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第3話 出会い
しおりを挟む「あの、本当にいつも通り寝ていてもいいんでしょうか?」
呂修に後宮に来るようにと言われてからすぐ、春鈴は準備をして呂修と共に馬車で後宮へと向かっていた。
普段は化粧っけのない春鈴だが、化粧ができないわけではない。
全体的に薄い化粧をした今の春鈴は、元の肌の透明さと相まってどことない儚さを醸し出していた。
あまり後宮にいないタイプだが、それゆえに目を引く存在になるかもしれない。
呂修はそんなことを考えながら、春鈴の言葉に小さく頷いていた。
「ええ、普段通りに過ごしてもらって問題ありませんよ」
春鈴が馬車の中で何度目かの確認をすると、呂修は変わらずそんな返答をしていた。
春鈴が馬車の中で聞いた話によると、後宮というのは嬪として後宮で過ごすだけでお金がもらえるらしい。
それも、決して安くないお金がもらえるとのこと。
いつも通り寝ているだけで、本当にそれだけのお金がもらえるのだろうか?
春鈴はあまりにも都合の良い話ではないかと疑いながらも、本当に寝るだけでお金がもらえるのなら、それほどありがたい話はないと気持ちを少し前のめりにしていた。
「その前に、会ってもらいたい方がいます」
「会ってもらいたい方、ですか」
「はい。……どうやら、着いたみたいですね」
呂修がそう言うと、二人を運んでいた馬車が徐々に止まった。
一体どうしたのだろうと思った春鈴が顔を外に出すと、そこには後宮の入り口と思われる重厚感のある大きな扉があった。
そして、御者の男と門番が少しの手続きをした後、大きな門が重い開閉音を立てながら開かれていった。
そして、その開かれた扉の先には、女の花園と言われる後宮の世界が広がっていた。
門の入り口から全ての宮を見渡すことができないほど広大で、歩く女たちは街では浮くくらい綺麗な顔立ちの人たちが多い。
豪華絢爛な世界というわけではないが、使われている柱や石畳などに妙な高級感がある。
春鈴はそんな光景に圧倒されながら、後宮の中を馬車で運ばれていった。
再び馬車が止まったとき、呂修に声をかけられた春鈴は少し慌てるようにして馬車から降りた。
春鈴はしばらく後宮の景色に見惚れてしまったせいか足取りが怪しくなっていて、馬車を降りた拍子に小さく躓いてしまった。
そして、春鈴はそのまま一人の男の胸にとんっと当たってしまった。
良い香の香りがしたと思いつつ、ぶつかった非礼を詫びようと顔を上げたとき、女性のように整った顔をした男と目が合った。
中世的な眉目秀麗な顔立ちをしていて、瞳の奥まで透き通った綺麗な虹彩をしている。長く艶のある髪は後宮を歩く女たちに劣らないくらい艶やかな物だった。
黒にも近い濃い紫色の袍を身にまとった男は、春鈴の肩を持って体を起こすと、優しく目を細めるように笑いながら口を開いた。
「君が噂の眠り姫ですか?」
これが春鈴と泰然(タイラン)との出会いだった。
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