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第53話 馬車での移動
しおりを挟む「……シニティーまでって、馬車でどのくらいかかりますか?」
「三日とちょっとくらいじゃないか?」
エリーザ伯爵の屋敷に寄った私たちは、エリーザ伯爵から馬車を借りて街道を移動していた。
のどかな風景が過ぎていく中で、静かに体を揺らされる。心地よい気温で昼寝日和と言えるだろう。
エリーザ伯爵の馬車なので、振動だってそんなに気になったりはしない。それなのに、私はエルドさんからの返答を受けて、微かに顔をしかめてしまっていた。
「み、三日間も馬車移動ですか」
「まぁ、間にあるエネストっていう街で夜は泊まれるし、そんなに大変な旅でもないだろ。何か気になることでもあるのか?」
私が渋い顔をしていたのに気づいたのか、エルドさんは小首を傾げながらそんな言葉を口にした。
馬車移動が主体の世界で生きていた人からすれば、何てこともないことなのだろう。
それでも、馬車なんて前世を含めてもまだ二回目の私からしたら、この移動手段はなんというかじれったい。
「あの、私もシキと一緒に馬車と並走して走っていてもいいですか?」
「やめさない」
私が控えめに提案すると、エルドさんは呆れるような目をして私の提案を一刀両断した。
街からエリーザ伯爵の屋敷まで行くくらいなら、馬車に乗るのも苦ではなかった。しかし、ほぼ丸一日移動するという状況で馬車に乗り続けるというのは変な感じがする。
ここ一ヵ月と少しの間はちゃんと人間らしい生活を送ってこられたのだが、時折フェンリルとして育てられた影響で体が疼くのだ。
「御者の人がいるんだから絶対だめだろ」
「じゃあ、二足歩行ならいいですかね?」
「いいわけないだろ。なんで小さな子供を馬車から下ろして走らせるんだよ、完全に虐待だろ……ていうか、初めは四足歩行で走るつもりだったのか?」
考えて妥協案を出したつもりだったのだが、エルドさんにジトっとした目を向けられた上で、その案も却下されてしまった。
確かに、エルドさんに言われて気づいたけど、私が馬車に並走して走っているという光景は、エルドさんが私をいじめているようにしか見えない。
それも、エリーザ伯爵の屋敷の御者さんの前でそんなことをしたら、色々と今後よくない噂が流れる可能性がある。
ここまで色々世話になっているのに、私のせいでエルドさんの悪評が流れるのは嫌だなぁ。
「ちょうどいいから、この機会に馬車移動も慣れておくんだな。これも人間らしく生きるための特訓だ」
私はからかうように向けられたエルドの言葉に渋々頷いて、馬車の外で快適そうに走っているシキを羨ましそうに眺めるのだった。
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