上 下
54 / 191

第54話 勘違いとお祝い品

しおりを挟む
「……いや、送り過ぎだろ」

 俺は屋敷に戻ってリードから送られてきたお酒を受け取っていた。勝手に一二本だろうと思っていたのだが、瓶に入ったお酒が十本くらい送られてきた。

 それも見た感じ安物という訳ではないようだった。

 そこまで気にしないでいいのにな。

 俺が送ってもらったお酒が詰められている木箱を運んで、キッチンに向かうとリリがさっそく料理をしていた。

 エプロン姿の女の子がキッチンで料理をしているという景色が少し眩しく、あまり見つめていると心臓に良くない気がしたので、俺はお酒を冷蔵室にしまってその場を去ることにした。

 それでも、不意に目でリリのことを追ってしまうと、リリとぱちりと目が合ってしまった。

 ただ目が合っただけなのに優しく微笑みかけられると、こっちの調子を崩されそうになってしまう。

「あ、えっと、何か手伝うことあるか?」

「いえ、大丈夫です! ここは助手のリリにお任せください!」

 エプロン姿で誇らしげにそんなことをリリの姿の手元には、もうすでにいくつかの料理ができていた。

 明らかに二人で食べるには多すぎる量。その理由は、今日ここで食事をする人数が二人ではないからだった。

「アイク~」

「あ、もう来たみたいだな」

 俺は玄関の方でノッカーの音とバングの声がしたので、キッチンをリリに任せて玄関へと向かった。

 玄関の扉を開けると、そこにはバングとイーナ、そしてミリアがいた。

 冒険者ギルドの帰り道にちょうどバングとイーナがいたので、魔物肉を食べながら酒でも飲まないかと誘った所、二つ返事でOKをしてくれた。

 どうやら、イーナはミノラルに用事があってきていたようだった。せっかく魔物肉を食べるなら、今後商品を扱うことになるバングとイーナに食べて欲しかったので、ちょうどよかった。

 バングが最近疲れているだろうからミリアも誘ってあげてもいいかと聞かれたので、もちろん許可をした。

 ギルドの仕事というのもストレスが溜まるのだろう。酒ならあるし、ストレスを発散してもらえるのなら喜ばしいことだ。

「おう、アイク! 今日はありがとうな。これは祝い品だ」

「アイクくん、誘ってくれてありがとうね。私からはこれを」

「アイクさん、今日はありがとうございます。私はこれを持ってきました」

 なぜか三人はそれぞれ手土産を持っていた。それも何か食べ物や飲み物ではない形状のものを持っている。

「え、ありがとうございます」

 祝い品? 新居祝いとかそういうものだろうか?

 俺は首を傾げながらも貰ったそれらを手に持って、三人をリビングへと案内した。屋敷を案内しながらだったので、少しだけ遠回りになってしまった。

 そして、リビングに着くとそこにはちょうど良いタイミングで料理が運ばれてきた。

 机の上にはブラックポークの角煮と、ファング肉のロースト、ワイドディアのステーキや果物を使ったパイやサラダなどが並んでいた。

 そして、そんな店でも見られないような料理の数々を見て、三人は言葉を失って驚いていた。

 部屋の中にいるだけで食欲をそそられる香りに包まれており、眺めているだけでよだれが垂れてきそうだった。

何度かリリの作る料理を見たことがある俺でさえも、生唾を呑み込んでいた。

「え? な、なんだこれ。シェフでもいるのか?」

「いえ、料理は全部リリがやってくれました」

「リリちゃんが?! リリちゃんって、料理もできるんだ」

「うふふっ、助手ですからね!」

 リリは食べる前から料理を褒められて嬉しそうに口元を緩めていた。そして、リリは上機嫌のままお酒を冷蔵室から持ってくるためにリビングを後にした。

「はぁ、アイクもいい嫁さんをもらったなぁ」

「嫁? いや、何のことですか?」

 俺が三人からもらったお土産を離れた机に置いていると、バングがそんなことを呟いていた。

 何のことを言っているのか分からずに首を傾げると、三人が俺以上にきょとんとした顔をしていた。

「何のことって、え? リリちゃんと婚約したんじゃないの?」

「婚約?! いや、してませんよ!」

 急に思いもよらないことを言われたので、俺は驚いたように声が大きくなっていた。そして、俺以上に俺の返答に三人は驚いているようだった。

 なんだ、何か共通認識がおかしい。

 すると、ゆっくりと答え合わせでもするかのようにミリアが口を開いた。

「私はバングさんから、アイクさんが身を固めて屋敷を構えたから婚約祝い品を持っていこうって言われて、持ってきたんですけど」

「……まさか」

 俺はバングから受け取ったお土産のラッピングを開封してみた。すると、そこには包まれていた物はーー赤ちゃんの抱っこ紐だった。

「いや、男が屋敷を構えるって言ったら、なぁ?」

 バングはそんなことを言うと、気まずそうに頬を掻いていた。

 三人にちらりと視線を向けると、三人ともバングと同じような表情をしていた。

 ということは、他のお土産も同じようなものということなのか?

「お酒持ってきましたよーって、あれ、皆さんどうされたんですか?」

 結局何が正しいのか分からなくなった場を整えるように、イーナが困惑したように口を開いた。

「えーと、アイクくんがリリちゃんにプロポーズとかはしてないの?」

「え?」

 そんな話を振られたリリは瞳をぱちくりとして固まっていた。それから、何かを思い出したように頬を赤くしてしまった。おそらく、ガルドの家で屋敷を貰うときのやり取りでも思い出したのだろう。

 そして、どうやらあのときのことを最後まで思い出したのか、リリは頬の熱をそのままに少し不貞腐れるように微かに頬を膨らませた。

「……されましたけど、弄ばれただけでした」

「アイクさん?」「アイクくん?」

 リリの言葉を受けた瞬間に厳しくなった女性陣の目。それに加えて、何かを察したような表情をするバング。

「いや、違う! 色々と誤解をしている!」

 俺は家主のはずがアウェーな状況に追いやられてしまわないように、必死に誤解を解くのだった。



しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

処理中です...