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第69話 既視感
しおりを挟むケミス伯爵のご飯を作った後、冒険者さんたちのご飯を作るという生活を数日送った結果、ケミス伯爵も冒険者さんたちも順調に体調は回復に向かっていた。
毎日私が作った魔法を付与してある料理をおかわりしていたので、体調が回復するのも早かったのだろう。
もうすでに私の料理でなくても食べられるくらいまで、ケミス伯爵も冒険者さんたちも体調は回復していた。
そうなってくると、わたしたちにできることはもうない。
ケミス伯爵にも話をつけて、今日明日中にこの街を出ることが決まって、私はこの街を出るまでの時間をどう過ごそうかと考えていた。
ただこの街でやり残したことがないわけではない。やり残したことがあるとすれば、一つだけ。
……そろそろものにしてくれただろうか?
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、廊下の影からこちらに視線が向けられているような気がした。
振り返ってみると、そこにいたのは二つ結びの髪をしたこの屋敷のお嬢様、シータさんの姿があった。
シータさんは私と目が合うと、少しあわあわとしたあと、廊下の影から飛び出してきて私に人差し指をピシッと向けてきた。
「私と勝負しなさい」
なんだろう、これはデジャブだろうか?
そんなことを考えてみたけど、初めに勝負を仕掛けられた時よりも、シータさんはどこか自信があるような顔をしているような気がした。
「私、香ばしいクッキーを作れるようになったの!」
どこか自慢げな笑みは根拠がないようには見えず、ぴょこぴょこと揺れる髪が上機嫌に揺れていた。
どうやら、私が数日間炊き出しやら、ケミス伯爵に食事を作っている間に香ばしいクッキーをものにしたらしい。
今回は黒焦げにしたクッキーを香ばしいとかって言わないよね?
そんな自信のある表情を前にしても、以前のダークマターを生成していた疑いが晴れることはなく、私は少しだけ心配になっていた。
「あっ」
そんな私の心配を気にしてか、物陰からもう一つ影がぴょこっと出てきた。
そこにいたのはシータさんと一緒にクッキー作りをしていた使用人の女性。その女性は、私と目が合うと静かに頷いた。
どうやら、私が何を心配しているのか察してくれたようだった。
使用人の女性からゴーサインが出たということは、安心していいということだろう。
少し疲れていながらもどこか達成感のある使用人の女性の表情からも、今回は色々と期待できそうだ。
そういうことなら、私もライバルらしくその挑戦を受け入れようではないか。
「それじゃあ、そろそろ勝負と行きますか」
この街でやり残した最後のこと。
それをやり遂げるために、私はシータさんからの挑戦を受け入れることにしたのだった。
ということで、今ここに幼女同士の手作りクッキー対決が幕を開けることになった。
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