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第一章 僕は僕ですが
第九話 進んで止まってそして巻き戻る―4
しおりを挟む「つい一週間前、私達はフェルノーデス村の先にあるボスヘリヲ村へ行軍していました。オーユリへの侵攻と、ついでに君の両親を探すために。」
「両親…」
もちろん僕は探してくれなんて言ってないし、探してほしいなんて思ってない。多分、オーニかルークの気遣いがあったのだろう。
「ボスヘリヲ村でも君と同じような境遇の子がいたよ。でも、ルークはその子のことはどうもしなかったわ。多分、彼の中で何か心境の変化があったんでしょうね。」
心当たりがある。僕は彼のことを否定した。
「多分、遠慮がちになってたのね。余計な世話をかけてしまわないように。君にしてしまった過ちを再び犯してしまわないように。」
彼女が僕に向かって歩いてきた。別に時が止められたわけではないだろうが、体がピクリとも動かせなかった。
彼女の手が僕の肩に乗った。
「結果として、彼は壊れたわ。」
「…え?」
彼女が僕の後ろに回り、両手を両肩に置いた。
「詳細は省くけれど、フェルノーデス村に建てた前哨基地へ帰還している最中に自殺したわ。」
「え…そんな…どうして?」
「詳細は省くっていったでしょう?今は時間が無いの。とりあえず、今から君は私の魔法を勉強してもらいますから。」
彼女が僕の肩をグッと押した。案外彼女の力は強く、僕は膝を曲げ、いつの間にか置かれていた椅子に座らされた。
「勉強って…それよりルークさんのことを――」
それまでは比較的穏やかだった彼女だったが、急に態度が豹変し、僕の言葉を遮った。
「いいから早く取り掛かりなさい!!話は後!!」
彼女は僕の膝の上に、どこからともなく取り出した分厚い本を置いた。僕は彼女の顔を見ようと思ったが、そんなことをしたらまた激昂されるだろうと思い、仕方なくその本に取り掛かった。
ただ少し、僕がこの部屋に入った時、彼女は少し悲しそうな表情をしていたことを記憶している。
■■■
辺りは雨が降っていた。草木が生い茂った森の中、ルーク率いるベールべニア国軍はオーユリ国のボスヘリヲ村へと行軍をしていた。確実に雨が降っているのだが、鎧を着た兵士たちの足音や鎧のぶつかるような音で雨音は全くと言っていい程聞こえなかった。
道中に、大きな山があった。重い鎧を着たまま上ることには抵抗があったが、山を越えた先にボスヘリヲ村があるというので、ルークらは登山をすることに決めた。
「皆の者!この山を越えた先に我らの目的地がある。皆、己を奮い立たせ、我が国の意地を見せよ!」
兵士たちは雄たけびのような歓声を上げた。そうでもしないともう力が出ないのだ。土がぬかるんで彼らの足を止めんとする。しかし、彼らはあきらめることなく歩みを進め、やがてボスヘリヲ村へと到達することができた。
「皆の者、よくぞここまで耐えきった。今より我らは侵略を行う。」
ルークは雨でぬれた髪を持ち上げ、オールバックにした。こうすることで、周囲を警戒しやすくなる。村の中腹まで歩いて行くと、民家の壁に寄りかかって座っている赤い髪をした少女がいた。顔の右側は青紫に腫れている。彼女に近寄り、顔を覗くと、左目が無くなっていた。
「……なんで…なんで彼女がこんな目に合わねばならないんだ…!」
ルークは明らかに憤っていた。拳を握りしめ、歯をかみしめ、目の前で力なく座り込んだ彼女を見下ろしていた。
「皆の者よ…今より我々の目的は侵略ではなくなった…。」
彼は兵士らに向き直った。
「これより行うは、この村の差別主義者どもの虐殺―――」
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