パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬

文字の大きさ
上 下
146 / 191

第146話 ミノラルの道化師

しおりを挟む
「お母さ~ん、あれ買って~!」

「ダメよ、そんなに我儘ばかり言うんじゃありません」

「やだよ~! 買ってよ~!」

「そんな我儘ばかり言ってると、『恐怖の道化師』が来るわよ!」

「うわあぁぁぁん! ごめんなさぁい!!」

「……」

 ミノラルの冒険者ギルドを出ると、市場から帰ってきたような親子のそんな会話が聞こえてきた。

 すっかり、有名になったミノラルの道化師。王女を他国から守り抜いた英雄として噂されるとばかり思っていた。

 しかし、実際はそんな噂にはならなかった。

 我儘を言う子を脅すための文句として使われ、それを言われた子供はガチ泣きするほど、道化師が自分の元に来ることを怖がってしまっている。

 とても、英雄のことを話しているようには思えない。

「はぁ……どうして、こうなった」

 ミノラルに住み着く悪魔、『恐怖の道化師』。そんな通り名が付けられてしまうことになるとは。

 時は少し前に遡る。

 イリスに変装してワルド王国に潜入して、ワルド王国の王をたっぷり脅して帰還して数日後、俺はミノラルの王城に呼ばれることになったのだった。

「アイク、リリよ。イリスの護衛、ご苦労だった」

「勿体ないお言葉、ありがとうございます」

 俺がワルド王国の王に脅しをかけた後、俺はイリスを匿っているオリスの別荘に戻った。

そして、そこでイリスの護衛のために数日過ごしたのだが、特に盗賊たちに襲われることはなかった。

 しばらくその別荘で過ごすことになるのかと思っていると、ワルド王国が全面的に降伏することになったという話が入ってきて、俺たちはミノラルに戻ることになった。

 どうやら、脅されたワルド王国の王は、ちゃんと約束を守ってくれたらしい。

 イリスの護衛も無事に終わったと思って油断していると、急に王城に来るようにと言われた。

 王城というかしこまった場所はあまり好きではないのだが、もしかしたら、結構な褒美を貰えるんじゃないかと思って、その日は結構ワクワクしながら王城に向かったのだ。

 そして、謁見の間にてミノラルの王からお言葉を頂くことになった。

「……アイクよ。報告によると、単身ワルド王国に向かって、ワルド王国の王に我が国に手を出すなと言いに行ったそうではないか」

「はい。エリスお嬢様が今後も狙われる可能性があったので、釘を刺しに行きました」

「ふむ、そうか。今後のエリスのことまで見越して、そこまでしてくれるとはな。驚いたが、よくやってくれた」

「ありがたきお言葉です」

 正直、やり過ぎた感もあったので少し怒られるかもしれないと思った節もあった。ただ、エリスのためを思って動いたことに関しては、評価してもらっているらしい。

 それだというのに、頭を下げたままちらりと王に向けた視線の先では、王は訝しげに目を細めていた。

 なぜそんな顔をしているのだろうと思っていると、王はその顔をそのままに言葉を続けた。

「『何でもしますから、『大悪魔 道化師様』のお怒りをお収めください!』って言ってきたのだが……お主、何したの?」

「だ、大悪魔?!」

 少しこちらに呆れるような目を向けている王は、えらく砕けた口調でそんな言葉を口にした。

 しかし、そんな目を向けられても俺だって分からない。

 確かに、少し脅しはしたけど、悪魔呼ばわりされるほどのことはしてないはずだぞ?

 そんな俺の意思が伝わったのか、王は胸元から何かの紙を取り出すと、それを読み上げるようにしながら言葉を続けた。

「ワルド王国からの報告によれば、エリスに化けて現れたと思ったら、騎士たちの体の自由を奪い、怒りに触れた者たちの精神を操って発狂させた後、言葉では表現できないくらい惨い悪夢を見せて、ミノラルに手を出すなという言葉を残して、その場から禍々しい煙を出しながら魔界に帰ったって話なのだが。この報告は本当なのか? なんか見るだけで震え上がるような姿をしていたって言ってるけど」

「あっ……」

【肉体支配】と【精神支配】のことを言ってるな、これ。でも、いくら【変化】で姿を変えていても、それが悪魔に見えるほどではないと思――あっ、【感情吸収】のせいだ。

 確か、【感情吸収】には恐怖の感情から幻覚などを見せる効果があるらしかったな。

「その反応をするということは、本当という認識でよいのだな?」

「あ、悪魔は使役しておりません。脅したのは私なのですが……傍から見たら、そう見えていたのかもしれません」

 そういえば、周りにいる騎士たちも目が合うだけで脅えていたような気がするな。

なるほど、やけに怖がってるなと思ったがそう言うことだったのか。……合点がいった。

「そ、そうか。単身乗り込み、戦争を回避させた功績はあまりにも大きすぎる。何か褒美をやらねばならんな」

 ワルド王国からの報告がどんなものだったのか。その詳細までは分からないが、俺が事実であることを認めると、目の前にいる王も微かに声を上ずらせていた。

 もしかして、さっき王が言った言葉って結構オブラートに包んだものだったりしないよな?

 もっと酷いことが書いてあって、それを俺が認めてしまったから、少し引いているとかじゃ……だめだ、考えるのはやめてこう。

「アイクよ。ハンスから聞いたが、今以上の位はいらないと申していたそうだな」

「はい。これ以上位を頂くと、本業の冒険者が疎かになってしまいます。それに、またこのような事態になった際に、自由に動くことが難しくなるかと」

 本音を言えば、今よりも上の位なんか貰ったら、面倒くさくなりそうだから断った。下手に高い身分で雁字搦めにされるより、金持ちの冒険者の方が楽しそうだしな。

 そんなことを正直に言える訳もなく、互いに利益があるようにそんな言葉を告げると、王もどこか納得したように頷いていた。

「ふむ。そうか……本人がそれを望むのならば、良いか。それなら、せめて褒美は弾ませてもらうぞ」

「ありがたき幸せです」

 こうして、俺はイリスの護衛は無事完了して、ワルド王国との戦争までも止めることに成功したのだった。

 そして、未然に戦争を防いだ『恐怖の道化師』の伝説は、すぐに広まることになり、今に至る。

「いつの間にか、道化師が恐怖の象徴みたいになってしまった」

「でも、そのおかげで、ミノラルはしばらく安泰だと思いますよ?」

 俺の隣で小さく笑みを浮かべながら、リリはそんな言葉を口にしていた。

 噂というものは尾びれ背びれが付くもの。今でさえ、隣国が恐れてひれ伏すくらいのこの噂が、他国に伝わったらどうなるのか。

 多分、下手にミノラルを刺激しようという国はしばらく出てこないだろうな。

「まぁ、結果的に人々を笑顔にしたということで」

 道化師が戦争を防ぐ抑止力になっているというのなら、それも悪くないだろう。

イリスどころか、この街の人々をしばらく守っていけると考えると、今回の結果もそこまで悪くはないんじゃないかと思った。

「うわあぁぁぁん! 道化師怖いよ~!!」

「「……」」

 こうして、泣き叫ぶ幼女の声を聞きながら、俺たちのイリスの護衛の依頼は無事に終わりを迎えたのだった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼

ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。 祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。 10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。 『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・ そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。 『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。 教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。 『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...