10 / 11
第1章
昔話
しおりを挟むこれはヤバい。ヤバいしか言えない。
サラナは外で楽しげに談笑しててこちらには気がついてないようだった。
「大丈夫、誰にも言わない」
『ジジさん、私はサラナさんの助手です』
ふーん、とジジは言うと、大きく欠伸をした。
「いやー、お向かいのオバサンも変わってなかったなぁ!」とサラナが戻ってきてやっと私は緊張の糸が切れた。
数分前に詰め寄られた相手とカレーを食べる。とても異様な光景だった。
気のせいだろうか、ジジの痛いほどの視線が私に刺さる。
「なぁサラナ。この子、異端だよな」単刀直入の言葉にサラナは思わず咳き込んだ。
「どうしたんだよ、ついにボケたか?」
「ボケてねぇよ」
『ジジさん、私は………』
「涙の子」サラナは私の言葉を遮るように答えた。
「ひぇ、涙の子か」少し驚いたようだったがジジはカレーを口に入れた。
『サラナ良いの?』
「そもそも隠し通せるとは思ってなかったしな、ついでに助手じゃなくて妻」
「つ、妻?!」そちらに驚いた表情を見せたジジに私は笑ってしまった。
「ルルさん、さっきは悪かったね。危害を加えるつもりはなかったんだ。ただ気になってしまって」
『い、いえ………』
「じいさんうちの妻に何かしたのかよ?」としばらく3人で談笑した。
涙の子はジジ曰く、軍人勤めをして1度しか遭遇したことない。戦場で傷ついた軍人や民間人の傷を癒すために医療班として奔走していたと。
『戦場………』言葉を失った私にサラナは肩を抱き寄せた。
それからサラナは探している異端者の話をした。異端者を無効化する力をもつ異端者がいるのかとジジに問いかけた。
「残念だが都市伝説だな。そんなもんいたら軍は血眼になって探すだろうね」
『ですよね、都市伝説』
サラナははぁ~と頭を抱えて深いため息をついた。
「普通の人になりたかった異端者が流した都市伝説だよ」と言った後に、あ、と声を出した。
『どうしたんですか?』
「いや………軍人になる前に、1度だけ強人の力を奪われそうになってね」
サラナは前のめりになった。
軍人になる大昔だぞと前置きをした上でジジはゆっくり話し出した。
まだ逃げ回っていたころ、どこかの街で知り合った少女がいた。
少女は異端者だったが、稀ではないため、要注意人物として軍から目をつけられていた。
力が目覚めてしまったら、稀な異端者と呼ばれて軍からも密猟者からも狙われる。
この頃の密猟者は、【稀な異端者】でも【要注意人物】でも攫ってしまう奴らが多かった。
ジジは少女が密猟者に攫われそうになっていた所を助けたことで、用心棒として家族と一緒に住むことになった。
ジジは強人の力をあまり人前では見せなかったが、少女にはよく見せていた。
と言っても、物を持ち上げたり、買い物で荷物持ちをしたりする【ちょっと力持ちのおじさん】と思わせていた。
そんなある日の夜。
ジジは軍から追いかけて逃げていた。
うまく逃げないとあの家族にも迷惑がかかることを自覚していたジジは、家族に別れを告げずそのままこの街を離れようとしていた。
しかしその日は、追いかけてくる軍人に異端者がいたようで、初めて捕まる恐怖を覚えた。
路地裏に逃げ込み、ひたすら走った。
そのとき、ジジは強い力で引っ張られた。気がついたら、高い高い建物がかなり下に見える空中にいた。
慌てて体勢を整えようと視点を下に移した時、見覚えのある影が軍に向かって殴りかかっていった。
あの少女である。少女はジジを空中に放り投げると追ってきた軍人を迎え撃った。
地面に着地がうまくできずジジはそのまま気絶し、次に目覚めたのはあの家族の家だった。
家族に誰が運んだのかと聞いても、知らない、酒に酔ったのだろうと相手にすらしてもらえなかった。
追いかけてきた軍人がどうなったかは知らない。
ジジは淡々と話すが、それから数日、強人としての力が吸い取られたような、なくなってしまったような感覚を覚えたという。
「力は数日で戻ってきて、すぐにその家を出たよ。鳥肌が立ったねぇ」
『その女の子に力を奪われたと………?』
「まぁ、無効化には出来なかったからな」
ジジはそう言うと、ご馳走様と手を合わせた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる