パーティ追放が進化の条件？！ チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

第124話 デジャヴと嫌な予感

「あ、アイクさん。旅行先から帰ってきたんですね。丁度良かったです」

「あ、ミリアさん」

　ちょっとした井戸端会議が開催されたギルド裏の倉庫に現れたのは、ギルド職員のミリアだった。

　『丁度良かった』という言葉から、何か俺に用事があるようだが、長い間ミノラルを離れた後のこの言葉からはあまり良い未来が見えない。

「えっと、なにか用事があったりします？」

「色々あるんですけど……あ、警戒しないでくださいよ」

「いや、警戒するなと言う方が無理ですよ」

　こちらから話しかけるときは問題ないが、ミリアの方から声をかけてくるときはあまり良いことがない気がする。

　以前も気がつけば他国の城に潜入することになっていたりしたし、警戒するなと言う方が無理だ。

「オラルの冒険者ギルドから報告が来ていてですね、報酬の受け取りとかのお話があるので、少しお時間いいですか？」

「冒険者ギルドですか？　……あっ」

　一瞬ピンとこなかったが、おそらく墓地の依頼を受けた件だろう。

　俺は直接冒険者ギルドの方に向かわなかったが、助けを求めに来たおじさんが代わりにギルドに報告をしておくと言っていたな。

「そういうことなら、分かりました」

　俺は井戸端会議をしているイーナとバングをその場に残して、リリとポチと共に冒険者ギルドの方へと向かったのだった。



「――それで、冒険者ギルドの代わりに墓地に向かってくれたと」

「はい。大まかにはそんな感じですね」

　俺たちは移動したギルドのカウンターで、集団墓地に湧き出たアンデッドたちを倒すことになった経緯を話していた。

　ミリアの話によると、本来は冒険者ギルドが解決をしないといけない問題だったので、ギルドの代わりに問題を解決したため報酬が出るらしい。

　貰えるものは貰っておいた方がいいだろうと思い、今は事実確認と少しの事務処理をしていた。

「そして、三人だけでアンデッド数十体と、アンデッドドラゴンを倒したと」

「……あれ？　もしかして、疑われてます？」

　オラルの冒険ギルドから届いた報告書を読みながら、ミリアはジトっとした視線をこちらに向けてきていた。

　その視線が気になったので、そんなことを聞いてみるとミリアは小さく横に首を振った。

「いえ、疑ってはいません。まぁ、以前に増して『人間離れしてきたなー』とは思ってますけど」

「に、人間離れって。あっ、俺はアンデッドドラゴンを相手にしただけですから。他のアンデッドを倒したのはリリとポチです。なので、ただ分業した結果です」

「いや、アンデッドドラゴンを倒しておいて何を言ってるんですか。それにしても、まさかリリさんまでそちら側に行かれるとは」

　ミリアは少し感慨深そうに、俺に向けていたのと同じ視線をリリにも向けていた。

「そちら側、ですか？」

　リリは言われている言葉の意味が分からないと言った様子で小首を傾げていた。

　まぁ、こんな可愛らしい子がアンデッドを数十体屠るようには見えないよな。

　ようこそ、人間離れしたステージへ、ってか？

「あっ、そういえば、結構ステータス上がっていると思うんですよ。だから、冒険者カードの更新もした方がいいですかね？」

　最近は一週間感覚で行っているステータスの更新。

　今回は二週間空いたし、その間にみっちりと修行を行っていたから、いつも以上にステータスが上がっていると思う。

当然、今回もこの流れで更新をする流れになるのだろうと思っていてのだが、ミリアは少し視線を逸らして気まずそうに頬を掻いていた。

「いえ、今回は大丈夫です」

「え、大丈夫？」

　どういう意味だろうかと思ってオウム返しのような反応をしてしまうと、ミリアはそのままこちらに視線を合わせずに言葉を続けた。

「時にアイクさん。明日からしばらくの間、予定って何かあったりしますか？」

「いや、特にはないですけど」

　なぜか裏返っているような声はどこか緊張しているようで、何かを隠しているような気がした。

　少しの疑いの目でミリアを見てみるが、ミリアはこちらに一向に視線を合わせようとしなかった。

「分かりました。長旅でお疲れでしょうから、今日はゆっくり休んで下さい。あ、あと、明日の午後は屋敷にいるようにお願いします」

　念を押して家にいるように告げてきたと言ことは、誰かしらが屋敷に訪ねてくるということか。

　正直、あまり良い予感がしない。

「……そのお願いを断ったら、なんかマズい感じですか？」

　俺がそんな返答をしてくることを想定していなかったのか、ミリアは勢いよく目を見開いて、こちらにバッと視線を向けてきた。

　しかし、すぐにぼろが出ることを恐れたのか、その視線を逸らしてしまった

「マズいですね。かなり、マズいです。あの、結構ガチな方で」

　ミリアがこれだけ動揺するのも珍しいな。そう思いながら、この謎の圧力に脅えるような姿は、以前に他の誰かで見たことがあった。

「……分かりました」

　俺は諦めたように小さなため息を一つ吐いて、覚悟を決めることにした。

　どうやら、俺はまた何かに巻き込まれようとしているらしい。