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願い事ひとつだけ
しおりを挟むだが、何度も何度も参拝に来る姿に、私は重たい腰を上げることにした。
水口が現れて3ヶ月。
このままではいつまで経っても神様は辞められないからだ。
ただ、闇雲に来る女性の願い事は聞き入れたくないのは本音であるため、私はあの女性の願いを導いていこうと決めていた。
水口は【1番の参拝者】とだけ言っていた。私はあの女性に対して【予め1番に来るようにこちらから伝える】のは、違反ではない。
ただ、願いは改めてもらわなきゃならないし、伝える手段がまた課題となる。
どうする、人間の子どもに化けて話しかけるか?
警察に連れて行かれて終わる未来がうっすら感じ取れたので、子どもに化ける作戦は諦めた。
そんな私がたどり着いたのは、この神社の守り神とされていた白い猫だった。
最近まで白い猫がここに住み着いており、私ともよく遊んでくれていた。
この神社が有名になり御守りを販売するにあたって、人間は住み着いていた猫を参考に、御守りを作成した。参拝者の多くはその御守りを購入している。
この白い猫に化けるのはどうだ。
今でもその猫は、他のカラスや猫が出て行ったのにも関わらず、たまに参拝者がいない時間帯に神社に顔を出してくれる。
今やこの神社の顔と言っていい猫に化ける。どうだろうか、人の言葉を話す猫。不審がられるだろうか。
「いいじゃないか、やってみろよ」白い猫は腹をかきながら笑った。
『いいのか、姿を借りても』
「俺は1番お気に入りだった神社がこんなに有名になっちまって悲しいんだ」
勝手に猫に化ける訳にもいかないので、私は猫に相談したが、了承した猫に私は肩の力が抜けた。
「てめぇが神様辞めたら、この神社はまた静かになるんだろ?」
『お、おそらく………』
「まぁ人間は何としてもこの神社の人気は下げたくはないわな」
『すまん………』私は頭を下げた。
「いいさ、神様だって選ぶ権利はある」
てめぇと話せなくなるのは少し寂しいけどな、と猫はポツリと呟いた。
しばらくこの神社には来ないことを約束してくれた。
私は社務所にあった猫用のエサをありったけ猫に持たせて神社を出ていくネコを見送った。
こうして私は、白い猫に化け女性と接触することにした。
逃げられたら、不審がってもう二度とここには来ないだろう。
私が準備をしていたこの日々も女性は【子どもに戻りたい】と願い続けていた。
この願いをどう改めてもらうか。
伝え方は分からない。どんな人生を歩めば子どもに戻りたいと願うようになるのかその背景も知らなければならないが、
まずは接触しなければならない。
その上で、この女性の願いを叶えるかは決めようと私は思っていた。
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