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第6話:そして眠りについた

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「んー....リュウジ...リュウジ...って...。」

  目の前でベイルが何か考えている。殺るなら今しかない。俺は瞬時に距離を詰め、棒で殴りかかった。
「あー、今考えてるか...ら?」
リュウジの攻撃の衝撃を殺せずに、ベイルの体は後ろへ吹っ飛んでいった。これまでよりも力がみなぎっている。

(なんだ...?これ.....。
  体が重い。とにかく重い。重いのに、動く。
  動くんなら...今、やるべきは...お前、を、目の前の..お前を.....!)

「お前をおおぉぉぉぉぉ!!!」

  リュウジは吹っ飛んだベイルの元へ行き、首に向かって棒を振りかざした。
が、しかし、それは素手で止められた。

「あんまり調子に乗らないで。」

  ベイルは棒を掴み、リュウジと一緒に放り投げた。リュウジはかなりの高さに上がった後、綺麗な放物線を描き、地面に激突した。
「あーあ...結局殺しちゃった。リュウジって言ったらハセクラの息子だったっけ。」
  ハセクラは、ベイルを監視するためにスラム暮らしをしている者だ。彼ははまずそいつが止めに来ると思っていた。まさか、その息子が来るなんて思いもしなかった。
  ベイルは振り向き、後ろに隠れているカーネーションに話しかけた。
「カーちゃん、終わったから、範囲解除していいよ。」
「...いや、まだ終わってないわよ。」

「よくもまぁ、戦友の息子をこんだけ痛めつけられるよなぁ?」

  その声がした場所を見ると、そこには気絶したリュウジを抱えた男が立っていた。
「ハセクラ.....。」
「ん?なんだぁ?ていうかリュウジもハセクラだぞぉ?俺はハセクラ・ケンだからなぁ?」
「...ケン、何の用?俺は王の命令でやったんだけど?」
「あー、別にお前を咎めに来た訳じゃないぞぉ?」
そう言って、ケンはリュウジをそっと下ろし、ベイルに近づいた。
「剣聖さんは大変だなぁ、こんなひどい仕事を任されるなんて。」
「金は貰えるからね。」
「だからといって自分の住んでる町を壊すなんて、ほんと頭おかしいなぁ。」
「なんだ、説教しに来たのか?」
「いんや、あいつを騎士団に入れようと思ってなぁ。」
ケンはリュウジを指さした。
「まさか、うちの息子が勇者になるなんて思わんかったから、なったんなら有効利用しないとねぇ。」
「息子を有効利用.....。それが親のやることか?」
「俺ん家は俺ん家、お前も我が子を奴隷商に売ってんじゃねぇか。」
「.......。」
  彼は何も言い返せなかった。自分がどれだけ酷いことをしたのか分かっていたからだ。
  しかし、それは必要なことなのだ。
考え込んでいたら、ケンが口を開いた。
「まぁいい、剣聖さんはまた奥さんと旅でもしとけ。俺はこいつを鍛えるから、こいつがお前の首を取るまでちゃんと生きとけよぉ?」
「...分かった。次会った時はちゃんと峰打ちで終わらせるてあげるよ。」
「ははっ、あんま舐めるなよぉ?」
  そう言って、ケンはリュウジを担ぐとさっさとどこかへ消えてしまった。
「カーちゃん、範囲解除。」
  やっと出番がやってきたと、カーネーションは張り切って術式を解除した。

「ついでに聞きたいんだけどさ、シェルターって何?」

彼女は杖を持ったまま固まった。

「俺、そんなの作れって言ってないよね?今回の任務はゴミ掃除なのに、そんなゴミが逃げ出せるようなもの作ったの?」
  彼女は黙ったまま、首を横に振った。
「.....嘘じゃないみたいだね。まぁいいや、そのおかげでゴミの中に残ってた宝を見つけれたし。」
  ベイルは剣を鞘に収めた。
「じゃ、ここからはまた旅だね。」
 カーネーションはため息を着くと、先に歩み出したベイルの後ろについて歩き始めた。

     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤

  目が覚めたら、何故かしっかりとした天井があった。ベッドに寝ていた。トラッシュでの戦闘で負った傷がまだ癒えてないのか、体が軋む。
「目が覚めたか。」
声のした方を見る。そこには男がいた。
「俺はお前の父親だ。」
そう、男は言った。その瞬間、俺は男に飛びかかっていた。体が悲鳴を上げるがお構い無しだ。
「お前...本当に俺の父親なのか...?じゃあなんで母さんを助けなかった!!お前があいつを止めれたら...母さんはしななかったのに...。」
  どれくらい寝ていたのかは知らないが、喉が枯れているのでまともに喋れない。ベッドの横のテーブルに水が置いてあったので、それを一気に飲んだ。
「いつか母さんから聞いたよ...。俺らがあそこに住んでるのはこの国を守るためだって...守れてねぇじゃん...何も...。」
犠牲になった自分の母、子供達の顔を思い浮かべると涙が込み上げてきた。
「なんなんだよ...お前...こんな時に始めて顔見せやがって...。母さんは最後に1回くらいお前の事、見たいって思ってたんじゃないかって...。国を守るとかの前に家族を守れよ!!!家族すら守れないお前は.....お前は...。」
  気づくと、涙が頬を伝っていた。悪いのは父さんじゃない、ベイル達だ。
  リュウジは復讐の炎に燃えていた。

「あのー...勝手に死んだことにしないでくれない...?」

声がした方を向くと、そこには母さんがいた。
「え?なんで...?」
父さんが俺を持ち上げてベッドに寝かせた。
「俺が助けた。子供達も無事だよ。」
「...え?」
「民間人を避難させてたんだ。だから遅くなった。」
もっとも、子供達は救出する前にどこかに隠れていたみたいだけど。と、彼は言った。
「よく、耐えてくれたな。」
  その一言で、また涙が出てきた。
「ごめ、ごっごめんなさい.....父さん...。俺...父さんが何やってるかも知らずに.....。」
「家を空けてた父さんも悪い。さぁ、早く元気になれよぉ?」
そう言って、父さんは俺の頭を掴んでぐりぐりした。
「で、どうするの?私達の家がなくなったわけなんだけど...。」
「もうベイル達を監視する必要もないし、王都の家に戻るかぁ。」
そう言って、父さんと母さんは病室の出口に立った。
「じゃ、また元気になったら迎えに来る。」
  そして、2人は出ていった。
少し賑やかだった病室は途端に静かになった。
リュウジは、1人である悩みを抱えていた。
(俺は王都に家があるらしいけど.....あいつらは...。それに、エンドとケイト、テレーゼ姉はこれからどうなる...?)
  考えてもどうしようもないので、リュウジは彼らの顔を思い浮かべながら、そして眠りについた。

  その答えを知る日は果てしなく遠かった。

     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤

  この2日間の戦闘での死者はいなかった。しかし、それが与えた影響は甚大であった。
  まず、魔導国家ウェントルプの一角、トラッシュの町の完全崩壊。これにより、スラムの住民は国から出ることを余儀なくされた。難民はあらゆる国へ渡り、そして、そこで再びスラムを形成していった。
  次に、これまでも問題視されてきた「剣聖」の戦力の強大さ。2日で、邪魔が入らなければ1日足らずで町を壊すことの出来る力、相方の「賢者」がしっかりと範囲を指定していたからだが、下手したら国すら一日で滅ぼしかねないその力を個人が持っているのはどうかということについて、国家間で議論された。その結果、剣聖の排除を望む国が6割、望まない国が3割、どちらでもいいという国が1割ということで、剣聖の排除を進めていくことになった。
  最後に、「勇者」について。これはウェントルプ国王と剣聖、賢者、そしてウェントルプ魔導国家騎士団の団長のみが知っている事だが、その力はやがて剣聖を凌ぐと考えられているため、覚醒に気付かせない事を条件に、騎士団長の指揮下に置かれることになった。我が国で生まれたものは我が国の物だという国王の意見のみが採用された。

     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤     ✤

  これまで凡人であった誰かが覚醒を遂げ、彼の「騎士になる」という夢を叶えた一方で、
「結局出れないまま...地下牢まで来ちゃった...。」
  こちらはこちらで来るところまで来ていた。
現在は、ラーラード国の地下にある牢屋にて、奴隷オークションにかけられるのを待っているばかりだ。この牢屋には僕達3人だけがいるけれど、ほかの牢屋にもヒトがいるようだった。
「次のヒトのオークションは1ヶ月後だ。それまで元気にしてろよ?」
  馬車の運転手はそう言って、僕達を牢屋にぶち込んだ。
彼は奴隷商だった。
「1ヶ月かぁ.....それまで何してる?出る?」
「妹ちゃんが起きなきゃどうしようもないんじゃない?」
  ケイトは馬車からここに来るまでずっと寝ていた。何が彼女をそうさせているのかは分からない。
「なんでこんなに寝てるんだろ...。」
彼らは自分たちで状況を打破する術が無い。 

  獅子が起きるのを待つしかない。
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