パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬

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第68話 『黒龍の牙』、指揮をとる

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 一方その頃、ギース達は大規模なクエストに召集されていた。

 魔物たちの巣が見つかったという報告があり、その巣を叩くために多くの冒険者たちが集められた。

 しかし、調査団によるとその巣の大きさはそこまで大きくはないため、SS級の冒険者の力はいらないだろうと判断され、S級パーティ3組とA級パーティ4組が討伐するメンバーとして召集されていた。

 S級パーティが魔物の巣の本隊を叩いて、A級パーティが巣を拡張しようとしている分隊を叩く。

 そのA級パーティの中にギース達が含まれていた。

 普通に考えれば、十分な戦力だった。

しかし、それはギース達のパーティランクが、本当にA級パーティの強さがあればの話だった。

「いいか、この隊は俺達『黒龍の牙』が指揮をとる。今回、ギルドの奴らの都合で一時的にA級パーティになったが、俺たちはS級パーティだ。そこをはき違えるなよ」

 ギースは馬車で魔物の巣に向かう際中、他のA級パーティを睥睨するようにしながらそんな言葉を口にした。

 自分達は格が違う。それを分からせることで、自分達が少しでも優位に立とうと思っての言動だった。

 しかし、少し前までなら響いたであろうそんな言葉も、今のギースの言葉となると話しが違ってくる。

「あんたがギースか。あまり良い噂を聞かないが、あんたに従って問題はないのか?」

「ああ? どういう意味だ?」

 A級パーティ『竜の羽衣』のリーダーであるギリンスは、ギースの話が終わるなりそんな言葉を口にした。

 『竜の羽衣』。パーティ全員が冒険者ランクAの実力者達の集団で、長い間A級パーティとして働いていることもあり、ギルドからの信頼も厚いパーティだった。

 ギリンスはギースに疑いの目をかけながら、言葉を続けた。

「そのままの意味だ。俺たちの命を任せるに値するかを問いている」

「長年A級で燻ぶってる奴らが何言ってんだ? 俺たちはS級パーティだぞ?」

「元、だろ。噂ではA級のクエストを何度も失敗したみたいじゃないか」

「俺たちは失敗なんかしてねぇよ!! 誰だ。そんな噂を流した奴らは!!」

 ギースは未だに自分達がクエストを失敗したことを認めようとはしていなかった。しかし、その情報が事実であるため、ギースの顔色の変化は分かりやすかった。

 何かを恨むように鋭い眼光は、とてもこれから同じクエストに向かうものに向けられるものではなかった。

 そんな二人のやり取りを見て、一人の少年がすっと手を上げた。

「なんだ! クソガキ!! 今話してんだから、黙ってろ!」

「クソガキって、僕たちそんなに歳変わらないでしょ。僕行きましたよ、あなた達が失敗したクエスト」

『白虎の足跡』のリーダー、レオンは二人のやり取りを見てそんなことを呟いた。その発言に馬車にいる者たちの視線が、一気にレオンのもとに集まった。

「A級のクエストにしては、そこまで難易度高くなかったですよ? あれを逃げて帰ってきたって、本当にA級パーティなんですか?」

「だから、俺らの時は魔物が強化されてたんだよ! お前たちが戦った時とはレベルが違ったんだ!!」

「いや、普通に考えてそんなことあるわけないでしょ。そんなことも分からないんですか?」

「おまえっ……ぶっ殺してやる!!」

 レオンがギースを小ばかにするように見下した目を向けると、ギースの堪忍袋の緒が切れた。

 腰に下げている剣を引き抜こうとしたギースを見て、慌てたようにエルドがギースを羽交い締めにした。

「ま、まて! ギース!」

「離せ、エルド!! こいつっ、こんなに舐められたのは初めてだ!!」

 馬車の中で息を荒くして、ギースはレオンに飛びかかろうとしていた。

 ギースの扱いというのは難しく、今まではアイクがギースの怒りのはけ口となっていた。そのアイクがいなくなってから、周囲に怒りをぶつけるようになっていて、そんなギースの態度にはパーティメンバーも呆れていた。

「二人とも、やめにしないか」

 他のA級パーティがギースに疑いの目を向ける中、しばらく静観していた『白狼の牙』のリーダーであるルードが口を開いた。

「最近調子を落としているとは言っても、元はS級のパーティだ。それに、俺たちはギルドからすでに指揮は『黒龍の牙』がとると聞いているだろ? これ以上仲間割れをしないでいただきたい」

『白狼の牙』はギース達と同世代で、A級パーティの中で一番S級に近いと言われているパーティだ。

 当然、他のA級パーティからの信頼も厚く、彼の言葉に反論する者はいなかった。

「ギース君。もうすぐ巣に到着しそうだ。そろそろ、今回の作戦を教えてもらってもいいかい?」

「あ? そんなのあるわけないだろ。俺たちが突っ込むから、お前らは援護しろ。以上だ」

 ギースはエルドの手を振り払い、他のA級パーティを見下ろすようにしながらそんなことを口にした。

 そんなギースの言葉を受けて、他のパーティのメンバー達は固まってしまった。

 これから魔物たちがいるところに突っ込むというのに、作戦も何も用意していない。そんな投げやり過ぎる態度に、怒りよりも驚きの方が勝ってしまっていた。

「おい、それのどこが作戦――」

「……了解した。『ギルド長が決めたことだ』。分かったな?」

 ギースの作戦に反論しようとした者の声を、ルードが制するようにかき消した。

 呆れそうな感情を押さえて発したルードのその言葉に、ギース達以外のパーティメンバーはそっと頷いた。

 このとき、このチームの本当に指揮は『白狼の牙』に移ったのだった。

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