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第104話 生じ始める力の差
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「おー、よしよしよしっ」
「くぅん~」
「よーしよしよしっ」
「はっ、はっ、はっ」
「おー、よーしよしよしっ」
「……アイクさん、そろそろ私にも触らせてくださいよ。ポチの温もりが太ももから消えてきました。私も、もふもふしたいですっ」
俺たちはミノラルを出てオルロへと向かっていた。馬車で数日かかるとのことだったので、俺の騎士爵への出世祝いからを終えて、数日準備をした後にミノラルを出たのだった。
ミノラルから個人的に馬車を借りて、少しの休みを満喫するつもりで俺たちは新しく貰った屋敷へと向かっていた。
普段はなるべく出費を抑えているし、旅行ぐらいは少しブルジョアにお金を使ってもいいだろう。
そんなわけで相乗りの馬車ではなく、小さな馬車を貸し切ってオルロへと向かっていた。
多くのクエストを共に行ってきたリリとポチを癒すための旅行だと思うと、これは無駄な出費にはならないはずだ。
そんなふうに始めた慰安旅行だが、この旅行にはいくつか目的があったりする。
まず一つ目は、新鮮な海魚の採取。これは、イーナからお願いされた依頼と言ってもいいだろう。
ミノラルは海に面していないので、海魚は貴重だったりする。それを冷凍も塩漬けもしない状態の魚となれば、高くても買うという人は多いだろう。
販売ルートとかはイーナに投げっぱなしなので、俺ができるのはその採取くらい。せめて、そのくらいの役割は果たしたい。
二つ目は、貰った屋敷の確認。その屋敷がどれほどの大きさなのかと、屋敷のある街がどんな街なのかを自分の目で見てみたい。
話に聞いたが、ハウスキーパー的なお手伝いさんがいてくれるらしい。その人との顔合わせもしておく必要があるだろう。
そして、三つ目が日々クエストで疲れた体を癒すこと。これは、いつも俺のペースに合わせてクエストについてきてくれいる、リリとポチの心と体を癒すためだ。
俺も初めて命の奪い合いをするような戦闘をしたので。心の面で多少なりとも疲れてはいる。それなら、その心的疲労がたまる前に癒しておいた方がいいだろう。
そんなことを考えて、今回の慰安旅行を計画して、数日馬車に揺られていた。途中の街で宿泊をしながら旅行をしたので、体はバキバキになったりはしていなかった。
野営でもいいけど、体を癒す目的もあるのに、その道中で体をバキバキにしたら馬鹿みたいだろう。
そんなふうにまったりした数日を過ごして、今はポチを太ももの上に置いて撫でまわしていた。
さすがに、ポチを長時間独占し過ぎたのか、リリが少しだけ頬を膨らませていたので、俺はポチをリリに任せて御者のおじさんと話でもしようと、腰を上げて少しだけ移動した。
「なんか、びっくりするくらい、のどかですね」
俺がひょっこりと御者のいる所に顔を覗かせると、御者のおじさんは優しい笑顔を一つ浮かべた後に言葉を続けた。
「ああ、そりゃあ、ここら辺は魔物も少ないからな。何よりも、道がある程度整備されてるし、魔物も寄り付かんよ」
「確かに、結構道が舗装されてますね」
そう言われて辺りを見てみると、以前に他の街へ行った時と比べて、比較的道が整備されていた。
オルロは観光地とまではいかないが、旅行先としては少し有名な場所だったりする。そんな場所の道中で魔物に襲われないように、ある程度は道を整備して魔物が来にくくしているのかもしれない。
「まぁ、魔物が寄ってくることがあるとすれば、飛竜くらいだろうなぁ」
「……飛竜ですか」
「ああ。正直。飛竜ってのは行動が読めないんだよ。縄張りに侵入しなければ襲ってこない奴もいれば、好奇心旺盛の奴もいる。単純に自分よりも弱いものをいじめて楽しむ奴もいる。まぁ、こればっかしは運みたいなもんだろうな。ハハハッ、ハ?」
「え? どうしたんですか。急に上を見てーー」
穏やかな笑みを浮かべていたおじさんが上を見上げたと思ったら、急に顔を強張らせた。
続いて俺もそちらに顔を向けてみると、そこには翼を広げた魔物の姿があるのが分かった。
……なるほど、どうやら俺たちは運よく飛竜に遭遇することになるらしい。
こちらに向けて急降下してくる姿を見れば、こちらを襲おうとしているのは明らかだった。
「マズいマズいマズい! に、逃げるぞ!」
「いや……あのサイズなら、多分問題ありません。止めてもらっていいですか?」
空から下りたってきたのは、以前にポチが相手をしていたサイズの飛竜。色は深緑色をしていて、少し殺気立ったようなワイバーンが俺たちの前に現れた。
急降下してきただけあって、すでに俺たちの前にいたりする。
この状況で逃げることなんてできないだろうし、何よりワイバーンの素材は高く売れる。
俺たちにとっては、運がいいと言えるだろう。
「ちょっ、兄ちゃん! さすがに、一人は無理だって! 今、連れを呼んでくるからな!」
「いや、多分大丈夫です」
俺は以前にワイバーンを相手にした後も、多くの魔物を戦ってきた。おそらく、この大きさのワイバーンなら、一人でも問題ないだろう。
そう思った俺は、おじさんの制止を振り切って、馬車から飛び降りた。
「グォォォ!!」
腹の底から唸るような声で威嚇をしてきているが、不思議と恐怖心のような物はなかった。
俺が成長したのか、あの謎の男との戦闘が影響しているのか。
とにかく、あまり負ける予感がしなかった。
俺はアイテムボックスから【偽装】をして姿を見えなくした短剣を二本取り出した。そして、それに【複製】のスキルをかけて、魔法を一時的に蓄えることのできる短剣を八本ほどに増やして、それを周囲の地面に突き刺した。
ワイバーンからしたら、俺が何をしているのか分からないだろう。
威嚇をしているのに、なんかパントマイムをしている男に見えているかもしれない。
「グ、グォォォ!!」
それでも、得体のしれない男が変な動きをしているのは不気味なのだろう。ワイバーンは痺れを切らしたように俺のもとに突っ込んできた。
「『サイクロン』」
俺が短剣を二本握りながら、中級の風魔法を唱えると刀身が白い光を帯びた。俺はそれを確認してから、【肉体強化】と【投てき】のスキルを使用して、その短剣をワイバーンの翼に向けって投げつけた。
「ぎ、ギァアアア!!」
見事に突き刺さった二つの短剣は、そのまま風で翼を切り裂くような暴風を生じさせて、鱗を剥がすようにしながら暴れていた。
続いて、俺がもう二本の短剣に同じことをして投げつけると、それが命中したワイバーンは痛みに苦しむように転び、ちょうど俺の前に頭を垂らすような姿勢で倒れ込んだ。
「……八本はいらなかったな」
「ぎ、ギァ……」
俺がもう二本の短剣を地面から引き抜いて頭と首に突き刺すと、ワイバーンはそのまま動かなくなったようだった。
ワイバーンが倒れている地面にできた深い傷跡は、俺の魔法によるものかワイバーンの質量によるものなのか。
荒ぶる刀傷のような跡を見ると、明らかに前者のような気がするな。
「あ、アイクさん」
「ん? ああ、リリか」
振り返ると、俺と同じく馬車から飛び降りたリリとポチがいた。
御者のおじさんが呼び掛けてくれたのか、ワイバーンの鳴き声を聞いて出てきたのか分からないが、二人は俺の姿を見て立ち尽くしているようだった。
「……さすが、アイクさんですね」
「ん? お、おう。ありがとう」
ただ不思議だったのが、いつものその表情にどや顔のようなものが見られなかったことだった。
微かにハの字にした眉は、一体何を思っているのか。
すぐにいつもの表情に戻したリリの姿を見て、俺は今の一瞬の表情は、何かの見間違いなのかと思ったのだった。
「くぅん~」
「よーしよしよしっ」
「はっ、はっ、はっ」
「おー、よーしよしよしっ」
「……アイクさん、そろそろ私にも触らせてくださいよ。ポチの温もりが太ももから消えてきました。私も、もふもふしたいですっ」
俺たちはミノラルを出てオルロへと向かっていた。馬車で数日かかるとのことだったので、俺の騎士爵への出世祝いからを終えて、数日準備をした後にミノラルを出たのだった。
ミノラルから個人的に馬車を借りて、少しの休みを満喫するつもりで俺たちは新しく貰った屋敷へと向かっていた。
普段はなるべく出費を抑えているし、旅行ぐらいは少しブルジョアにお金を使ってもいいだろう。
そんなわけで相乗りの馬車ではなく、小さな馬車を貸し切ってオルロへと向かっていた。
多くのクエストを共に行ってきたリリとポチを癒すための旅行だと思うと、これは無駄な出費にはならないはずだ。
そんなふうに始めた慰安旅行だが、この旅行にはいくつか目的があったりする。
まず一つ目は、新鮮な海魚の採取。これは、イーナからお願いされた依頼と言ってもいいだろう。
ミノラルは海に面していないので、海魚は貴重だったりする。それを冷凍も塩漬けもしない状態の魚となれば、高くても買うという人は多いだろう。
販売ルートとかはイーナに投げっぱなしなので、俺ができるのはその採取くらい。せめて、そのくらいの役割は果たしたい。
二つ目は、貰った屋敷の確認。その屋敷がどれほどの大きさなのかと、屋敷のある街がどんな街なのかを自分の目で見てみたい。
話に聞いたが、ハウスキーパー的なお手伝いさんがいてくれるらしい。その人との顔合わせもしておく必要があるだろう。
そして、三つ目が日々クエストで疲れた体を癒すこと。これは、いつも俺のペースに合わせてクエストについてきてくれいる、リリとポチの心と体を癒すためだ。
俺も初めて命の奪い合いをするような戦闘をしたので。心の面で多少なりとも疲れてはいる。それなら、その心的疲労がたまる前に癒しておいた方がいいだろう。
そんなことを考えて、今回の慰安旅行を計画して、数日馬車に揺られていた。途中の街で宿泊をしながら旅行をしたので、体はバキバキになったりはしていなかった。
野営でもいいけど、体を癒す目的もあるのに、その道中で体をバキバキにしたら馬鹿みたいだろう。
そんなふうにまったりした数日を過ごして、今はポチを太ももの上に置いて撫でまわしていた。
さすがに、ポチを長時間独占し過ぎたのか、リリが少しだけ頬を膨らませていたので、俺はポチをリリに任せて御者のおじさんと話でもしようと、腰を上げて少しだけ移動した。
「なんか、びっくりするくらい、のどかですね」
俺がひょっこりと御者のいる所に顔を覗かせると、御者のおじさんは優しい笑顔を一つ浮かべた後に言葉を続けた。
「ああ、そりゃあ、ここら辺は魔物も少ないからな。何よりも、道がある程度整備されてるし、魔物も寄り付かんよ」
「確かに、結構道が舗装されてますね」
そう言われて辺りを見てみると、以前に他の街へ行った時と比べて、比較的道が整備されていた。
オルロは観光地とまではいかないが、旅行先としては少し有名な場所だったりする。そんな場所の道中で魔物に襲われないように、ある程度は道を整備して魔物が来にくくしているのかもしれない。
「まぁ、魔物が寄ってくることがあるとすれば、飛竜くらいだろうなぁ」
「……飛竜ですか」
「ああ。正直。飛竜ってのは行動が読めないんだよ。縄張りに侵入しなければ襲ってこない奴もいれば、好奇心旺盛の奴もいる。単純に自分よりも弱いものをいじめて楽しむ奴もいる。まぁ、こればっかしは運みたいなもんだろうな。ハハハッ、ハ?」
「え? どうしたんですか。急に上を見てーー」
穏やかな笑みを浮かべていたおじさんが上を見上げたと思ったら、急に顔を強張らせた。
続いて俺もそちらに顔を向けてみると、そこには翼を広げた魔物の姿があるのが分かった。
……なるほど、どうやら俺たちは運よく飛竜に遭遇することになるらしい。
こちらに向けて急降下してくる姿を見れば、こちらを襲おうとしているのは明らかだった。
「マズいマズいマズい! に、逃げるぞ!」
「いや……あのサイズなら、多分問題ありません。止めてもらっていいですか?」
空から下りたってきたのは、以前にポチが相手をしていたサイズの飛竜。色は深緑色をしていて、少し殺気立ったようなワイバーンが俺たちの前に現れた。
急降下してきただけあって、すでに俺たちの前にいたりする。
この状況で逃げることなんてできないだろうし、何よりワイバーンの素材は高く売れる。
俺たちにとっては、運がいいと言えるだろう。
「ちょっ、兄ちゃん! さすがに、一人は無理だって! 今、連れを呼んでくるからな!」
「いや、多分大丈夫です」
俺は以前にワイバーンを相手にした後も、多くの魔物を戦ってきた。おそらく、この大きさのワイバーンなら、一人でも問題ないだろう。
そう思った俺は、おじさんの制止を振り切って、馬車から飛び降りた。
「グォォォ!!」
腹の底から唸るような声で威嚇をしてきているが、不思議と恐怖心のような物はなかった。
俺が成長したのか、あの謎の男との戦闘が影響しているのか。
とにかく、あまり負ける予感がしなかった。
俺はアイテムボックスから【偽装】をして姿を見えなくした短剣を二本取り出した。そして、それに【複製】のスキルをかけて、魔法を一時的に蓄えることのできる短剣を八本ほどに増やして、それを周囲の地面に突き刺した。
ワイバーンからしたら、俺が何をしているのか分からないだろう。
威嚇をしているのに、なんかパントマイムをしている男に見えているかもしれない。
「グ、グォォォ!!」
それでも、得体のしれない男が変な動きをしているのは不気味なのだろう。ワイバーンは痺れを切らしたように俺のもとに突っ込んできた。
「『サイクロン』」
俺が短剣を二本握りながら、中級の風魔法を唱えると刀身が白い光を帯びた。俺はそれを確認してから、【肉体強化】と【投てき】のスキルを使用して、その短剣をワイバーンの翼に向けって投げつけた。
「ぎ、ギァアアア!!」
見事に突き刺さった二つの短剣は、そのまま風で翼を切り裂くような暴風を生じさせて、鱗を剥がすようにしながら暴れていた。
続いて、俺がもう二本の短剣に同じことをして投げつけると、それが命中したワイバーンは痛みに苦しむように転び、ちょうど俺の前に頭を垂らすような姿勢で倒れ込んだ。
「……八本はいらなかったな」
「ぎ、ギァ……」
俺がもう二本の短剣を地面から引き抜いて頭と首に突き刺すと、ワイバーンはそのまま動かなくなったようだった。
ワイバーンが倒れている地面にできた深い傷跡は、俺の魔法によるものかワイバーンの質量によるものなのか。
荒ぶる刀傷のような跡を見ると、明らかに前者のような気がするな。
「あ、アイクさん」
「ん? ああ、リリか」
振り返ると、俺と同じく馬車から飛び降りたリリとポチがいた。
御者のおじさんが呼び掛けてくれたのか、ワイバーンの鳴き声を聞いて出てきたのか分からないが、二人は俺の姿を見て立ち尽くしているようだった。
「……さすが、アイクさんですね」
「ん? お、おう。ありがとう」
ただ不思議だったのが、いつものその表情にどや顔のようなものが見られなかったことだった。
微かにハの字にした眉は、一体何を思っているのか。
すぐにいつもの表情に戻したリリの姿を見て、俺は今の一瞬の表情は、何かの見間違いなのかと思ったのだった。
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