載
第83話 心配する側とされる側
しおりを挟むこの世界にもウナギがいるかもしれないと分かった翌日。私たちは村の道具屋で釣竿などの道具を一式揃えて、ウナアナゴが出ると言われている川まで来ていた。
早めの朝ご飯を食べてすぐに出てきたので、これから夜までじっくりと粘ることができるだろう。
昨日ウナアナゴを扱っている店に行って聞いてみたところ、ウナアナゴは毎日その店に入ってくる確証はないらしい。
味は美味しいので、狙ってはいるみたいだが、中々うまく釣れないとのこと。
前世で数回釣りをしたことのある私と、冒険者として生計を立てていた私たちでウナアナゴを釣ることができるのか?
確実に難しいような気はしてはいるけれど、ウナギのような魚がいるというのにそれを食べないわけにはいかない。
そんな強い決意のもと川辺まできたのだが、その川幅に私は少し驚いていた。
「それにしても、結構大きな川ですね」
上流近くの川だろうから小さくて急な川をイメージしていたけど、想像していた数倍はその川幅が大きかった。
角が痛そうな岩とかも近くにあったりしたので、普通の子どもとかだったら転んだときに危ないかもしれない。
「アン、気を付けてくれよ。足を滑らして落ちたりするなよ?」
後ろから聞こえてきたエルドさんの真剣な声色を聞いて、なんで私に前を歩くようにはと言っていたのか察しがついた。
これ、あれだ。私が転んで川に落ちそうになったときに、すぐに助けられるからだ。
エルドさんが前を歩いてしまうと、私が川に落ちたときに気づかないからだろう。
シキも後ろにいるから心配ないと思うのだけれど、いつもよりも距離が近い気がするのはそのせいらしい。
……なんだか、本当にお父さんみたいだ。
私は少しエルドさんが心配し過ぎな気がしたので、それを紛らわせるために何でもないような顔で振り返って言葉を続けた。
「大丈夫ですよ。私、泳げますから」
「アン。川って言うのは、そこら辺の池とは違って急に深くなったりもするんだ。それに、流れが速いし、苔のせいで足が滑るなんてこともある。だから、普通に泳ぐのとはわけが違うんだぞ」
「いえ、その、フェンリルとして育っていた時に川に来たこともあるので、大丈夫かと」
川で水浴びをした数も数え切れないので、川での泳ぎ方も熟知している。多分、その点においては普通の冒険者の比ではないだろう
そんなことを思って言葉を口にすると、エルドさんは何かを思い出したような小さな声を漏らしていた。
これはもしかして、一瞬私がフェンリルに育てられたことを忘れた感じかな?
「……そういえばそうだったな。いや、それでも、頼むから足は滑らさないように気を付けてくれ。いくら平気と聞いても平常心でいられる自信はないからな」
「わ、分かりました」
少し空気が和めばいいなと思ってそう言ったのだが、エルドさんはすぐにその顔を真剣な顔にして私を見つめながらそんな言葉を口にした。
一瞬気圧されるくらいの真剣な表情を前にして、私は少しだけ視線を逸らしてしまった。
もしも、私が年頃の娘だったりしたら、ここまで心配されたらうざったく思うかもしれない。
それでも、前世である程度まで生きた後、幼い姿に転生した私からすると、大切にされて嫌な気がするわけがなかった。
私は前を向いて足元を見るようにしながら、緩みそうになっていた口元をそっと隠したのだった。
もしかしたら、その口元の緩みはこれから食べるウナギのかば焼きの味を期待してかもしれないが、心の温かさは多分ただの食欲によるものではない気がした。
釣りをする前に一人ほっこりしてしまった私だったが、数分もしないうちに私たちは程よい釣り場を見つけて、何もなかったかのように釣りを始めたのだった。
少しだけエルドさんからの視線をいつもよりも感じた気がしたが、全然嫌な気持ちにならなかったのは、前世も今も私が年頃の娘ではないからだろう。
そんなことを考えながら、私はウナアナゴが釣れることを静かに待つのだった。
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