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第14話 力を行使する義務
しおりを挟む「アイクよ、さすがに無欲すぎるんか?」
「突然どうしたんだ?」
俺達は隣の街に移り、そこにあったギルドに登録してクエストに出ていた。
俺とルーナの二人でパーティを組んで、冒険者として生活をしていたのだ。無事に勝利を収めてギルドへの方向に向かう途中、突然ルーナがそんなことを口にした。
「普通、自分に凄い力があったと分かったら、その力を使って成り上がろうとするものだろう! なぜ隣街でパッとしないクエストをこなしておるのだ!」
「正直、お金は闇闘技場の優勝とかで結構あるし、無理に高難易度のクエストを受ける理由がないだろ。少しずつスキルの使い方を覚えていくのが先決だ」
俺の返答に対して、ルーナは声を張ったことを後悔するように、大きなため息をついた。
ここ最近はルーナの言う通り、パッとしないクエストを受けることが多い。その理由は単純で、まだ多くあるスキルを有効的に使用できていないから、そのスキルの練習にクエストをこなしていると言っても過言ではない。
そんな俺の方針をルーナ初めから反対していたのだが、ついに辛抱ならんと溜めていた気持ちが爆発したようだった。
「いいか、アイクよ! 力のある者はその力を行使する義務があるのだ!」
「義務?」
「そうなのだ! それもアイクほどの力となると、自然とその機会というものはすぐにやってくる!」
「力の行使ねぇ。そういうルーナは良いのか?」
「何がだ?」
俺は振り返って、何もないはずの荒野の一部に視線を向けた。その一部分では、大量にいたはずのモンスターが氷漬けにされていた。
『ええい、しゃらくさい!』と言って、ルーナが大量発生しているモンスターを一瞬で氷漬けにしたのだった。
俺が色々なスキルを試していたというのに、しびれを切らしたように割って入ってきたと思ったら一瞬で片づけてしまった。
俺の練習だと言っておいたはずなんだけどな。
そんな不満と、ルーナが何者なのであろうかという興味。おそらく、その二つをぶつけたところで、まともな答えは返ってこないのだろう。
本当に、ルーナは何者なんだろうな。
「いや、まぁ、いいんだけどな」
ルーナは自分は力のある者に含まれている自覚がないのか、俺の言葉に対して首を傾げていた。
しかし、ルーナはすぐに何かに気がついたように俺から視線を外して、一点をじっと見つめだした。何か小動物が一点を見つめるのと同じような目をしている。
「噂をすればって感じだな」
「何がだ?」
「アイクよ、あそこを見てみろ!」
ルーナが何か含みのある笑みを浮かべていた。ルーナの視線の先を追ってみると、何やら遠くないところで一つの馬車が襲われているみたいだった。
一つの馬車を囲むようにして、複数の馬車が並走している。囲んでいる複数の馬車が中央にある馬車に幅寄せをして、馬車を強引に止めさせようとしていた。
そして、その衝撃に耐えられえなかったのか、御者が外に放り出されてしまったようだった。
「あんまり穏やかではないな」
「そうだな。アイクよ、力のある貴様ならこの展開をどうする?」
「助けない、理由はないよな」
正直、自分の力をどういうふうに使いたいかとか、そんな考えはまだ定まってはいない。それでも、今ここで助けられる命があるのなら、動かないのが違うことだけは分かった。
「『肉体強化』『身体強化』『加速』」
『身体強化』。これは『肉体強化』とは別で、反射神経や動体視力などの基礎スペックを上げるスキルの一つだ。『肉体強化』と『身体強化』の両方使うことで、本当の意味での身体能力が跳ね上がる。
中央にある馬車が強引に止められたのを確認して、俺は急ぐように複数のスキルを使用した。そして、馬車めがけて地面を強く蹴ってその現場に向かった。
このスピードの付いてこようとしているルーナの力がますます謎だが、今はそのことを深く考えている場合ではない。
中央の馬車を囲んでいた複数の馬車から、ぞろぞろと数人の人が降りてきたのが分かった。
見るからに野蛮そうな属の群れ。さすがに闇闘技場で見たような本物とは大きく劣っていた。
あれくらいならどうってことなはない。そんな言葉が瞬時に頭に浮かんでいた。
「ん? なんだあれ? え、うわっ!」
俺が近づいてくることに気がついたように、一人の賊がこちらに振り返った。しかし、気づいたところで、もう遅い。
俺が賊の目の前に着地したのを見て、ようやく大きな声で驚いたようだった。
「てめぇ、何者だ!」
十人の程の賊は馬車から俺の方に体の向きを変えて、各々武器を引き抜いた。短剣から斧まで様々な武器を手にしているが、どの武器も規格内の物ばかりだ。
特筆する必要もないような賊の群れ。俺を囲うように距離を取っているが、その距離にはたして意味があるのだろうか。
俺のすぐ近くには狙われていた馬車が一つ。これだけ近くにあると、大掛かりなスキルをしようして、相手を一網打尽にするのは少し難しい。
ここら辺一体を塵にしてしまってもいいなら、手はあるんだけどな。
「地味だけど仕方がないか。『神速』」
俺は『加速』よりも数段速くなる『神速』というスキルを使った。速い代わりに、持続時間が極端に短いスキルだが、目の前の相手数人を切り刻むには十分すぎるスキルだ。
俺は腰に下げた短剣を引き抜き、その速度に合わせて短剣を振り抜いた。
「は?」
『神速』プラス『肉体強化』『身体強化』のスキルが発動しているため、切られた賊は、切られてもしばらく経つまで、自分が着られたことに気づいていないようだった。自分が倒れたことの意味さえ分からないように、ただ短い言葉を残して次々に倒れていく。
「ぐっ! はぁ、はぁ」
「へぇ、案外硬い奴もいるんだな」
全員に対して短剣を振り抜いたのだが、一人だけ俺の攻撃を受けても立っている者がいた。少し踏み込みが甘かったのかもしれない。
「貴様、アサシンか! なぜそんな奴が、こんな奴についてるんだ!」
男は今にも倒れそうになりながら、信じられないような顔をこちらに向けていた。俺の乱入が想定外なのは分かるが、それ以上に驚いているように見える。
ていうか、今俺のことアサシンって呼んだか?
そんな見当違いの言葉を言われて、俺は堪えられなくなったような笑みを浮かべていた。盗賊を極めて戦士並みの強さがあって、ようやく慣れる盗賊の上級職。そんなアサシンと間違うなんてな。
「何が可笑しい!」
「ごめんな、俺はそんな上級職じゃないんだよ。ただの盗賊だ」
「は? 盗賊?」
目の前の男は言われた言葉の意味が分からないといった様子で、ぽかんとしていた。そんな男に向けて、俺は静かに手を伸ばして別のスキルを使用した。
「『闇棘』」
「え、何だこれ……いってぇ! くそっ、これ闇魔法じゃねえか! ふざけんな、何が盗賊だ!! こんな盗賊がいるわけないだろ!!!」
周辺に誰もいないことを確認して、俺は『闇棘』という闇魔法を使用した。そのスキルは相手の影から黒いバラの茎のような物を出現させて、相手に絡みつく。そして、相手に棘を刺して苦しめながら、自分の影に引きずり込む闇魔法だ。
『闇影』との違いは、触れているだけで相手にダメージを負わせらることだろう。
やっぱり、盗賊という職は闇魔法との相性が良いらしい。周りに人がいなくなった時、ダメだと分かっていながらつい使ってしまう。
「少し前までは、無能で有名な盗賊だったんだよ」
俺は闇の中に引きずり込まれていく男に向かって、そんなことを口にした。
これで、とりあえず相手の無力化はできたな。
何が原因かは知らないが、狙われていた馬車。安全を確保したことを伝えなくてはならない。そう思って、俺はその馬車に乗り込んだ。
その瞬間、殺気のようなものを強く感じ取った。
「『硬化』」
「え?」
ばきりという硬い金属同士が衝突したような音。俺は馬車の中から切りかかってきた剣を『硬化』した腕で弾いた。
「いや、さすがに助けた相手に刃を向けられると俺も傷つくぞ?」
俺に剣を向けていたのは、金髪碧眼の少女だった。ルーナよりも少し大きいくらいの小柄な女の子。
「なんじゃ、誰かと思ったら、第三王女様じゃないか」
「第三王女?」
「オルド王国の第三王女様だろう。なんだ、知らんのかアイクよ」
「いや、知らないという訳ではないんだけどな」
可笑しいな、少し前まで無能の盗賊、『駄賊のアイク』として有名だったはずなのに。
それがなんで、王女様の乗っている馬車を助けているのだろうか。
どうやら、ルーナが言っていた力を行使する場面というのは、案外早く俺の所にやってきたようだった。
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