上 下
2 / 17
第一章 僕は僕ですが

第二話 別れて出会ってそして始まる―2

しおりを挟む
 その後、僕は普通に家に帰されたが、どうやらミズの方は何かをやらかしたらしく、村長の家に連れてかれていった。

 明けて翌日、僕は農作業も鍛錬も何もしたくないので、いつも通り風車が見える丘の木の下でのんびり過ごしていた。
 そこに、いつも通りミズがやって来た。昨日と同じく笑顔だが、少し元気がないように見える。

「どうしたの?」

 僕は聞いた。彼女は、少しだけ何かを言うのをためらっているみたいだった。彼女は僕と目を合わせようとしない。

「なんで何も言わないの?体調悪い?」

「………」

「しゃべれなくなったの?」

「そういうわけじゃないんだけど…」

 彼女はやっと口を開いた。その瞬間、彼女と目が合った。彼女の目は深い海の色をしていた。

「…うん、私達にはやっぱり、そういうの似合わないよね。」

「…え?何が?」

 彼女の瞳に明るさが戻ってきた。

「ううん。なんでもない。」

「え?」

「何でもないよ。」

 意味が分からなかった。彼女以外には誰も分からないだろう。自分の中で思考を完結されると困るのはこっちなのに。

「じゃあ、分かった。そのことは言わなくていいよ。かわりに一つ教えてほしいんだけど…」

「…何?」

「どうして昨日追われてたの?」

「ユウトが言ってた”そのこと”が理由だから、まだ言えないよ。」

 彼女は含みを持たせて言った。そして、彼女は振り返り、村へと歩き出した。
 僕は、丘の上の大樹の下に一人、ポツンと取り残された。それはいつも通りなのだけど、なんだかとても寂しさがこみあげてきた。
 これから本当に一人になってしまうのだと、そんな気がした。
 僕のそんな予想は的中し、数日後に彼女はこの村から姿を消した。


 これまで当たり前だった存在がいなくなると、とてつもない寂しさがこみあげてくる。二年前に家で飼っていた魔獣が死んでしまった時も、強烈な寂しさというものが僕に襲い掛かってきた。ちなみに、魔獣というのはイノシシや鹿などの獣とは違い、腕や足、臓器の全てが魔術という術理によって構成されている生き物のことを言う。魔術に関しては僕もよく知らない。大気中に存在する魔素という物質に何かしらの方向性を持たせて力―――魔力にし、それを利用して何かしらの変化を起こす行為が魔法、魔素という物質をそのまま利用し、何かしらの変化を起こすのが魔術らしい。正直違いが分からないが、僕は生涯において魔法や魔術を使う事が無いと思うので、あまり気にしなくてもいい。
 さて、僕は彼女のことを妹のようだと思っていたので、かつて魔獣を亡くした時とは比にならないほど悲嘆に暮れていた。
何をしていたのかといえば、自分の部屋でふさぎ込んでしまっていた。心配した両親が時折部屋の扉をノックするが、僕はそれを無視し続けた。
 部屋に一つしかない窓から薄いカーテン越しに差す光のみに、僕の部屋は照らされていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...