30 / 83
連載
第64話 小さなライバル
しおりを挟む
「私と勝負しなさい」
「……はい?」
そして翌日。ケミス伯爵の屋敷の客間から出たときに視線を感じたのでそちらを見てみると、廊下の曲がり角にシータさんがいた。
私と目が合うとあわあわとした後、作ったような顔で私のことを睨むと、廊下の曲がり角から腕を組んで私の元に近づいてきた。
「勝負、ですか?」
「そうよ。お互いにお菓子を作って、どっちがお父様に美味しいって褒めてもらえるかを決めるの!」
少し舌足らずな話し方なのに、怒っていることをポーズするように私を睨んでいるのがどこか微笑ましい。
というか、判定はどっちが美味しいかじゃなくて、褒めてもらうかなのか。
……この子、なんか可愛いな。
「お菓子作りって、昨日丸焦げにしてませんでした?」
「あれは、あなたの料理を食べたお父様が香ばしい? とか言ってた美味しそうに食べたから、私も焦がしてみたのよ!」
「香ばしい? あ、そう言えばお昼に『ボアポークの味噌漬け』も出したんだっけ?」
ケミス伯爵が他の味噌料理も食べたいと言っていたから、『ボアポークの味噌漬け』も出してみたんだった。
確かに、あのときにケミス伯爵がそんなことを言っていた気がする。
「いや、香ばしいと焦げ臭いは別物ですよ?」
「だから、あの時は失敗したの! 今度はちゃんと香ばしいクッキーを焼くんだから!」
「こ、香ばしいクッキー……」
もしかして、あの黒い物体は香ばしさを追求した形だったのか。というか、クッキーだったんだあれ。
色々と間違えている今の状況で、とてもお料理勝負なんかになる気がしない。というよりも、勝負云々以前にダークマターを食べさせられるケミス伯爵が可哀想だ。
「シータ様、よろしければ私がクッキーの作り方教えて差し上げましょうか?」
「本当?!」
シータさんは一瞬目を輝かせるように喜んだようだったが、すぐに何かに気づいたように私から顔を背けた。
「はっ! ら、ライバルからの施しなんか受けないわ!」
シータさんはそんなことを言いながら、私の方をちらちらと見ていた。
なるほど、これが意地になっているという状態か。
多分、昨日一緒にいた使用人さんだってクッキーの作り方くらいは知っているはず。
それなのに、あんな失敗をしたということは……この子、香ばしさの追求をするばかりに、使用人さんの言葉を聞かなかったな。
そうだとすると、私に対抗心を燃やしているなら、私が教えるって言っても素直に教わる気はないか。
……それなら、少しアプローチの方法を変えてみるかな。
「ライバルとして、シータ様がどんなものを作るのか知りたいと思うのは当然のことです! お互いにお菓子作りがどのくらいできるのか、今の時点で把握しておくのは重要なことではないですか?」
私がそう言うと、シータさんは私にライバル認定されたことが嬉しかったのか口元を緩めて、満足げな顔でそっぽを向いた顔をこちらに向けてくれた。
「あ、あなたがどうしてもって言うのなら、私の実力見せてあげてもいいわ!」
この子、案外ちょろい子かもしれない。
とにもかくにも、こうして一緒にお菓子を作る口実を作った私たちは一緒に厨房に向かたのだった。
「……はい?」
そして翌日。ケミス伯爵の屋敷の客間から出たときに視線を感じたのでそちらを見てみると、廊下の曲がり角にシータさんがいた。
私と目が合うとあわあわとした後、作ったような顔で私のことを睨むと、廊下の曲がり角から腕を組んで私の元に近づいてきた。
「勝負、ですか?」
「そうよ。お互いにお菓子を作って、どっちがお父様に美味しいって褒めてもらえるかを決めるの!」
少し舌足らずな話し方なのに、怒っていることをポーズするように私を睨んでいるのがどこか微笑ましい。
というか、判定はどっちが美味しいかじゃなくて、褒めてもらうかなのか。
……この子、なんか可愛いな。
「お菓子作りって、昨日丸焦げにしてませんでした?」
「あれは、あなたの料理を食べたお父様が香ばしい? とか言ってた美味しそうに食べたから、私も焦がしてみたのよ!」
「香ばしい? あ、そう言えばお昼に『ボアポークの味噌漬け』も出したんだっけ?」
ケミス伯爵が他の味噌料理も食べたいと言っていたから、『ボアポークの味噌漬け』も出してみたんだった。
確かに、あのときにケミス伯爵がそんなことを言っていた気がする。
「いや、香ばしいと焦げ臭いは別物ですよ?」
「だから、あの時は失敗したの! 今度はちゃんと香ばしいクッキーを焼くんだから!」
「こ、香ばしいクッキー……」
もしかして、あの黒い物体は香ばしさを追求した形だったのか。というか、クッキーだったんだあれ。
色々と間違えている今の状況で、とてもお料理勝負なんかになる気がしない。というよりも、勝負云々以前にダークマターを食べさせられるケミス伯爵が可哀想だ。
「シータ様、よろしければ私がクッキーの作り方教えて差し上げましょうか?」
「本当?!」
シータさんは一瞬目を輝かせるように喜んだようだったが、すぐに何かに気づいたように私から顔を背けた。
「はっ! ら、ライバルからの施しなんか受けないわ!」
シータさんはそんなことを言いながら、私の方をちらちらと見ていた。
なるほど、これが意地になっているという状態か。
多分、昨日一緒にいた使用人さんだってクッキーの作り方くらいは知っているはず。
それなのに、あんな失敗をしたということは……この子、香ばしさの追求をするばかりに、使用人さんの言葉を聞かなかったな。
そうだとすると、私に対抗心を燃やしているなら、私が教えるって言っても素直に教わる気はないか。
……それなら、少しアプローチの方法を変えてみるかな。
「ライバルとして、シータ様がどんなものを作るのか知りたいと思うのは当然のことです! お互いにお菓子作りがどのくらいできるのか、今の時点で把握しておくのは重要なことではないですか?」
私がそう言うと、シータさんは私にライバル認定されたことが嬉しかったのか口元を緩めて、満足げな顔でそっぽを向いた顔をこちらに向けてくれた。
「あ、あなたがどうしてもって言うのなら、私の実力見せてあげてもいいわ!」
この子、案外ちょろい子かもしれない。
とにもかくにも、こうして一緒にお菓子を作る口実を作った私たちは一緒に厨房に向かたのだった。
177
お気に入りに追加
3,262
あなたにおすすめの小説
スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
【5/22 書籍1巻発売中!】
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。