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第一章 僕は僕ですが
第五話 別れて出会ってそして始まる―5
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さて、あの廊下からオーニがいるとされる塔まで、どれくらいの時間がかかったのかというと、まぁ三時間ほどだった。行き当たりばったりに探したにしては案外早く見つかった。
「…本当に人がいるのかなぁ?」
第一声がそれだった。城から少しだけ離れた林の中にある塔。人の出入りがあった痕跡は確かにあるのだが、にしては清潔感に欠ける。何十年も前は立派な塔だったのかもしれないが、現在目の前にあるのは、苔むし、ひび割れた岩で組み立てられた、木の蔓が絡まった今にでも崩れそうな塔だ。到底、中に人がいるようには思えない。
とりあえず、入口のように思える穴に身をかがめて入った。
中には、石のレンガで作られたらせん状の階段がある。一歩踏み出すごとに崩れてしまわないかが心配だ。
しかし、そんな心配は杞憂で、何段足を踏み出しても塔が崩れることはなかった。
やがて、階段を上った先の天井に、木の扉のようなものがあった。僕はそれを開き、頭を扉の先に出した。
周囲は真っ暗で、何も見えなかった。塔の外観的に、頂上には窓が付いていたので、今が夜だとしても、ここまで暗いのはおかしいと思った。
とりあえず、僕は暗闇の中に入った。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「扉を閉めていただける?」
僕はその声の主がオーニだと推測し、その言うとおりにした。
扉を閉じた瞬間、暗かった空間がだんだんと明るくなってきた。床や壁、天井にきらきらとしたものがあり、それがまるで夜の空のように思えた。
夜空の中心で、椅子に座っている人物がいた。彼女がこちらを見ていることは分かるが、正確な顔や服装なんかは暗くてあまり分からない。
「よく来ましたね、ユウト君。待っていましたよ。」
落ち着いた大人の女性の声だ。耳に心地良い。
「待っていたという事は、僕がここに来ることが分かっていたんですか?」
「えぇ、私、城内を監視する魔法を使っておりまして、情報は全部筒抜けですのよ。」
うかつに悪口も言えない。言う相手がいないけど。
とりあえず、僕は今まで気になっていたことを質問することにした。
「オーニさん、一つ質問です。」
「えぇ、何でも言ってちょうだい。」
彼女は長い髪をかき上げた。
「僕はこれまで城内の方たちを観察していたんです。どうして女性がこんなに少ないのですか?」
料理人も、使用人も、側使えも、すべてが全て男性だった。王宮に来た時、僕が見ることができた女性は一人もいない―――一人を除いて。
単純に気になったのだ。どうしてここまで女性が少ないのか。
「そうね。あなたのもともといた国、オーユリってところなんだけど、その国のせいなのよ。」
彼女は話し始めた。
<オーユリという国はこの世界中で最も巨大な国家であり、その国の常識が他国の、この世界中の常識とされることが度々あった。
例えば、通貨などだ。通貨は基本的にオーユリで使われている”ゴールド”という単位を用いるようになった。
例えば、言語などだ。基本的に、現在の世界で使われている言語は、”ログナル語”という言語であり、オーユリが起源の言語だ。
他にも様々なオーユリによる決め事はあるが、ベールべニアの女性がいない理由に直結するものが、赤い髪の女性に対する考え方だ。
オーユリには、古来より言い伝えられている伝承がある――赤い髪の男性は勇ましき者となり、赤い髪の女性は魔を生むものとなるだろう――というものだ。髪が赤く染まるのは、母親の腹を突き破って生まれた際の血が影響しているとされ、生まれてくるものは生への渇望、貪欲さ、豪傑さがある者とされている。それが男性ならば武勇を上げ、やがて英雄となれるとされているが、それが女性ならば、英雄となった男を油断させ、殺し、人類に損害を与えるのではないかとされている。
その偏見のせいで、世界は赤い髪の女性を徹底的に殺しつくすことを義務化した。
そして、ベールべニアには赤い髪の女性が大勢いた。>
「あとは想像通り。ただの遺伝的性質っていうだけなのに、みんながこぞって殺し始めちゃったから、ベールべニアの女性がほとんどいなくなってしまったというわけ。いまでも、赤い髪の男性は勇ましき者――勇者となって、赤い髪の女性は魔を呼ぶもの――魔人となると言われているわ。これまで人類に大打撃を与えてきた魔王っていう存在が全員そろって女性っていうのもそう思われる理由な気がするわ。」
聞いてもいない情報をペラペラと口に出してくれた。しかし、彼女の話の内容が正しければ、僕の立場が危うくなってしまう。
顔は見えないが、彼女は少し残念そうにしていた。
「これだけなのかしら?君が私にしたい質問はこれだけ?これならルークさんにでも質問すればよかったんではなくて?」
「…いや、僕が本当にしたいのはそもそも質問じゃない。」
僕は心の準備をした。これを言う事で嫌われてしまうかもしれない。絶望や、失望をし、挙句の果てには殺されてしまうかもしれない。
だが、僕は彼女がそんなことをする人間でないと思っている。根拠はないが、そう信じている。だから、打ち明けた。
「オーニさん。僕、実は女なんです。」
「…………えッ?」
先ほどまでの落ち着いた調子の彼女はどこへやら、僕の告白を聞くと、間抜けな声を出して固まってしまった。
「…本当に人がいるのかなぁ?」
第一声がそれだった。城から少しだけ離れた林の中にある塔。人の出入りがあった痕跡は確かにあるのだが、にしては清潔感に欠ける。何十年も前は立派な塔だったのかもしれないが、現在目の前にあるのは、苔むし、ひび割れた岩で組み立てられた、木の蔓が絡まった今にでも崩れそうな塔だ。到底、中に人がいるようには思えない。
とりあえず、入口のように思える穴に身をかがめて入った。
中には、石のレンガで作られたらせん状の階段がある。一歩踏み出すごとに崩れてしまわないかが心配だ。
しかし、そんな心配は杞憂で、何段足を踏み出しても塔が崩れることはなかった。
やがて、階段を上った先の天井に、木の扉のようなものがあった。僕はそれを開き、頭を扉の先に出した。
周囲は真っ暗で、何も見えなかった。塔の外観的に、頂上には窓が付いていたので、今が夜だとしても、ここまで暗いのはおかしいと思った。
とりあえず、僕は暗闇の中に入った。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「扉を閉めていただける?」
僕はその声の主がオーニだと推測し、その言うとおりにした。
扉を閉じた瞬間、暗かった空間がだんだんと明るくなってきた。床や壁、天井にきらきらとしたものがあり、それがまるで夜の空のように思えた。
夜空の中心で、椅子に座っている人物がいた。彼女がこちらを見ていることは分かるが、正確な顔や服装なんかは暗くてあまり分からない。
「よく来ましたね、ユウト君。待っていましたよ。」
落ち着いた大人の女性の声だ。耳に心地良い。
「待っていたという事は、僕がここに来ることが分かっていたんですか?」
「えぇ、私、城内を監視する魔法を使っておりまして、情報は全部筒抜けですのよ。」
うかつに悪口も言えない。言う相手がいないけど。
とりあえず、僕は今まで気になっていたことを質問することにした。
「オーニさん、一つ質問です。」
「えぇ、何でも言ってちょうだい。」
彼女は長い髪をかき上げた。
「僕はこれまで城内の方たちを観察していたんです。どうして女性がこんなに少ないのですか?」
料理人も、使用人も、側使えも、すべてが全て男性だった。王宮に来た時、僕が見ることができた女性は一人もいない―――一人を除いて。
単純に気になったのだ。どうしてここまで女性が少ないのか。
「そうね。あなたのもともといた国、オーユリってところなんだけど、その国のせいなのよ。」
彼女は話し始めた。
<オーユリという国はこの世界中で最も巨大な国家であり、その国の常識が他国の、この世界中の常識とされることが度々あった。
例えば、通貨などだ。通貨は基本的にオーユリで使われている”ゴールド”という単位を用いるようになった。
例えば、言語などだ。基本的に、現在の世界で使われている言語は、”ログナル語”という言語であり、オーユリが起源の言語だ。
他にも様々なオーユリによる決め事はあるが、ベールべニアの女性がいない理由に直結するものが、赤い髪の女性に対する考え方だ。
オーユリには、古来より言い伝えられている伝承がある――赤い髪の男性は勇ましき者となり、赤い髪の女性は魔を生むものとなるだろう――というものだ。髪が赤く染まるのは、母親の腹を突き破って生まれた際の血が影響しているとされ、生まれてくるものは生への渇望、貪欲さ、豪傑さがある者とされている。それが男性ならば武勇を上げ、やがて英雄となれるとされているが、それが女性ならば、英雄となった男を油断させ、殺し、人類に損害を与えるのではないかとされている。
その偏見のせいで、世界は赤い髪の女性を徹底的に殺しつくすことを義務化した。
そして、ベールべニアには赤い髪の女性が大勢いた。>
「あとは想像通り。ただの遺伝的性質っていうだけなのに、みんながこぞって殺し始めちゃったから、ベールべニアの女性がほとんどいなくなってしまったというわけ。いまでも、赤い髪の男性は勇ましき者――勇者となって、赤い髪の女性は魔を呼ぶもの――魔人となると言われているわ。これまで人類に大打撃を与えてきた魔王っていう存在が全員そろって女性っていうのもそう思われる理由な気がするわ。」
聞いてもいない情報をペラペラと口に出してくれた。しかし、彼女の話の内容が正しければ、僕の立場が危うくなってしまう。
顔は見えないが、彼女は少し残念そうにしていた。
「これだけなのかしら?君が私にしたい質問はこれだけ?これならルークさんにでも質問すればよかったんではなくて?」
「…いや、僕が本当にしたいのはそもそも質問じゃない。」
僕は心の準備をした。これを言う事で嫌われてしまうかもしれない。絶望や、失望をし、挙句の果てには殺されてしまうかもしれない。
だが、僕は彼女がそんなことをする人間でないと思っている。根拠はないが、そう信じている。だから、打ち明けた。
「オーニさん。僕、実は女なんです。」
「…………えッ?」
先ほどまでの落ち着いた調子の彼女はどこへやら、僕の告白を聞くと、間抜けな声を出して固まってしまった。
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