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第188話 村に現れた道化師
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午後から村の者たちが教会にやってくる。
そんな情報を事前に聞いていた俺達は午前中に事を終える必要があった。
俺と呪いに対して耐性があるポチが教会の中を、リリには教会に村人が入ってこないように結界を張ってもらって、外で待機をしてもらうことにした。
まぁ、リリに外で結界を張ってもらったのは、下手に村の人が近づかないようにといった意味もあるが、どちらかといえば別の役割をしてもらうためだった。
それは、教会からの叫び声を漏らさないようにするためだ。
おそらく、教会は結構うるさいことになるだろうし、その配慮とかを考えた結果だった。
教会に潜入するのは【潜伏】のスキルがあれば難しいことはなかったし、オルスが教会に来るまで暇で退屈だったことを除けば、特に苦労したことはなかった。
「ど、道化師……み、ミノラルの道化師なのか?!」「あの大悪魔が何でいるんだ?!」「だから、もうやめるべきだと言ったんだ!!」
そんなことを考えていると、俺の道化師発言を聞いた聖職者たちは、思い思いの声を上げていた。
今までの自分の行いを後悔する者や、他の者を責めだす者。そして、本当に訳が分からないといった顔をしている者たちもいる。
どうやら、全員が全員悪事だと知っていながら加担している訳ではないらしい。
あとでオリスの仲間だけを炙り出す必要があるなと考えながら、俺は教壇近くにいる二人に視線を向けた。
おそらく、服装から察するに奥にいるのが司教で、手前にいる少し身軽そうな恰好をしているのが呪術師なのだろう。
村の人たちが頬をこけさせたり、衰弱して死んだりしているというのに二人とも肌艶は良さそうだった。
おそらく結構良い物を食べているのだろう。司教の方は体型からそれが分かる腹まわりをしている。
指に付けている高価な宝石が付いたアクセサリーから、詐欺染みた宗教でかなり儲けているのだと察することもできた。
俺はそんな男たちを前にして、仮面で見えない眉間に皺を寄せていた。
「……大丈夫だ、我らにはオルス様がいる」「そうだ、オルス様はどこから湧いたのか分からないあんな奴に負けたりしない」「お、オルス様! 我々をお守りください!!」
しかし、明らかに脅えている彼らの中の誰かが、オリスに縋るようにそんな声を上げていた。
どうやら、彼らの中ではかなりオリスへの信頼が厚いらしい。
その声援の先にいたオリスの方に視線を向けると、オリスは自分が無茶ぶりでもされたかのように驚いた後、俺の視線を気にしてか咳ばらいを一つした後に言葉を続けた。
「み、ミノラルの悪魔よ! なぜここにいるのか分からないが、我は呪術の使い手だ!! 今引くなら、へミスの名に置いて貴様のことは許してやろう!!」
オリスの言葉は声の節々が震えていて、無理やり勢い任せに発したようなものだった。
オルスの一声によって恐怖が少し和らいだのか、【感情吸収】で得られている力も減って……ないな。全然変わってないわ、これ。
どうやら、呪術師もその周りにいる奴らも、所詮は虚栄を張っているだけみたいだ。
さて、どうしたものか。
おそらく、多少は何かしらの抵抗をしてくるだろうし、こちらも何かしら攻撃の準備くらいはいておいた方がいいだろう。
そう考えたときに、一つのアイディアが浮かんだ。
言霊を使って攻撃してくるというのなら、手始めにその言葉を封じてしまうか。
そんなことを考えた俺は、目の前で顔を青くさせているオリスに向けて右の手のひらを向けた。
少し手を動かしただけだというのに、オリスは肩をビクンとさせて虚栄を張ったような大きな声を上げていた。
「わ、我らに逆らうならば、裁きを与えねばならんな! 我、罪人にーーな、なんだこれはーー」
手を動かしたと同時に【肉体支配】のスキルを発動させると、教会には無数の赤いバルーンが浮かんでいた。
「神が許しても、私はあなたを粛正しなくてはなりません」
まるで、初めにそこからあったかのように現れたバルーンは、不気味に揺れた数秒後に一斉に破裂してその場から姿を消した。
そして、その瞬間にこの教会にいる者の体の支配権は俺の手に渡った。
破裂によって一気に静かにさせられた教会の中で、俺は言葉を続けた。
「呪術師のあなたへの粛清として、手始めに言葉を奪わせていただきました」
「? あああ? あっ、あああっ?!」
俺の言っている言葉の意味が分からないのか、オリスは首を傾げなら何かをを口にしようとして、自分の異変に気づいたらしい。
言葉を奪った。それらしいことを口にしたが、ただオリスの顎と舌の動きを封じただけだった。
しかし、状況が状況だけに、慌てているオリスは本気で言葉を奪われたと思っているようだ。
なんとか言葉を発しようとして、ただの奇声のような言葉しか出せなくなった現状を勝手に誤解しているみたいだ。
まぁ、言葉を奪われでもしたら、呪術師にとっては致命的だもんだ。
せっかくだから、もっと脅しておくとするか。
「それでは次に、ミノラルの人々を騙したあなたの舌をいただきますか」
「あ、ああああっ! ああああっ!!」
俺はつかつかと足音を立てながら、教壇に上るとすぐそこにあった机の前に来るようにオリスに手招きをした。
オリスは俺の元に向かおうとしている足を止めようとして、大声を出しながら暴れようとしていたが、暴れることもできないオリスはそのまま俺の指示に従った足によって、俺の元に連れてこられていた。
「あっ、あっ……っ」
「舌を出して、ここに顎を置きなさい」
心では抵抗しているのに、意思に反して動く体を前にして、オリスは何もできるはずがなかった。
俺の指示通りに教壇の机の上に顎を置いたオリスは、そのまま伸ばせる限り自身の舌を限界まで伸ばしていた。
恐怖で歪んだ顔からは、これからされることへの恐怖によって目からは涙を、口からはだらしなく垂れてくる唾液で机を濡らしていた。
死への恐怖によって心臓の音が速くなったのか、オリスは息が上がったように短い呼吸をしていた。
あとは、夢の中で痛い目に遭ってもらうとするか。
「全ての罪を自白して償わない限り、またあなたの元に現れるということをお忘れなく」
俺はそんな言葉と共に、流れるようにアイテムボックスから取り出したナイフを片手で持って、大きく振りかぶった。
「ああああああああっ! ……あっ」
そして、死への恐怖で限界まで歪んだ顔と断末魔のような叫びを聞きながら、直前で指の先で舌を思いっきり押して、ナイフの先を俺の手にかすめさせた。
それと同時に【精神支配】のスキルを発動させると、涙で濡れていたオリスの目はぎゅるんと白目になった。
ナイフにかすめた俺の手から噴き出た血は、そのままオリスの舌に振り注ぎ、傍から見たら、オリスの舌を切断したときに噴き出した血だと思うだろう。
舌を強く推したせいで、オリス本人も本当に舌を切断されたと思ったかもしれない。
もしかしたら、【精神支配】をするまでもなく気を失っていたかもしれないな。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」「お、おえぇぇっ!!」「はっ、はっ、た、助けてくれっ、誰かっ、誰かっ!!」
どうやら、先程のやり取りは見事に勘違いを生んだらしい。阿鼻叫喚の嵐になっている教会の様子から、作戦が上手くいったのは明確だった。
その隙を見て俺はバレない様に指先を回復魔法で修復させて、倒れているオリスをそのままにして、周りにいる聖職者の方に視線を向けた。
「それでは、続けましょう。次にこの呪術師の仲間たちはこちらに来てください。司教も来てもらいましょうか」
俺がそんな言葉と共に【肉体支配】でそう命令すると、聖職者たちの方から数人が俺の方に近づいてきた。
「や、やめっ、うわっ! あ、足が! 足が勝手に!!」
「司教にはお仲間たちの断末魔をお聞きいただきましょう」
そうして、舌から血を噴き出しているように見えるオリスの上で、俺は近づいてきた司教を近くに立たせた。
そして、抵抗むなしく俺の元に近づいてこさせられた男と司教の目が合うようにししながら、俺は【精神支配】のスキルと共に言葉を口にした。
「ミノラルの子供に手を出した者には、粛清を」
「や、やめてくれっ、司教様!! お、お助けをーーうわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
【感情吸収】で高められた恐怖心から俺に対して幻覚を見ながら、【精神支配】を受けて喉から血が出るんじゃないかというくらい叫ぶ仲間たち。
「はっ、はっ……っ」
そんな光景を前に、司教は上手く息をすることもできないくらいに呼吸が浅くなっていた。
司教からしたら、次々に目の前で仲間が殺されていくように映っているのだろう。それも、その最後から目が逸らせないという状況で。
俺が手を離すと、【精神支配】で気を失った男たちは力なくオリスの上に積まれていった。
ピクリとも動かず、すぐそこには血の跡が残っている。
すでに腰を抜かしている司教を【肉体支配】で無理やりに立たせて、俺は仲間たちが力尽きていく様子をその目に焼き付けさせることにした。
「では次の方、こちらにどうぞ」
俺が指をくいっとすると、すぐに次のオリスの仲間が俺の元にやってきた。服が皺だらけになっているのは、どうにか逃れようとした跡なのかもしれない。
俺がその男に手をかざすと、男は必死の形相で言葉を口にしようとしていた。
「道化師様違うのです! 私は、私はっ……司教様!! 私をお助けくださいっ! し、しきょっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はっ、はっ、うぷっ……」
そして、俺は【精神支配】で気を失った男をまた地面に転がる男の上に転がして、吐きそうな司教をそのままに、何事もなかったかのように口を開いた。
「では次の方、こちらに」
こうして、俺はオリスの仲間と思われる聖職者たちに次々に【精神支配】を使用していった。
教会とは思えないほどの男たちの悲鳴が響き、その数は五人を超えたくらいの所で、残りは司教だけとなった。
この場にいる他の十人くらいの聖職者たちは、どうやら悪事に加担しているという意識もなかったみたいだし、その人たちには【精神支配】のスキルは使わなくていいだろう。
「はっ、はっ、はっ……」
「それでは、最後はあなたですね、司教」
地面に積まれたのは【精神支配】によって、意識を失った男たちが雑に積まれているという図。
一人ずつその男が積まれていく様子を見せられていた司教は、まだ直接的に何かをされたわけではないのに、すでに顔を涙でぐちゃぐちゃにしていた。
司教は恐怖のあまりおかしくなった息遣いと、時折えずくような素振りを見せながら、必死の形相で言葉を続けた。
「お、お助け下しさいっ、大悪魔様!! 罪を全て告白して、この村の人たちに償いますっ! どうかっ、い、いい、命だけはっ!!」
俺は意図せず引き出せた言葉を前に、少しだけ驚いていた。
そう、これだけのことをしながら外傷も与えず、命を取らなかったのは、村の人たちから奪い取った金を返させるためだった。
そのために、可能な限り脅しをかけようと思っていたのだ。
おそらく、この男たちを殺して一銭にもならないよりも、金銭として返ってきた方がこの村の復興にはいいだろう。
そう思っていただけに、その言葉を自ら言わせることができたのは大きかった。
そんなふうに少しだけ感心しながらも、おそらく俺がオリスに言っていたことを思い出して、必死で命乞いをしているだけだろうと思うと、反省の色がいまいち見えないような気がした。
「良い心がけです。命を取るのは、今後の行いを見てから決めましょう」
「あ、ありがとうございますっ!! 大悪魔に誓って、償わせていただきますっ!!」
いや、仮にも司教が悪魔に誓うってどういうことだとか思いながら、俺は一度降ろしかけた手をまた司教の顔の前に持っていった。
「だ、大悪魔様?」
「まぁ、それと粛清は別の話ですが」
「だ、大悪魔様、お、お助っ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そして、俺は最後に司教に【精神支配】のスキルを使って、白目を向いた司教をその場に捨ててーーえ、泡吹いてる?
……まぁ、死んではないだろ。え、死んでないよな?
俺は司教の生死を少しだけ心配しながら、周りにいる他の聖職者たちの方にちらりと視線を向けた。
「「「ひっ!!」」」
俺に視線を向けられただけで脅えている様子を見て、自分がどんなふうに見られているのかますます気になってしまった。
時折、ポチに向ける視線も脅えているし、一体ポチが何に見えているのだろうか。
「……『スモーク』」
そんなことを考えながら、俺はこの場を後にするために煙幕を発生させる魔法を使用した。
辺り一帯を覆うほどの煙幕が出たのを確認してから、俺は【潜伏】のスキルを使って小さくなったポチを抱きかかえながら、この場を後にしようとした。
「ひぃっ! な、なんだこの煙は?!」「巻き込まれるなよ! 地獄に連れ去られるぞ!!」「大悪魔様っ、どうか……どうかっ」
いや、地獄に連れ去らないし、悪魔でもないからな?
なんか今回は以前以上に悪魔と間違えられている気がする。道化師は大悪魔だという変な噂が広まっているからだろうか?
少し考えてみたが結局分からず、俺はそのまま勝手に誤解して阿鼻叫喚と化している教会を後にしたのだった。
そして、教会にいた男たちが俺たちをどう見ていたのかを知るのは、もう少しだけ後のことだった。
そんな情報を事前に聞いていた俺達は午前中に事を終える必要があった。
俺と呪いに対して耐性があるポチが教会の中を、リリには教会に村人が入ってこないように結界を張ってもらって、外で待機をしてもらうことにした。
まぁ、リリに外で結界を張ってもらったのは、下手に村の人が近づかないようにといった意味もあるが、どちらかといえば別の役割をしてもらうためだった。
それは、教会からの叫び声を漏らさないようにするためだ。
おそらく、教会は結構うるさいことになるだろうし、その配慮とかを考えた結果だった。
教会に潜入するのは【潜伏】のスキルがあれば難しいことはなかったし、オルスが教会に来るまで暇で退屈だったことを除けば、特に苦労したことはなかった。
「ど、道化師……み、ミノラルの道化師なのか?!」「あの大悪魔が何でいるんだ?!」「だから、もうやめるべきだと言ったんだ!!」
そんなことを考えていると、俺の道化師発言を聞いた聖職者たちは、思い思いの声を上げていた。
今までの自分の行いを後悔する者や、他の者を責めだす者。そして、本当に訳が分からないといった顔をしている者たちもいる。
どうやら、全員が全員悪事だと知っていながら加担している訳ではないらしい。
あとでオリスの仲間だけを炙り出す必要があるなと考えながら、俺は教壇近くにいる二人に視線を向けた。
おそらく、服装から察するに奥にいるのが司教で、手前にいる少し身軽そうな恰好をしているのが呪術師なのだろう。
村の人たちが頬をこけさせたり、衰弱して死んだりしているというのに二人とも肌艶は良さそうだった。
おそらく結構良い物を食べているのだろう。司教の方は体型からそれが分かる腹まわりをしている。
指に付けている高価な宝石が付いたアクセサリーから、詐欺染みた宗教でかなり儲けているのだと察することもできた。
俺はそんな男たちを前にして、仮面で見えない眉間に皺を寄せていた。
「……大丈夫だ、我らにはオルス様がいる」「そうだ、オルス様はどこから湧いたのか分からないあんな奴に負けたりしない」「お、オルス様! 我々をお守りください!!」
しかし、明らかに脅えている彼らの中の誰かが、オリスに縋るようにそんな声を上げていた。
どうやら、彼らの中ではかなりオリスへの信頼が厚いらしい。
その声援の先にいたオリスの方に視線を向けると、オリスは自分が無茶ぶりでもされたかのように驚いた後、俺の視線を気にしてか咳ばらいを一つした後に言葉を続けた。
「み、ミノラルの悪魔よ! なぜここにいるのか分からないが、我は呪術の使い手だ!! 今引くなら、へミスの名に置いて貴様のことは許してやろう!!」
オリスの言葉は声の節々が震えていて、無理やり勢い任せに発したようなものだった。
オルスの一声によって恐怖が少し和らいだのか、【感情吸収】で得られている力も減って……ないな。全然変わってないわ、これ。
どうやら、呪術師もその周りにいる奴らも、所詮は虚栄を張っているだけみたいだ。
さて、どうしたものか。
おそらく、多少は何かしらの抵抗をしてくるだろうし、こちらも何かしら攻撃の準備くらいはいておいた方がいいだろう。
そう考えたときに、一つのアイディアが浮かんだ。
言霊を使って攻撃してくるというのなら、手始めにその言葉を封じてしまうか。
そんなことを考えた俺は、目の前で顔を青くさせているオリスに向けて右の手のひらを向けた。
少し手を動かしただけだというのに、オリスは肩をビクンとさせて虚栄を張ったような大きな声を上げていた。
「わ、我らに逆らうならば、裁きを与えねばならんな! 我、罪人にーーな、なんだこれはーー」
手を動かしたと同時に【肉体支配】のスキルを発動させると、教会には無数の赤いバルーンが浮かんでいた。
「神が許しても、私はあなたを粛正しなくてはなりません」
まるで、初めにそこからあったかのように現れたバルーンは、不気味に揺れた数秒後に一斉に破裂してその場から姿を消した。
そして、その瞬間にこの教会にいる者の体の支配権は俺の手に渡った。
破裂によって一気に静かにさせられた教会の中で、俺は言葉を続けた。
「呪術師のあなたへの粛清として、手始めに言葉を奪わせていただきました」
「? あああ? あっ、あああっ?!」
俺の言っている言葉の意味が分からないのか、オリスは首を傾げなら何かをを口にしようとして、自分の異変に気づいたらしい。
言葉を奪った。それらしいことを口にしたが、ただオリスの顎と舌の動きを封じただけだった。
しかし、状況が状況だけに、慌てているオリスは本気で言葉を奪われたと思っているようだ。
なんとか言葉を発しようとして、ただの奇声のような言葉しか出せなくなった現状を勝手に誤解しているみたいだ。
まぁ、言葉を奪われでもしたら、呪術師にとっては致命的だもんだ。
せっかくだから、もっと脅しておくとするか。
「それでは次に、ミノラルの人々を騙したあなたの舌をいただきますか」
「あ、ああああっ! ああああっ!!」
俺はつかつかと足音を立てながら、教壇に上るとすぐそこにあった机の前に来るようにオリスに手招きをした。
オリスは俺の元に向かおうとしている足を止めようとして、大声を出しながら暴れようとしていたが、暴れることもできないオリスはそのまま俺の指示に従った足によって、俺の元に連れてこられていた。
「あっ、あっ……っ」
「舌を出して、ここに顎を置きなさい」
心では抵抗しているのに、意思に反して動く体を前にして、オリスは何もできるはずがなかった。
俺の指示通りに教壇の机の上に顎を置いたオリスは、そのまま伸ばせる限り自身の舌を限界まで伸ばしていた。
恐怖で歪んだ顔からは、これからされることへの恐怖によって目からは涙を、口からはだらしなく垂れてくる唾液で机を濡らしていた。
死への恐怖によって心臓の音が速くなったのか、オリスは息が上がったように短い呼吸をしていた。
あとは、夢の中で痛い目に遭ってもらうとするか。
「全ての罪を自白して償わない限り、またあなたの元に現れるということをお忘れなく」
俺はそんな言葉と共に、流れるようにアイテムボックスから取り出したナイフを片手で持って、大きく振りかぶった。
「ああああああああっ! ……あっ」
そして、死への恐怖で限界まで歪んだ顔と断末魔のような叫びを聞きながら、直前で指の先で舌を思いっきり押して、ナイフの先を俺の手にかすめさせた。
それと同時に【精神支配】のスキルを発動させると、涙で濡れていたオリスの目はぎゅるんと白目になった。
ナイフにかすめた俺の手から噴き出た血は、そのままオリスの舌に振り注ぎ、傍から見たら、オリスの舌を切断したときに噴き出した血だと思うだろう。
舌を強く推したせいで、オリス本人も本当に舌を切断されたと思ったかもしれない。
もしかしたら、【精神支配】をするまでもなく気を失っていたかもしれないな。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」「お、おえぇぇっ!!」「はっ、はっ、た、助けてくれっ、誰かっ、誰かっ!!」
どうやら、先程のやり取りは見事に勘違いを生んだらしい。阿鼻叫喚の嵐になっている教会の様子から、作戦が上手くいったのは明確だった。
その隙を見て俺はバレない様に指先を回復魔法で修復させて、倒れているオリスをそのままにして、周りにいる聖職者の方に視線を向けた。
「それでは、続けましょう。次にこの呪術師の仲間たちはこちらに来てください。司教も来てもらいましょうか」
俺がそんな言葉と共に【肉体支配】でそう命令すると、聖職者たちの方から数人が俺の方に近づいてきた。
「や、やめっ、うわっ! あ、足が! 足が勝手に!!」
「司教にはお仲間たちの断末魔をお聞きいただきましょう」
そうして、舌から血を噴き出しているように見えるオリスの上で、俺は近づいてきた司教を近くに立たせた。
そして、抵抗むなしく俺の元に近づいてこさせられた男と司教の目が合うようにししながら、俺は【精神支配】のスキルと共に言葉を口にした。
「ミノラルの子供に手を出した者には、粛清を」
「や、やめてくれっ、司教様!! お、お助けをーーうわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
【感情吸収】で高められた恐怖心から俺に対して幻覚を見ながら、【精神支配】を受けて喉から血が出るんじゃないかというくらい叫ぶ仲間たち。
「はっ、はっ……っ」
そんな光景を前に、司教は上手く息をすることもできないくらいに呼吸が浅くなっていた。
司教からしたら、次々に目の前で仲間が殺されていくように映っているのだろう。それも、その最後から目が逸らせないという状況で。
俺が手を離すと、【精神支配】で気を失った男たちは力なくオリスの上に積まれていった。
ピクリとも動かず、すぐそこには血の跡が残っている。
すでに腰を抜かしている司教を【肉体支配】で無理やりに立たせて、俺は仲間たちが力尽きていく様子をその目に焼き付けさせることにした。
「では次の方、こちらにどうぞ」
俺が指をくいっとすると、すぐに次のオリスの仲間が俺の元にやってきた。服が皺だらけになっているのは、どうにか逃れようとした跡なのかもしれない。
俺がその男に手をかざすと、男は必死の形相で言葉を口にしようとしていた。
「道化師様違うのです! 私は、私はっ……司教様!! 私をお助けくださいっ! し、しきょっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はっ、はっ、うぷっ……」
そして、俺は【精神支配】で気を失った男をまた地面に転がる男の上に転がして、吐きそうな司教をそのままに、何事もなかったかのように口を開いた。
「では次の方、こちらに」
こうして、俺はオリスの仲間と思われる聖職者たちに次々に【精神支配】を使用していった。
教会とは思えないほどの男たちの悲鳴が響き、その数は五人を超えたくらいの所で、残りは司教だけとなった。
この場にいる他の十人くらいの聖職者たちは、どうやら悪事に加担しているという意識もなかったみたいだし、その人たちには【精神支配】のスキルは使わなくていいだろう。
「はっ、はっ、はっ……」
「それでは、最後はあなたですね、司教」
地面に積まれたのは【精神支配】によって、意識を失った男たちが雑に積まれているという図。
一人ずつその男が積まれていく様子を見せられていた司教は、まだ直接的に何かをされたわけではないのに、すでに顔を涙でぐちゃぐちゃにしていた。
司教は恐怖のあまりおかしくなった息遣いと、時折えずくような素振りを見せながら、必死の形相で言葉を続けた。
「お、お助け下しさいっ、大悪魔様!! 罪を全て告白して、この村の人たちに償いますっ! どうかっ、い、いい、命だけはっ!!」
俺は意図せず引き出せた言葉を前に、少しだけ驚いていた。
そう、これだけのことをしながら外傷も与えず、命を取らなかったのは、村の人たちから奪い取った金を返させるためだった。
そのために、可能な限り脅しをかけようと思っていたのだ。
おそらく、この男たちを殺して一銭にもならないよりも、金銭として返ってきた方がこの村の復興にはいいだろう。
そう思っていただけに、その言葉を自ら言わせることができたのは大きかった。
そんなふうに少しだけ感心しながらも、おそらく俺がオリスに言っていたことを思い出して、必死で命乞いをしているだけだろうと思うと、反省の色がいまいち見えないような気がした。
「良い心がけです。命を取るのは、今後の行いを見てから決めましょう」
「あ、ありがとうございますっ!! 大悪魔に誓って、償わせていただきますっ!!」
いや、仮にも司教が悪魔に誓うってどういうことだとか思いながら、俺は一度降ろしかけた手をまた司教の顔の前に持っていった。
「だ、大悪魔様?」
「まぁ、それと粛清は別の話ですが」
「だ、大悪魔様、お、お助っ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そして、俺は最後に司教に【精神支配】のスキルを使って、白目を向いた司教をその場に捨ててーーえ、泡吹いてる?
……まぁ、死んではないだろ。え、死んでないよな?
俺は司教の生死を少しだけ心配しながら、周りにいる他の聖職者たちの方にちらりと視線を向けた。
「「「ひっ!!」」」
俺に視線を向けられただけで脅えている様子を見て、自分がどんなふうに見られているのかますます気になってしまった。
時折、ポチに向ける視線も脅えているし、一体ポチが何に見えているのだろうか。
「……『スモーク』」
そんなことを考えながら、俺はこの場を後にするために煙幕を発生させる魔法を使用した。
辺り一帯を覆うほどの煙幕が出たのを確認してから、俺は【潜伏】のスキルを使って小さくなったポチを抱きかかえながら、この場を後にしようとした。
「ひぃっ! な、なんだこの煙は?!」「巻き込まれるなよ! 地獄に連れ去られるぞ!!」「大悪魔様っ、どうか……どうかっ」
いや、地獄に連れ去らないし、悪魔でもないからな?
なんか今回は以前以上に悪魔と間違えられている気がする。道化師は大悪魔だという変な噂が広まっているからだろうか?
少し考えてみたが結局分からず、俺はそのまま勝手に誤解して阿鼻叫喚と化している教会を後にしたのだった。
そして、教会にいた男たちが俺たちをどう見ていたのかを知るのは、もう少しだけ後のことだった。
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主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える
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私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。
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カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
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アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
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【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
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