8 / 36
第6話:そして眠りについた
しおりを挟む「んー....リュウジ...リュウジ...って...。」
目の前でベイルが何か考えている。殺るなら今しかない。俺は瞬時に距離を詰め、棒で殴りかかった。
「あー、今考えてるか...ら?」
リュウジの攻撃の衝撃を殺せずに、ベイルの体は後ろへ吹っ飛んでいった。これまでよりも力がみなぎっている。
(なんだ...?これ.....。
体が重い。とにかく重い。重いのに、動く。
動くんなら...今、やるべきは...お前、を、目の前の..お前を.....!)
「お前をおおぉぉぉぉぉ!!!」
リュウジは吹っ飛んだベイルの元へ行き、首に向かって棒を振りかざした。
が、しかし、それは素手で止められた。
「あんまり調子に乗らないで。」
ベイルは棒を掴み、リュウジと一緒に放り投げた。リュウジはかなりの高さに上がった後、綺麗な放物線を描き、地面に激突した。
「あーあ...結局殺しちゃった。リュウジって言ったらハセクラの息子だったっけ。」
ハセクラは、ベイルを監視するためにスラム暮らしをしている者だ。彼ははまずそいつが止めに来ると思っていた。まさか、その息子が来るなんて思いもしなかった。
ベイルは振り向き、後ろに隠れているカーネーションに話しかけた。
「カーちゃん、終わったから、範囲解除していいよ。」
「...いや、まだ終わってないわよ。」
「よくもまぁ、戦友の息子をこんだけ痛めつけられるよなぁ?」
その声がした場所を見ると、そこには気絶したリュウジを抱えた男が立っていた。
「ハセクラ.....。」
「ん?なんだぁ?ていうかリュウジもハセクラだぞぉ?俺はハセクラ・ケンだからなぁ?」
「...ケン、何の用?俺は王の命令でやったんだけど?」
「あー、別にお前を咎めに来た訳じゃないぞぉ?」
そう言って、ケンはリュウジをそっと下ろし、ベイルに近づいた。
「剣聖さんは大変だなぁ、こんなひどい仕事を任されるなんて。」
「金は貰えるからね。」
「だからといって自分の住んでる町を壊すなんて、ほんと頭おかしいなぁ。」
「なんだ、説教しに来たのか?」
「いんや、あいつを騎士団に入れようと思ってなぁ。」
ケンはリュウジを指さした。
「まさか、うちの息子が勇者になるなんて思わんかったから、なったんなら有効利用しないとねぇ。」
「息子を有効利用.....。それが親のやることか?」
「俺ん家は俺ん家、お前も我が子を奴隷商に売ってんじゃねぇか。」
「.......。」
彼は何も言い返せなかった。自分がどれだけ酷いことをしたのか分かっていたからだ。
しかし、それは必要なことなのだ。
考え込んでいたら、ケンが口を開いた。
「まぁいい、剣聖さんはまた奥さんと旅でもしとけ。俺はこいつを鍛えるから、こいつがお前の首を取るまでちゃんと生きとけよぉ?」
「...分かった。次会った時はちゃんと峰打ちで終わらせるてあげるよ。」
「ははっ、あんま舐めるなよぉ?」
そう言って、ケンはリュウジを担ぐとさっさとどこかへ消えてしまった。
「カーちゃん、範囲解除。」
やっと出番がやってきたと、カーネーションは張り切って術式を解除した。
「ついでに聞きたいんだけどさ、シェルターって何?」
彼女は杖を持ったまま固まった。
「俺、そんなの作れって言ってないよね?今回の任務はゴミ掃除なのに、そんなゴミが逃げ出せるようなもの作ったの?」
彼女は黙ったまま、首を横に振った。
「.....嘘じゃないみたいだね。まぁいいや、そのおかげでゴミの中に残ってた宝を見つけれたし。」
ベイルは剣を鞘に収めた。
「じゃ、ここからはまた旅だね。」
カーネーションはため息を着くと、先に歩み出したベイルの後ろについて歩き始めた。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
目が覚めたら、何故かしっかりとした天井があった。ベッドに寝ていた。トラッシュでの戦闘で負った傷がまだ癒えてないのか、体が軋む。
「目が覚めたか。」
声のした方を見る。そこには男がいた。
「俺はお前の父親だ。」
そう、男は言った。その瞬間、俺は男に飛びかかっていた。体が悲鳴を上げるがお構い無しだ。
「お前...本当に俺の父親なのか...?じゃあなんで母さんを助けなかった!!お前があいつを止めれたら...母さんはしななかったのに...。」
どれくらい寝ていたのかは知らないが、喉が枯れているのでまともに喋れない。ベッドの横のテーブルに水が置いてあったので、それを一気に飲んだ。
「いつか母さんから聞いたよ...。俺らがあそこに住んでるのはこの国を守るためだって...守れてねぇじゃん...何も...。」
犠牲になった自分の母、子供達の顔を思い浮かべると涙が込み上げてきた。
「なんなんだよ...お前...こんな時に始めて顔見せやがって...。母さんは最後に1回くらいお前の事、見たいって思ってたんじゃないかって...。国を守るとかの前に家族を守れよ!!!家族すら守れないお前は.....お前は...。」
気づくと、涙が頬を伝っていた。悪いのは父さんじゃない、ベイル達だ。
リュウジは復讐の炎に燃えていた。
「あのー...勝手に死んだことにしないでくれない...?」
声がした方を向くと、そこには母さんがいた。
「え?なんで...?」
父さんが俺を持ち上げてベッドに寝かせた。
「俺が助けた。子供達も無事だよ。」
「...え?」
「民間人を避難させてたんだ。だから遅くなった。」
もっとも、子供達は救出する前にどこかに隠れていたみたいだけど。と、彼は言った。
「よく、耐えてくれたな。」
その一言で、また涙が出てきた。
「ごめ、ごっごめんなさい.....父さん...。俺...父さんが何やってるかも知らずに.....。」
「家を空けてた父さんも悪い。さぁ、早く元気になれよぉ?」
そう言って、父さんは俺の頭を掴んでぐりぐりした。
「で、どうするの?私達の家がなくなったわけなんだけど...。」
「もうベイル達を監視する必要もないし、王都の家に戻るかぁ。」
そう言って、父さんと母さんは病室の出口に立った。
「じゃ、また元気になったら迎えに来る。」
そして、2人は出ていった。
少し賑やかだった病室は途端に静かになった。
リュウジは、1人である悩みを抱えていた。
(俺は王都に家があるらしいけど.....あいつらは...。それに、エンドとケイト、テレーゼ姉はこれからどうなる...?)
考えてもどうしようもないので、リュウジは彼らの顔を思い浮かべながら、そして眠りについた。
その答えを知る日は果てしなく遠かった。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
この2日間の戦闘での死者はいなかった。しかし、それが与えた影響は甚大であった。
まず、魔導国家ウェントルプの一角、トラッシュの町の完全崩壊。これにより、スラムの住民は国から出ることを余儀なくされた。難民はあらゆる国へ渡り、そして、そこで再びスラムを形成していった。
次に、これまでも問題視されてきた「剣聖」の戦力の強大さ。2日で、邪魔が入らなければ1日足らずで町を壊すことの出来る力、相方の「賢者」がしっかりと範囲を指定していたからだが、下手したら国すら一日で滅ぼしかねないその力を個人が持っているのはどうかということについて、国家間で議論された。その結果、剣聖の排除を望む国が6割、望まない国が3割、どちらでもいいという国が1割ということで、剣聖の排除を進めていくことになった。
最後に、「勇者」について。これはウェントルプ国王と剣聖、賢者、そしてウェントルプ魔導国家騎士団の団長のみが知っている事だが、その力はやがて剣聖を凌ぐと考えられているため、覚醒に気付かせない事を条件に、騎士団長の指揮下に置かれることになった。我が国で生まれたものは我が国の物だという国王の意見のみが採用された。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤ ✤
これまで凡人であった誰かが覚醒を遂げ、彼の「騎士になる」という夢を叶えた一方で、
「結局出れないまま...地下牢まで来ちゃった...。」
こちらはこちらで来るところまで来ていた。
現在は、ラーラード国の地下にある牢屋にて、奴隷オークションにかけられるのを待っているばかりだ。この牢屋には僕達3人だけがいるけれど、ほかの牢屋にもヒトがいるようだった。
「次のヒトのオークションは1ヶ月後だ。それまで元気にしてろよ?」
馬車の運転手はそう言って、僕達を牢屋にぶち込んだ。
彼は奴隷商だった。
「1ヶ月かぁ.....それまで何してる?出る?」
「妹ちゃんが起きなきゃどうしようもないんじゃない?」
ケイトは馬車からここに来るまでずっと寝ていた。何が彼女をそうさせているのかは分からない。
「なんでこんなに寝てるんだろ...。」
彼らは自分たちで状況を打破する術が無い。
獅子が起きるのを待つしかない。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
悪役令嬢の私は死にました
つくも茄子
ファンタジー
公爵家の娘である私は死にました。
何故か休学中で婚約者が浮気をし、「真実の愛」と宣い、浮気相手の男爵令嬢を私が虐めたと馬鹿げた事の言い放ち、学園祭の真っ最中に婚約破棄を発表したそうです。残念ながら私はその時、ちょうど息を引き取ったのですけれど……。その後の展開?さぁ、亡くなった私は知りません。
世間では悲劇の令嬢として死んだ公爵令嬢は「大聖女フラン」として数百年を生きる。
長生きの先輩、ゴールド枢機卿との出会い。
公爵令嬢だった頃の友人との再会。
いつの間にか家族は国を立ち上げ、公爵一家から国王一家へ。
可愛い姪っ子が私の二の舞になった挙句に同じように聖女の道を歩み始めるし、姪っ子は王女なのに聖女でいいの?と思っていたら次々と厄介事が……。
海千山千の枢機卿団に勇者召喚。
第二の人生も波瀾万丈に包まれていた。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる