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第一章 僕は僕ですが
第一話 別れて出会ってそして始まる―1
しおりを挟む涼しい空気が頬を撫でた。遥か遠くの丘の上に見える風車は今日も回り続けている。風車のある丘の麓には、十数棟の家屋が点々としている。
村を囲んでいる丘の内、巨大な木が生えている丘の木陰で僕は村を眺めていた。今日も村人達は農作業をしたり酪農をしたりと、各々がやらなければならない作業に精を出している。
僕のいる丘に向かって駆け上がってくる少女の姿が見えた。彼女は腰のあたりまで生えた金髪を揺らしながら、僕に向かって手を振り、笑いながら走ってきた。
僕はこの後にされることが分かっていたが、避けることなどはしなかった。
「どーーーん!!」
その彼女の声と同時に、僕は腹部に強烈な衝撃を感じた。彼女が僕に向かって突進してきたのだ。
「うっ……」
突進された勢いで後ろに飛ばされたことにより、僕は地面に後頭部を打ち付けた。幸い芝生なので、そこまで痛くはなかった。
僕に馬乗りしている彼女は依然として笑っていた。
「ユウト!元気?」
「さっきまではね…」
悪態をつきながら、僕は弱弱しく立ち上がった。生まれたての鹿のように足がプルプル震えていた。
立ち上がると同時に、僕は彼女の顔を見た。村生まれにしては整った顔立ちで、鼻が高く、小顔。少しはねているところがあるが、サラサラで光り輝く金髪。南国の海の浅瀬のように透き通った青い瞳などの様々な要素から、僕は彼女が高貴な身分なのではないのかと思っているが、実際のところ、僕は三歳の頃に彼女が生まれる瞬間を目撃しているので、そのようなことはあり得ない。
「なに?私の顔に何かついてる?」
あまりに見すぎたために、彼女は自分の顔をペタペタ触りながらそんなことを口走った。
「別に。特に意味もなく顔見てただけだし。気にしないでよ。」
「すごい気になるんだけど。」
これ以上詮索されるのは僕のプライド的に少し嫌だったので、話を逸らすことにした。
「そういえば、鑑定の結果はどうだったの?」
「うーん…なんかよくわかんなかった。身体能力は一般的な十歳らしいけど。」
鑑定というのは、僕の住んでいる村「フェルノーデス村」がある国「オーユリ」の国民が十歳になったら必ず受けなければならない儀式である。鑑定では身体能力を測ることができ、他にも様々な情報を開示することができるのだとか。ちなみに、その”様々な情報”とやらは僕達には共有されないのだけど。
僕も三年前に鑑定をしたが、身体能力が平均より少し高かった事しか明かされなかった。
「ま、別にいいんじゃない?あからさまに勇者様とか英雄様みたいな特別な何かを持ってたり、逆に魔王とか災厄達みたいな他人に危害をもたらすようなものを持ってたりするわけじゃないんだから。」
「そんな普通で何がいいの?」
彼女は僕に問いかけた。
「…誰にも邪魔されずにティータイムが過ごせる。」
彼女は僕の発言に呆れたようだった。
「ティータイムなんて、村人ごときにできると思ってるの?」
「お茶を飲むだけじゃないの?」
彼女は大きくため息をつき、今度ははっきり見てわかるように呆れて見せた。
「あのね、本格的なティータイムには茶菓子が欠かせないの。それに、美麗な食器も。ティータイムって言うのはただお茶を飲む時間じゃないの。なめないで?」
「別にミズのことをなめてるわけじゃないからね?そんな怒らないで。」
「そんなんわかってるし。」
彼女はふてくされて、丘を降り始めた。が、数歩歩くと、彼女は何かを思い出したかのように踵を返し、僕の方に向かってきた。
「え、どうしたの?」
「思い出したの。」
「何を?」
「私、追われてた。」
意味の分からない彼女の言葉を理解するより早く、丘の麓にいる一人の農夫がこちらに気づき、声を上げた。
「いたぞ!こっちだ!ユウトと一緒だ!」
その大声が村中に響き、大勢の村人が一斉にこちらに向かって走ってきた。
「え!?なに!?これなに!?」
「説明してる暇はないわ。急ぎましょう。」
「何ちょっとクールキャラ演じてんのよ。まぁ、ここから無事に逃げれたら教えてよね!」
僕たちは同時に走り出した―――――その一分後くらいに捕まった。
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