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第1章
動き出した力
しおりを挟む「了解、そのまま尾行を続けて。役所に入ったら今日は交代を寄越すから」
電話を切ってはぁ、とため息をついた女は殴られた口元を強く噛んだ。
オークション会場でタバコをコニーに押し付けた女だった。
「口元痛そう、大丈夫?」そんな女に声をかけたのは、小柄な女性だった。
「ダリアか、何の用?」
「あのオークション仕切ってたのアンタだったんだ、派手に失敗したねぇ」
それを聞いた女は舌打ちをした。
「うるさい」
「本当にいたの?涙の子」
「あぁ………」と1枚の紙をダリアに渡した。
「うぁぁ!本当にいたんだ」ダリアはコニーの情報が書いてある用紙を眺めながら驚きの表情をみせた。
「でも婚約者がいてそのうち異端者リストから外されると思う」
「だったら私たちが狙いやすくなる感じ?」
「だと思うでしょ?婚約者がSEEDなんだって」
「はぁ?余計に燃えるじゃん!」
「なんで変態じいさんたちと同じ事言うの?」と女はため息をついた。
「だったら私が捕獲にいってもいい?」
「私は1発殴りたいだけだから、お好きにどうぞ」女は紙をダリアから奪うと、そのままクシャと丸めた。
それと同時に電話が鳴り出した。
「交代寄越すわ、お疲れ」
役所の中で書類を書いていると、痛いほど視線を感じた。
サラナ曰く、ここは軍から1番近い役所であり、密猟者の目からは守ってくれる場所であるが、軍の人間の目も届きやすい場所なんだと。
周りにいる人間全員が軍関係者な気がする。
おそらく、サラナの手を離してしまったら私はすぐに捕まってしまうだろう。
「大丈夫、受理されたら視線も散るよ」
『だと良いんだけどね』
書類を職員に預け受理されるまでの時間が永遠に感じた。
勢いではあったが、早くも私は後悔の波が押し寄せていた。
役所を無事に出た私たちは、繁華街の飲み屋に来ていた。
「じゃ、乾杯」と本日2杯目のアルコールは乾いた喉にはとても効いた。
『でもどうするのこれから』
まさかあてもなく都市伝説を探すんだろうか。
サラナは少し黙った。
「ミシェルに行きたいんだ」
『異端者が集まる街じゃん』
「密猟者も多いって聞くからな、なにか情報があると思ってる」
密猟者、という単語で私はあのオークションの事をサラナに尋ねた。
「あのオークションを仕切ってたのは、密猟者の中でも有名なグループ」
『サラナも接触したことあるの?』
「酒の席で下っ端の女の子と話したかな」
『その女の子、タバコ吸ってた?』
深く切り込んだところでサラナは笑った。
「なに、友達でもできたの?」
『あー……違う。力が本物か試された』
その瞬間、サラナの表情が曇った。
「なにそれ」
『サラナが檻に来る少し前かな?タバコ腕に押し付けられちゃって』
みるみるうちにサラナは怒りの表現になっていく。それを少しでもフォローしようと、でもほら、綺麗だから………と続けようと腕を見せようとした途端、サラナは私の身体を引き寄せた。
「そんなのに慣れないで欲しい」
『サラナ………知ってるでしょ私が泣けば相手の思う壺だって』
「だから泣かなかったの?ずっと?」
ずっと、というのはいつから私の事を見ていたんだろう。
私はサラナから身を離すと、ニコッと笑った。
まだこの人も信用できないと、私はあの時感じた。
その想いを秘めたまま、列車に乗っていた。
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