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第1章
昔話
しおりを挟むこれはヤバい。ヤバいしか言えない。
サラナは外で楽しげに談笑しててこちらには気がついてないようだった。
「大丈夫、誰にも言わない」
『ジジさん、私はサラナさんの助手です』
ふーん、とジジは言うと、大きく欠伸をした。
「いやー、お向かいのオバサンも変わってなかったなぁ!」とサラナが戻ってきてやっと私は緊張の糸が切れた。
数分前に詰め寄られた相手とカレーを食べる。とても異様な光景だった。
気のせいだろうか、ジジの痛いほどの視線が私に刺さる。
「なぁサラナ。この子、異端だよな」単刀直入の言葉にサラナは思わず咳き込んだ。
「どうしたんだよ、ついにボケたか?」
「ボケてねぇよ」
『ジジさん、私は………』
「涙の子」サラナは私の言葉を遮るように答えた。
「ひぇ、涙の子か」少し驚いたようだったがジジはカレーを口に入れた。
『サラナ良いの?』
「そもそも隠し通せるとは思ってなかったしな、ついでに助手じゃなくて妻」
「つ、妻?!」そちらに驚いた表情を見せたジジに私は笑ってしまった。
「ルルさん、さっきは悪かったね。危害を加えるつもりはなかったんだ。ただ気になってしまって」
『い、いえ………』
「じいさんうちの妻に何かしたのかよ?」としばらく3人で談笑した。
涙の子はジジ曰く、軍人勤めをして1度しか遭遇したことない。戦場で傷ついた軍人や民間人の傷を癒すために医療班として奔走していたと。
『戦場………』言葉を失った私にサラナは肩を抱き寄せた。
それからサラナは探している異端者の話をした。異端者を無効化する力をもつ異端者がいるのかとジジに問いかけた。
「残念だが都市伝説だな。そんなもんいたら軍は血眼になって探すだろうね」
『ですよね、都市伝説』
サラナははぁ~と頭を抱えて深いため息をついた。
「普通の人になりたかった異端者が流した都市伝説だよ」と言った後に、あ、と声を出した。
『どうしたんですか?』
「いや………軍人になる前に、1度だけ強人の力を奪われそうになってね」
サラナは前のめりになった。
軍人になる大昔だぞと前置きをした上でジジはゆっくり話し出した。
まだ逃げ回っていたころ、どこかの街で知り合った少女がいた。
少女は異端者だったが、稀ではないため、要注意人物として軍から目をつけられていた。
力が目覚めてしまったら、稀な異端者と呼ばれて軍からも密猟者からも狙われる。
この頃の密猟者は、【稀な異端者】でも【要注意人物】でも攫ってしまう奴らが多かった。
ジジは少女が密猟者に攫われそうになっていた所を助けたことで、用心棒として家族と一緒に住むことになった。
ジジは強人の力をあまり人前では見せなかったが、少女にはよく見せていた。
と言っても、物を持ち上げたり、買い物で荷物持ちをしたりする【ちょっと力持ちのおじさん】と思わせていた。
そんなある日の夜。
ジジは軍から追いかけて逃げていた。
うまく逃げないとあの家族にも迷惑がかかることを自覚していたジジは、家族に別れを告げずそのままこの街を離れようとしていた。
しかしその日は、追いかけてくる軍人に異端者がいたようで、初めて捕まる恐怖を覚えた。
路地裏に逃げ込み、ひたすら走った。
そのとき、ジジは強い力で引っ張られた。気がついたら、高い高い建物がかなり下に見える空中にいた。
慌てて体勢を整えようと視点を下に移した時、見覚えのある影が軍に向かって殴りかかっていった。
あの少女である。少女はジジを空中に放り投げると追ってきた軍人を迎え撃った。
地面に着地がうまくできずジジはそのまま気絶し、次に目覚めたのはあの家族の家だった。
家族に誰が運んだのかと聞いても、知らない、酒に酔ったのだろうと相手にすらしてもらえなかった。
追いかけてきた軍人がどうなったかは知らない。
ジジは淡々と話すが、それから数日、強人としての力が吸い取られたような、なくなってしまったような感覚を覚えたという。
「力は数日で戻ってきて、すぐにその家を出たよ。鳥肌が立ったねぇ」
『その女の子に力を奪われたと………?』
「まぁ、無効化には出来なかったからな」
ジジはそう言うと、ご馳走様と手を合わせた。
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