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第81話 川魚と言えば
しおりを挟むこの世界で初めてのキャンプを行ってから、アウトドアを楽しみながら山を越えるように移動をして数日。
夕方に差し掛かったくらいのタイミングで、ちょうど見えてきた村を訪れてみると、そこは村というにしては少し規模が大きい村があった。
その村には宿屋の他にも小さな店などがあったりして、ただ山奥にある村のイメージとは大きく異なっているようだった。
「よっし、今日はこの村に泊まることにするか」
「そうですね、そうしましょう。結構人が多い村なんですね」
「ああ、こっち方面からエルランドの方向に向かうときの最後の里だからな。それだけここを利用する人も多いんだよ」
「なるほど、そういうことなんですね」
どうやら、ここがこちら側からエルランドの方向に移動するときに使う中間地点になっているようだ。
それなら、確かにこの村を利用する人も多くいるだろうし、それに伴って村の規模が大きくなっていったのも納得がいく。
「それと、この村からはまた馬車に乗れるから、明日からはまた馬車移動だな」
「え、もうキャンプ終わりですか?」
「また今度エルランドに帰るまでは我慢だな。……我慢だ」
唐突に告げられたキャンプ終了のお知らせを前に、私が俯きそうになっていると、それ以上にエルドさんがうな垂れているようだった。
しみじみと漏れたような言葉は、私がただこれから始まる馬車移動を嘆いている物とは別のように感じた。
ちらりと見てみると、心なしかシキの尻尾も垂れ下がっているような気がした。
……まぁ、エルドさんもシキも楽しそうだったし、悲しいのは私だけじゃないか。
「分かりました。じゃあ、また今度帰りにキャンプできるのを楽しみにしておきます!」
「そうだな。その考えでいこう。むしろ、これから海魚が待っている訳だしテンションは上げていかないとな」
エルドさんはそう言うと、私の言葉を受けて少しだけ気持ちを上げながら、近場にある宿の戸を押して入っていった。
「そういえば、川魚を食べませんでしたね」
せっかくなら、何かしら川魚を食べておけばよかったかもしれない。
そんなことを考えながらエルドさんの後に続いて店内に入った私は、エルドさんとカウンターにいた宿屋のお姉さんの会話を聞きながら、どんな川魚がいるのか想像をしていた。
やっぱり、山奥と言えばイワナやヤマメだろうか?
ただ塩をかけて焼いて食べても美味しいし、日本酒で骨酒っていうのにしても美味しいんだよね。
丸焼きにした川魚に熱燗をかけて飲むお酒なんだけど、魚のダシとか旨味が日本酒に染み出てきて美味しいんだよなぁ。
まぁ、今の私の年齢じゃ絶対に飲めないんだけどね。
「アン、ここは食堂は完備してないみたいだから、外で食べることにしよう」
「あっ、分かりました。そうしましょう」
私が前世の記憶に浸っていると、どうやらエルドさんが宿の手続きを終わらせてきてくれたらしかった。
そっか、ここに食堂がないなら今日は料理はお休みするしかない。この村にしかない料理でも食べて、明日に備えることにしよう。
「何を食べるかだが……すみません、何かこの村のおすすめとかってありますか?」
「おすすめですと『ウナアナゴ』ですけど、今日店にあるかは怪しいですね。店に並ばないこともあるので」
エルドさんがカウンターにいるお姉さんにそう聞くと、お姉さんは少し考えた後にそんな言葉を口にした。
「ウナ、アナゴ?」
聞きなじみしかないようなその単語を前に、私はオウム返しのようにそんな言葉を呟いていた。
そうだった。確かあの魚は海で生まれてから川で成長するっていう魚だったはず。
もしもあの魚が近くの川にいるというのなら、これをスルーするわけにはいかないだろう。
私はエルドさんとお姉さんが会話をしている中、心の中で力強い決意をしたのだった。
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