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第一章 僕は僕ですが
第六話 完全な時空間跳躍
しおりを挟むあの国から僕の村へはそこまで遠いものではなかった。しかし、何せ馬に乗って通れない森を抜けた先にあるので、移動が徒歩でとてつもなく長く感じた。
昼頃に出発し、夕方に到着した。
懐かしい景色――はなかった。村があった場所には何やら基地のようなものが建てられており、実家なんてものは元から存在しなかったかのようにきれいさっぱり無くなっていた。
唯一僕の見覚えがあるのはあの丘の上に生えた巨木のみだった。
「さ、」
ルークが僕の背中を押した。
「やり残したことがあるんだろう?僕たちは邪魔になってしまうと思うからね、やってきていいよ。」
振り返ると、彼と彼の後ろにいる数人の鎧を着た兵士たちが僕のことを優しい目で眺めていた。正直に言えば、もうすでに要件は終わっているのだけど、僕は彼らの厚意を無下にするような輩ではない。
「では、行ってきます。」
僕はそう言い、瑞々しい緑の広がる丘を目指し、歩き出した。
「…くっ…これが…子離れか…」
ルークが目をこすりながらつぶやいた。続けて、少し厳つい顔をした兵士がつぶやいた。
「うぅ…あいつ、元気にやってるかなぁ…」
「元気に決まってんだろ、絶対。」
厳つい顔の兵士の背中を叩きながら、顔に斜め傷がある兵士が答えた。
彼は、首から下げたブローチを開き、中に入っている彼の家族の写真を眺めた。
「…はぁ、この侵攻が終わったら故郷に一旦帰るとするかね…」
「……グスッ…きょ、許可しよう…」
後ろでおじさんたちが何やら郷愁に浸っているのを知らず、ユウトはさっさと丘を登った。
ここでの目的というのは、僕の村が無くなっているかどうかの確認だった。僕の村を実際滅ぼしたのはオーニであるので、僕の村が完全になくなっているのならば、ここにオーニがいたのだという証拠になる。
そして、僕の村は完全になくなっていた。つまりオーニはいたのだ。
それだけわかれば、僕の仮説は成立する。それは、「時を戻したという行為も、この時空間上に含まれている」という物だ。
簡単に説明すると、今手元に一本の紐があるとしよう。それを時間として例えるが、では現在地に赤いしるしをつけ、戻る位置に青いしるしをつけて考えてみる。”時を戻す”というと、赤いしるしの位置から青いしるしの位置へと戻り、赤と青の間にあった出来事が全てなかったことにされると考えられるが、それは間違いで、どこからともなく元の紐とほとんど同じような紐が現れ、赤いしるしの部分へと結合される。
この場合、時空間というのは様々な紐が結合し、結果としてできた一本の紐のことを言っている。オーニの長距離時空間跳躍移動は、紐を結合する行為であり、タイムリープを可能にしているわけではない。
そこまでつかめたのなら、僕がすべきことはもうはっきりした。その紐を青いしるしの位置までほどくことだ。
僕は、大木の根元から前哨基地を見下ろしていた。様々な人々が基地へ出入りしている。おそらく、各々が各々やらなければならない作業に精を出しているのだろう。
「……さぁ、僕もやることをやりますか。」
僕はつぶやき、振り返った。その行為に何か意味があったのかといわれると、まぁ全くないのだが、しかし結果としてとある成果を獲得することができた。
「…?なんだこれ?」
巨木の窪みに白い何かが挟まっていた。僕はそれを訝しみ、窪みに手を突っ込み手に取ってみると、それは誰かが僕へ宛てた手紙だった。
僕は心の中にあるほんの少しの興味でそれを読んでみた。
「―――ユウトへ。
あなたがこの手紙を読んでいるという事は、私はもう、この村にいないでしょう―――」
どこかで見たような切り口の手紙だ。そして、このノリはおそらく―――
「―――ここから無事に逃げれたら私が追われていた理由を教える、みたいなことを言ってたけど、実際は逃げるというより送り出された感じなの、それも強制的に―――」
―――ミズだ。なぜ今頃になって見つかったのだろう…僕があの時引きこもってしまったからか。だから見つけるのがこんなに遅くなってしまった。彼女は僕がいつもいる場所に、故意的にこの手紙を配置した。普通なら見るだろうが、僕は結局、今ここに来るまではルークによって保護されていたがために見ることができなかった。
「―――そうなったのには理由があるの。まず、これは私の”鑑定”結果が影響してくるのだけど、私、どうやら”王の素質”というものを持っていたらしいの。私たちのいる国、オーユリは基本的にそれを持つ人たちしか王様になれない。それはつまり、それを持っているのなら、王様になれる資格があるってことなの―――」
僕は、彼女が王になった国を想像してみた。………正直不安しかない。
「―――だから、私はちょっと王様になってくるから。それまで、元気でね。ミズーーー」
ここで手紙はちょうど終わっている。
突拍子もない内容で、驚く暇もなかった。彼女が考えた夢物語でもないだろうし、明確に現実という事が分かるが、しかし、僕にとっては急展開過ぎて受け入れがたかった。
「…なんだよそれ。ちょっと王様になってくるって…そんな軽いノリでなれるものじゃないだろ…」
時空間上での少し前、僕はルークとミズを天秤にかけたことを思い出した。
「………」
続いて、僕はミズとオーニを天秤にかけてみた。
「………」
天秤は、すべて等しく―――――――――
「―――時、時間はすなわち、絶対不変のこの世の理である……」
僕は静かに詠唱を始めた。周りの空気が奮い立ち、叫び声を上げているような感じがした。
「…しかし、只今より、その理を超越する…運命のひもは、いま、解かれり…!!!」
感情が高ぶる。もう僕の耳には誰の声も届いてこない。
これまで体験してきた事象がまるで走馬灯のように頭の中に流れた。
僕は目を見開き、最後の詠唱をした。
「完全な時空間走行―――」
――――――傾いた。
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