上 下
5 / 17
第一章 僕は僕ですが

第五話 別れて出会ってそして始まる―5

しおりを挟む
 さて、あの廊下からオーニがいるとされる塔まで、どれくらいの時間がかかったのかというと、まぁ三時間ほどだった。行き当たりばったりに探したにしては案外早く見つかった。

「…本当に人がいるのかなぁ?」

 第一声がそれだった。城から少しだけ離れた林の中にある塔。人の出入りがあった痕跡は確かにあるのだが、にしては清潔感に欠ける。何十年も前は立派な塔だったのかもしれないが、現在目の前にあるのは、苔むし、ひび割れた岩で組み立てられた、木の蔓が絡まった今にでも崩れそうな塔だ。到底、中に人がいるようには思えない。
 とりあえず、入口のように思える穴に身をかがめて入った。
 中には、石のレンガで作られたらせん状の階段がある。一歩踏み出すごとに崩れてしまわないかが心配だ。
 しかし、そんな心配は杞憂で、何段足を踏み出しても塔が崩れることはなかった。
 やがて、階段を上った先の天井に、木の扉のようなものがあった。僕はそれを開き、頭を扉の先に出した。

 周囲は真っ暗で、何も見えなかった。塔の外観的に、頂上には窓が付いていたので、今が夜だとしても、ここまで暗いのはおかしいと思った。
 とりあえず、僕は暗闇の中に入った。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。

「扉を閉めていただける?」

 僕はその声の主がオーニだと推測し、その言うとおりにした。
 扉を閉じた瞬間、暗かった空間がだんだんと明るくなってきた。床や壁、天井にきらきらとしたものがあり、それがまるで夜の空のように思えた。
 夜空の中心で、椅子に座っている人物がいた。彼女がこちらを見ていることは分かるが、正確な顔や服装なんかは暗くてあまり分からない。

「よく来ましたね、ユウト君。待っていましたよ。」

 落ち着いた大人の女性の声だ。耳に心地良い。

「待っていたという事は、僕がここに来ることが分かっていたんですか?」

「えぇ、私、城内を監視する魔法を使っておりまして、情報は全部筒抜けですのよ。」

 うかつに悪口も言えない。言う相手がいないけど。
 とりあえず、僕は今まで気になっていたことを質問することにした。

「オーニさん、一つ質問です。」

「えぇ、何でも言ってちょうだい。」

 彼女は長い髪をかき上げた。

「僕はこれまで城内の方たちを観察していたんです。どうして女性がこんなに少ないのですか?」

 料理人も、使用人も、側使えも、すべてが全て男性だった。王宮に来た時、僕が見ることができた女性は一人もいない―――一人を除いて。
 単純に気になったのだ。どうしてここまで女性が少ないのか。

「そうね。あなたのもともといた国、オーユリってところなんだけど、その国のせいなのよ。」

 彼女は話し始めた。


<オーユリという国はこの世界中で最も巨大な国家であり、その国の常識が他国の、この世界中の常識とされることが度々あった。

 例えば、通貨などだ。通貨は基本的にオーユリで使われている”ゴールド”という単位を用いるようになった。

 例えば、言語などだ。基本的に、現在の世界で使われている言語は、”ログナル語”という言語であり、オーユリが起源の言語だ。

 他にも様々なオーユリによる決め事はあるが、ベールべニアの女性がいない理由に直結するものが、赤い髪の女性に対する考え方だ。

 オーユリには、古来より言い伝えられている伝承がある――赤い髪の男性は勇ましき者となり、赤い髪の女性は魔を生むものとなるだろう――というものだ。髪が赤く染まるのは、母親の腹を突き破って生まれた際の血が影響しているとされ、生まれてくるものは生への渇望、貪欲さ、豪傑さがある者とされている。それが男性ならば武勇を上げ、やがて英雄となれるとされているが、それが女性ならば、英雄となった男を油断させ、殺し、人類に損害を与えるのではないかとされている。

 その偏見のせいで、世界は赤い髪の女性を徹底的に殺しつくすことを義務化した。

 そして、ベールべニアには赤い髪の女性が大勢いた。>



「あとは想像通り。ただの遺伝的性質っていうだけなのに、みんながこぞって殺し始めちゃったから、ベールべニアの女性がほとんどいなくなってしまったというわけ。いまでも、赤い髪の男性は勇ましき者――勇者となって、赤い髪の女性は魔を呼ぶもの――魔人となると言われているわ。これまで人類に大打撃を与えてきた魔王っていう存在が全員そろって女性っていうのもそう思われる理由な気がするわ。」

 聞いてもいない情報をペラペラと口に出してくれた。しかし、彼女の話の内容が正しければ、僕の立場が危うくなってしまう。
 顔は見えないが、彼女は少し残念そうにしていた。

「これだけなのかしら?君が私にしたい質問はこれだけ?これならルークさんにでも質問すればよかったんではなくて?」

「…いや、僕が本当にしたいのはそもそも質問じゃない。」

 僕は心の準備をした。これを言う事で嫌われてしまうかもしれない。絶望や、失望をし、挙句の果てには殺されてしまうかもしれない。
 だが、僕は彼女がそんなことをする人間でないと思っている。根拠はないが、そう信じている。だから、打ち明けた。

「オーニさん。僕、実は女なんです。」

「…………えッ?」

 先ほどまでの落ち着いた調子の彼女はどこへやら、僕の告白を聞くと、間抜けな声を出して固まってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...