上 下
153 / 191

第153話 魔物の群れ

しおりを挟む
「リリ、ポチ。ちょっとストップだ」

「アイクさん?」

「くぅん?」

 ダンジョンも中層を通過して、下層に向かおうとしている階段の途中で、俺は前を歩く二人に声をかけた。

 急に声をかけられた二人はなんだろうかと小首を傾げていたが、何かに気づいたポチは鼻をひくひくとさせた後、小さく唸るような声を上げていた。

「この先に魔物がいる。それも、相当な数だな」

【気配感知】のスキルで周辺を探ってみると、俺達が階段を下りてすぐの所にスタンバイしている気配が数十個ほどあった。

 俺たちが今から下に向かおうとしているのを知っているのか、その気配はそこから動こうとはしない。

 俺たちが来るのを待ち構えているのだろう。

「アングラマウスの大軍がいるな」

 その気配の正体は、先程から何度も相手をしているアングラマウスの群れだった。

おそらく、ダンジョンに入ってすぐのところで出会ったアングラマウスではなく、中層くらいから出会いだしたタイプのアングラマウスの群れだろう。

 一体ずつ相手をするなら、強くなったアングラマウスでも問題はない。ただ、あの強さの魔物が集団で襲ってくるような事態はあまり考えたくはない。

 もしも、予期しないタイミングで襲われでもしたら、俺たちでも苦戦するかもしれない。普通のA級パーティレベルでも、不意を襲われたら壊滅することもあるだろう。

 おそらく、行方が分からなくなったA級パーティのメンバー達も、こいつらに襲われたのかもしれない。

「……こんなに統率が取れてるのはおかしいよな」

 魔物が群れでいる状況というのはそこまで不思議なことではない。それでも、一つの対象に合わせて、息を合わせたように連携を組むような事態は普通ではない。

 先程から何度も衝突していた、普通とは違う強さを持つ魔物達。そして、それらが連携を取っているという事実。

「裏に何かいるな」

「リーダー的な存在がいるってことですか?」

「分からん。でも、このまますぐそこにいるアングラマウスを倒しても、A級パーティたちの行方は分からないかもな」

 正直、奇襲でもされないのなら、すぐそこいる魔物達を蹴散らすのは難しくない。俺でなくても、リリの結界魔法でも倒しきることができるだろう。

 ただ、それだと魔物を倒すだけで、依頼内容にあったA級パーティの捜索はできなくなる。

 ……それなら、ここでの倒し方は限られてくるな。

「ここは俺に任せてくれ」

 俺は二人にそう言い残すと、【潜伏】のスキルを使用してから階段を下っていった。

 そして、ダンジョンの壁の影から俺はその気配の集団を覗き込んだ。

 そこにいたのは五十近いアングラマウスの集団。その中には、僅かながらオークの姿も見える。

 そのどれもが息を荒くして、興奮状態にあるみたいだが、その目は今まで相手にしてきた魔物達よりも落ち着いて見える。

 まぁ、これだけ興奮していれば操るのは簡単か。

「【肉体支配】」

俺がそのスキルを使用すると、真っ赤な丸い形をしたバルーンが何もない所から無数に生まれた。

初めからそこにあったかのようなそれらは、ただぷかぷかと浮いており、突然現れたそれに魔物達は不思議そうな目を向けていた。

 操るのは数体だけでいい。一気に全ての魔物の動きを止めるのではなく、ただ互いを刺激し合うように。

 ぱんっと音を立ててバルーンが割れると、群れの中から五体ほどのアングラマウスの体の支配権を手にすることができた。

 俺はその五体を操作して、近場にいる魔物に鋭い牙を突き立てるようにして襲わせた。

「ぴぎぃぃぃっ!!」

 予想もしなかった仲間からの攻撃に対して、攻撃を受けた魔物が攻撃をしてきたアングラマウスに飛びかかる。

そこに、別のアングラマウスを投入させて、反撃をかわさせて、他の魔物にその攻撃を当てさせて。

それを繰り返していくうちに、興奮した状態で待機していた魔物達は、一気に仲間割れを引き起こした。

「……地獄絵図だな」

 互いに興奮した状態では、一度着火した怒りは収まることなく燃え続けた。それこそ、互いが力尽きるまで永遠に。

 俺は操作しているアングラマウスを一時的に避難させて、仲間割れが落ち着いた頃に再投入させて、しっかりと魔物達にとどめを刺しておいた。

 そうして、アングラマウスが最後の一匹になったタイミングで、俺は【潜伏】のスキルを解除した。

「よっし。『おいで』」

 俺は傷だらけになったアングラマウスの体を操作して、こちらにその体を持って来させた。

そして、そのまま額をこちらに向けさせて、俺はそこに手のひらを向けた。

「【催眠】」

【肉体支配】のスキルを解除して、俺は一体のアングラマウスに【催眠】のスキルをかけた。

【催眠】をかけられたアングラマウスは、興奮しきっていた目を落ち着かせて、力のない目をこちらに向けてきた。

「『この群れのリーダーの所に、連れて行ってもらおうか』」

 俺が静かな声でそう言うと、アングラマウスは俺の言葉が伝わったのか、小さく頷いてゆっくりと歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

処理中です...