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第111話 アイクの問題点
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それから数時間、俺は短剣を使わずにルーロに手合わせをしてもらった。
しかし、今まで短剣での攻撃を主としてきたので、急に他の方法で攻撃をしろと言われても、そう簡単にいくはずがなくーー
「ハハハッ! 短剣を使えないからといって、代わりにナイフを使ったり、【近接格闘】で向かってきたりするとは思わなかったな!」
「いや、他にも【投てき】とかで攻撃もしましたよ。でも、それも簡単に弾かれたら、他に攻撃のしようがないじゃないですか」
結果から言うと、修行初日はルーロに全く歯が立たなかった。もうぼろ負けだった。
回復魔法で治療をしたため目立つ外傷はないが、赤子を捻るように何度も投げ飛ばされて、地面に背中を強打した。
正直、ここまで力の差があるとは思っていなかったので、体よりも心の方がボロボロだった。
そして、今はルーロの家でルーロが釣ってきた魚料理をご馳走になっていた。大量の魚料理とお酒という晩餐が並ぶ机の上は、とても修行中の食事には思えかった。
さすがに、貰うだけでは悪いと思って魔物肉を提供したら、それも机の上に並んでいた。
まるで、宴会でも開いているような食事風景だ。
「こんなに良い物食べちゃっていいんですか?」
「何を言うか。体を動かした分は補給をしなくては、体がもたないぞ? それに、久しぶりの来客だ。楽しんで何が悪い」
「まぁ、そういうことでしたら、ありがたくいただきます。……あっ、うまっ」
並べられた料理に手を付けてみると、自然とそんな言葉が漏れてしまった。
繊細な味付けというわけではない、荒々しい味付け。しかし、長時間体を動かし続けた体にはその塩分が染みて、箸が止まらなくなっていた。
この人、料理もできるのか。
「それはよかった。……さて、本題に入ろうか。アイク君、なんで君は私に一度も勝てなかったと思う?」
ルーロはコップに並々に注いだお酒を傾けながら、こちらに意味ありげな笑みを浮かべていた。
今日勝てなかった理由。それは明確に力の差があるからだろう。A級冒険者とS級冒険者。そもそも、力自体に差があるのだ。
考えるまでもなく分かることだ。
「ステータス差があるからですよね?」
「残念、違うな。それ以前の問題がある」
「それ以前の問題?」
あっさりと俺の返答を否定すると、ルーロはお酒の入ったコップを机の上に置いて、少しだけ身を乗り出すようにして言葉を続けた。
「アイク君、君は剣士に強い憧れでもあるのか?」
「憧れですか? いや、特にはないですけど……何でですか?」
「ふむ、そうか。今日何度も私に切りかかろうとしてきたから、何かしら憧れがあるのかと思ったが……憧れでないのなら、あの戦い方はお勧めしないな」
「お勧めしない、ですか」
短剣を片手に敵と向かい合う。冒険者らしい一般的な戦い方だと思っていた。
その戦い方が良くないというのだろうか?
今までそのスタイルで問題なくクエストを行えてきただけに、俺はルーロの言っている言葉を上手く呑み込めないでいた。
「簡単な話さ。S級冒険者の剣士と対峙して、その間合いに自ら突っ込んでくるなんて、自殺行為だと思わないかい?」
「それは……確かに、そうですね」
「もっと言ってしまえば、今の君は魔法使いが魔法で体を強化して、剣を振り回して剣士と対峙するようなことをしている」
「そ、それはかなり酷いですね」
「戦いをする上で、相手の得意な土俵に上がる必要はない。自分の得意な状況、間合いに相手を引きずり込んで、得意とする戦法で戦うのが定石だ」
そう言われて、以前にワルド王国で戦った男のことを思い出した。あの時も、俺は見るからに剣士だった相手に、短剣で切りかかったのだった。
ステータスに大きな差があるのかと思っていたが、問題はそこではなかったのかもしれない。
俺があの時に負けそうになった理由は、自ら相手の得意分野に足を突っ込んだからだ。
そして、それは今回も同じことだった。
「なぜそんな戦い方をするのか。憧れでないとすると、君は【道化師】の間合い、ジョブ、スキル。それらを把握していないんじゃないか?」
「……おっしゃる通りです」
まだまだ謎が多い【道化師】というジョブとスキル。それを解明するよりも早く、俺はステータスで敵を殴るような戦闘スタイルになっていた。
それこそ、器用にスキルと魔法を使える剣士職のような戦い方をしていたかもしれない。
俺がルーロの言葉に頷くと、ルーロは笑いを抑えていたのか、噴き出すようにして笑い声をあげた。
腹を抱えて笑うルーロを前に、俺は少しだけいたたまれなくなって、気まずそうに顔を逸らすことしかできなかった。
「いや、悪い悪い。笑いすぎたな! 今までステータス任せにて、力で解決してきたのだろう。その戦い方でA級までのし上がってきたのは、ある意味凄いことだ」
ルーロは一通り笑い終えたのか、笑い泣きして出た涙を人差し指で拭いながら言葉を続けた。
「今回の修業でやることは、【道化師】としての戦い方を身に着けることだな。ジョブやスキルと見つめ合って、【道化師】らしい戦い方を見つけるんだ」
「道化師、らしい」
「それができれば、君はかなり化けるぞ。それこそ、私を超えるかもしれないな」
浮かべている笑みは冗談を言っている余裕のから来る笑みなのか、俺がルーロを超える未来を想像しての笑みなのか。
それを知るためには、ルーロの課題に取り組む必要があるみたいだった。
【道化師】と見つめ合う。遠まわしにしてきたその問題に、俺は向き合わなければならないみたいだった。
しかし、今まで短剣での攻撃を主としてきたので、急に他の方法で攻撃をしろと言われても、そう簡単にいくはずがなくーー
「ハハハッ! 短剣を使えないからといって、代わりにナイフを使ったり、【近接格闘】で向かってきたりするとは思わなかったな!」
「いや、他にも【投てき】とかで攻撃もしましたよ。でも、それも簡単に弾かれたら、他に攻撃のしようがないじゃないですか」
結果から言うと、修行初日はルーロに全く歯が立たなかった。もうぼろ負けだった。
回復魔法で治療をしたため目立つ外傷はないが、赤子を捻るように何度も投げ飛ばされて、地面に背中を強打した。
正直、ここまで力の差があるとは思っていなかったので、体よりも心の方がボロボロだった。
そして、今はルーロの家でルーロが釣ってきた魚料理をご馳走になっていた。大量の魚料理とお酒という晩餐が並ぶ机の上は、とても修行中の食事には思えかった。
さすがに、貰うだけでは悪いと思って魔物肉を提供したら、それも机の上に並んでいた。
まるで、宴会でも開いているような食事風景だ。
「こんなに良い物食べちゃっていいんですか?」
「何を言うか。体を動かした分は補給をしなくては、体がもたないぞ? それに、久しぶりの来客だ。楽しんで何が悪い」
「まぁ、そういうことでしたら、ありがたくいただきます。……あっ、うまっ」
並べられた料理に手を付けてみると、自然とそんな言葉が漏れてしまった。
繊細な味付けというわけではない、荒々しい味付け。しかし、長時間体を動かし続けた体にはその塩分が染みて、箸が止まらなくなっていた。
この人、料理もできるのか。
「それはよかった。……さて、本題に入ろうか。アイク君、なんで君は私に一度も勝てなかったと思う?」
ルーロはコップに並々に注いだお酒を傾けながら、こちらに意味ありげな笑みを浮かべていた。
今日勝てなかった理由。それは明確に力の差があるからだろう。A級冒険者とS級冒険者。そもそも、力自体に差があるのだ。
考えるまでもなく分かることだ。
「ステータス差があるからですよね?」
「残念、違うな。それ以前の問題がある」
「それ以前の問題?」
あっさりと俺の返答を否定すると、ルーロはお酒の入ったコップを机の上に置いて、少しだけ身を乗り出すようにして言葉を続けた。
「アイク君、君は剣士に強い憧れでもあるのか?」
「憧れですか? いや、特にはないですけど……何でですか?」
「ふむ、そうか。今日何度も私に切りかかろうとしてきたから、何かしら憧れがあるのかと思ったが……憧れでないのなら、あの戦い方はお勧めしないな」
「お勧めしない、ですか」
短剣を片手に敵と向かい合う。冒険者らしい一般的な戦い方だと思っていた。
その戦い方が良くないというのだろうか?
今までそのスタイルで問題なくクエストを行えてきただけに、俺はルーロの言っている言葉を上手く呑み込めないでいた。
「簡単な話さ。S級冒険者の剣士と対峙して、その間合いに自ら突っ込んでくるなんて、自殺行為だと思わないかい?」
「それは……確かに、そうですね」
「もっと言ってしまえば、今の君は魔法使いが魔法で体を強化して、剣を振り回して剣士と対峙するようなことをしている」
「そ、それはかなり酷いですね」
「戦いをする上で、相手の得意な土俵に上がる必要はない。自分の得意な状況、間合いに相手を引きずり込んで、得意とする戦法で戦うのが定石だ」
そう言われて、以前にワルド王国で戦った男のことを思い出した。あの時も、俺は見るからに剣士だった相手に、短剣で切りかかったのだった。
ステータスに大きな差があるのかと思っていたが、問題はそこではなかったのかもしれない。
俺があの時に負けそうになった理由は、自ら相手の得意分野に足を突っ込んだからだ。
そして、それは今回も同じことだった。
「なぜそんな戦い方をするのか。憧れでないとすると、君は【道化師】の間合い、ジョブ、スキル。それらを把握していないんじゃないか?」
「……おっしゃる通りです」
まだまだ謎が多い【道化師】というジョブとスキル。それを解明するよりも早く、俺はステータスで敵を殴るような戦闘スタイルになっていた。
それこそ、器用にスキルと魔法を使える剣士職のような戦い方をしていたかもしれない。
俺がルーロの言葉に頷くと、ルーロは笑いを抑えていたのか、噴き出すようにして笑い声をあげた。
腹を抱えて笑うルーロを前に、俺は少しだけいたたまれなくなって、気まずそうに顔を逸らすことしかできなかった。
「いや、悪い悪い。笑いすぎたな! 今までステータス任せにて、力で解決してきたのだろう。その戦い方でA級までのし上がってきたのは、ある意味凄いことだ」
ルーロは一通り笑い終えたのか、笑い泣きして出た涙を人差し指で拭いながら言葉を続けた。
「今回の修業でやることは、【道化師】としての戦い方を身に着けることだな。ジョブやスキルと見つめ合って、【道化師】らしい戦い方を見つけるんだ」
「道化師、らしい」
「それができれば、君はかなり化けるぞ。それこそ、私を超えるかもしれないな」
浮かべている笑みは冗談を言っている余裕のから来る笑みなのか、俺がルーロを超える未来を想像しての笑みなのか。
それを知るためには、ルーロの課題に取り組む必要があるみたいだった。
【道化師】と見つめ合う。遠まわしにしてきたその問題に、俺は向き合わなければならないみたいだった。
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