パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬

文字の大きさ
上 下
176 / 191

第176話 第二幕、閉幕

しおりを挟む
「……んっ」

 体の重さとダルさを感じながら目を開けると、そこにはただ満月と星空が広がっていた。

 仰向けでこの光景を見ているということは、俺はここで倒れているということになる。

 一体、俺はこんな何もない所で何をしているのだろうか?

 そんな事を考えて、ぼうっとしているとその景色に割り込んできた顔があった。

「あっ、おはようございます」

「……リリか」

横からひょこっと顔を覗かせてきたのは、リリの顔だった。

 どんな状況だと思って考えてみると、頭の下に何か心地よいものが置かれていた。

 俺は動かない体に鞭を打つように、腕に力を入れてそれに軽く触れてみた。

「ひゃんっ! え、ど、どうしたんですか?」

「脚? そうか、膝枕されているのか」

 何やら顔を赤くしたリリの反応と、後頭部にある感触を確かめると、今の状況を把握することができた。

 なんだ、ただ夜空を見ながら、リリに膝枕をされているという状況か。

「……いや、それってどういう状況だよ」

「アイクさん?」

 少し砂を被ったように汚れた顔を傾けているリリを見ながら、俺は何か思い当たる節はないかと思い出してみた。

 なんか、以前にも似たような感覚に陥ったことがあった気がする。

 確か、【クラウン】のスキルを使った時にーー

「そうだ! 敵はどうなったんだ?!」

 そこまで思い出したところで、少し前の記憶を思い出した。

 多くの敵を前に、リリとポチを逃がして【クラウン】のスキルを使ったんだった。

 確か結構な数がいたはず。もしかしたら、まだどこかにその影があるのかもしれない。

「倒したみたいですよ。……多分、アイクさんが全員」

「ぜ、全員?」

 確か、相当な数と腕の立つ男達がいたはずだ。

 その足止めくらいなら、【クラウン】を使えばできるかもしれないとは思っていたが、それを全員倒した?

 俺が? あの数を?

 俺がよほど信じられないという顔をしていたのだろう。

 リリはそっと俺の頬に触れると、少し顔の位置を傾けてくれた。

 そして、位置が変えられた視線の先に広がっていた景色を見て、俺は言葉を失っていた。

「……なんだ、これ」

 そこに広がっていたのは、多くの男たちが一斉に気を失ったように倒れている姿だった。

 目立つような外傷はないのに、ピクリとも動く気配がない。

 倒したというにしては、その命までも刈り取られたような生気のなさに、驚きを隠せなかった。

「それは私達のセリフですよ」

 リリはそう言うと、何か言いたげに俺の頬を軽く指の先で押してきた。

「リリ?」

 何をされているのだろうと思っていると、いつもの間にか俺の視界に入って来ていたポチにも、鼻の先を舐められていた。

 リリと同じく砂を浴びたように汚れていたポチは、再会を喜ぶように息を切らしていたが、妙に近い距離で俺のことをじっと見つめていた。

 もふもふが近くにいるという無言の圧力。

「……追いつくんじゃなかったんですか?」

 そのセリフを聞いて、二人が何を心配していたのか理解できた。

 俺が二人の命を心配して逃がしたように、戦場から離脱してからずっと俺のことが心配だったのだろう。

 後で追いつくと言われたら、さすがにすぐにこの戦場に戻ってくるわけにはいかないもんな。

 助けに戻ることもできず、ただ俺を待つだけの時間は結構胸に来るものがあったのかもしれない。

 戦場が静かになったのに、それでも帰ってこなかったら、心配にもなるよな。

「いや、そこに関しては申し訳ない。体が動かなくてな」

「さっきまで、意識まで失っていましたもんね」

 リリはそう言うと、小さくため息を漏らしながら、俺の頬を優しく撫でてきた。

 そして、そんな俺たちの後ろから大きな空砲の音が聞こえてきた。

 一度目の余韻を残すことなく、二度三度と続いて、そのまま空砲は五度まで続いて鳴らされた。

「……今から、さっきの奴らよりも強い奴らが来るってことはないよな?」

「ふふっ、さすがにそれはありませんよ」

 予期しなかった四度目の空砲があったので、少し心配になり過ぎていたようだ。

 その後少しだけ待ってみたが、エリアZへの入り口になっている重厚な門からは誰かがやってくる様子はなかった。

 俺が安堵のため息を吐いたのを見て、リリは小さく笑った後に優しい顔で言葉を続けた。

「お疲れ様です。アイクさん」

「……ああ。リリもポチも、お疲れ様」

 五度目の空砲の余韻だけが残る戦場は、先程とは想像もできないくらいに静かな物だった。

 こうして、静かになった夜の下、徐々に上がってきた陽の光を浴びながら、俺たちは『モンドルの夜明け』の瞬間に立ち会ったのだった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...