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プロローグ
隠れて隠れてまた逃げて
しおりを挟むもうこの仕事も潮時かと思った。
いつもはこちらを見てはすぐ目を伏せる男性が今日はこちらに近づいてきた事から始まった。
「ルルちゃん……だよね?」
BARのカウンター越しに話しかけてきたこの男性を見るのは1週間連続である。
目線が胸元にきていて、いつも着ている服ではなく今日は清潔感を感じる。
私に気があるのは確かだった。
私は軽く微笑んではい、と頷いた。
出稼ぎ労働者が集まるこの街は、異端者でも受け入れてくれる。いくらでも代わりはいるから、昨日いたあの子も今日はいなくなったりする。
このBARも今週だけで女の子が2人来なくなった。
私は2人が稀な異端者だったのかどうかは興味がないが、仕事のシフトが増やされて内心ラッキーだと思ってる。
そして、次捕まるのは私かもしれないとどこかで焦りを感じていたりもする。
ある程度貯まったら私もこの街を離れよう。いくら出稼ぎ労働者の街でも軍の人間を見る事が多くなった。
目の前の男は、どうやら軍人ではないようだ。
『え、お医者さんなの?』私は男性の意外な職業に目を見開いた。ウソが本当か分からないけれどとりあえずの演技だ。
「といっても異端者専門」
私は背中に寒気が走ったのを感じた。
こう言って異端者に近付き、国に渡す協力金を貰うハンターもいることは知っているから。
『この街、異端者の方って多いですか?』
「そうだねぇ、みんな出稼ぎに来てるから」と肯定するような素振りを見せて酒を口にした。
男性は結局、閉店まで酒を楽しんだ。
あの後も会話をしたが、異端者については会話はしなかった。
帰り支度をしながら男は周りに視線を向けて近くに誰もいないことを確認すると、私に小声で囁いた。
「ルルちゃん、【涙の子】って知ってる?」
『涙の子って稀な異端者の事ですか?』
「そうそう、ハンターも軍人も密猟者までが狙ってる幻の異端者だよ、なんでもこの街にいるって噂があってね。ここにいると情報掴めるかなと思って」
よく喋る男だ。
この街にいるのも限界かもしれない。
『さぁ、知らないわ』
落ち着け、大丈夫。
何度も自分に言い聞かせた。
男を見送った後、店の片付け掃除をして、裏口から外に出た。
出稼ぎ労働者の街と言われてるのに、再開発の高層ビルがにょきっと顔を出していて、空がとても狭く感じた。
ああ、この街も仕事も気楽で好きだったのに、また逃げなきゃならないのか。
はぁ、とため息をついた瞬間、目の前が突然真っ暗になった。
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