クズとセフレ

にじいろ♪

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運命

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タケルは言い訳だと思ってるんだろうけど、僕はこれから本当に用事があるんだ。
大切な。
ナオトに、別れようって言う。
我ながら最低だ。
正直、もうタケルともナオトとも完全に切ってしまいたい。

でも、ナオトは僕が初めて付き合った相手で。
なんて言おうか悩んで昨夜は眠れなかった。
そんな、ぼんやりした頭と重たい身体を引きずって約束のタケルの教室へ向かう。
ここに頻繁に通ってた頃もあったな、と懐かしい思いにかられながら教室の後ろから入る。
と、誰もいなかった。
タケル以外。

シン、と静まり返った教室。
え?まだ帰りのチャイム鳴ってから10分くらいしか経ってないけど?
このクラスって、こんなに皆、直帰なの?
僕のクラスには、まだ半分以上残って喋ってる生徒がいたけど…

「待ってた」

タケルが僕を手招きして呼ぶ。
仕方なくタケルの元へ近寄る。
あんまり寄りたくないんだよね、恐くて。 
巨人戦争の記憶では、タケルは大魔王だった。

「ほら、これ」

タケルがカバンから出したのは、かわいくラッピングされた小さな包みだった。
タケルがこれを持って来るって、それだけで面白いし、かわいい。
仏頂面の本人には言えないけど。

「あ、ありがとう」

僕はこわごわ、包みを受け取る。
これでタケルの用事は終わった、と。

「俺の話を聞け」

そのまま僕の手首が捕まった。
あー、やっぱり?

「僕、本当にこれから用事あるんだよ。忙しいから、また明日にしてくれない?」

ナオトが校門に来ている。
あんまり遅いと心配させるし、これから話す内容を考えても出来るだけ待たせたくない。

「・・・ナオトか?」

僕は俯いて頷く。
ホントの事だから。
ギリっと強く手首を握られて思わず声が出る。

「──いっ」

僕が痛みに顔を歪めると少しだけ力が緩む。
やっぱり離してはくれないけど。

「悪い」

そう言うのに全然悪いと思ってない顔してる。
俺様だな、ほんと。
なんでこんな奴のこと好きになったんだか。

「話あるなら、さっさと言って?時間無いし」

僕が少しイライラしながら言うと、タケルもムッとした表情になる。

「ほんっと、かわいくねーよな、お前。ナオトの前でだけ良い子ぶってヘラヘラしやがって」

「はあ?なにそれ?そんなのタケルに関係ある?僕たち、明日には卒業で二度と会うことも無いんだから、もう、つっかかって来ないでくれる?!」

タケルが急に泣きそうな顔になったように見えたが、すぐに表情は元に戻る。

「あー、やっと解放されるわー、この淫乱バカに。お前のせいで、俺は病気持ち扱いされて女が寄り付かなくなったんだぞ?ほんっと最低だわ、お前。俺の青春返せよ」

珍しく長く喋ったけど、やっぱり最低だコイツ。
頭の中は常にヤルことだけ。

「知らないよ、そんなの。自分で撒いた種でしょ?だいたい他の子の方が病気持ってそうだったじゃん。まあ、これからは、あんまり生でヤんない方が身のためじゃない?知らないけど。じゃあ、あとは大学で頑張って。タケルならモテるからヤりたい放題でしょ。良かったね」

そう言って手を振り払おうとしても全然離れない。
力いっぱい振り回しても僕の手首が痛いだけで全然ダメ。

「なんなの?ちょっと、離してってば」

タケルの目が潤んでいる。
は?ドライアイ?

「────んで、んな事ばっか言うんだよっ!」

僕は抱き締められてた。
苦しい位の力で。
タケルに。
え?タケルに?

「───っくそっ、くそっ」

タケルの肩が震えてる。
力は強いのに僕の制服を掴む手まで震えてるのが分かる。

「ーっ、タケル?どうしたの?」

「なんでだよ、くそっ!くそっ!俺だって、俺だってっ…ぐすっ」

タケルが泣いてるのが分かった。
こんなに大きな身体なのに、震えて僕にしがみついて泣いてる。
なぜだか、僕の心は急に静かになって凪いでいた。
こんなに穏やかで何も考えない時なんて無かったくらいだ。
不思議な感覚。
真っ白で水平なところに立ってるみたい。

「・・・タケルにとって、僕はなに?」

勝手に口が動く。
とりあえずタケルの頭を撫でてやる。
しばらく撫でていると落ち着いて来たようで力も少し緩む。

「…運命」

僕の心は真っ直ぐに貫かれた。


僕のスマホが揺れる。
ナオトだ。
校門で待ってるってメッセージを確認する。

僕、二人ともにちゃんと話さなきゃ。

タケルは、ナオトからのメッセージに気付いたのか、また僕を抱き締める力が強くなる。
僕、このままだと圧死するよ?
そろそろ内臓飛び出ますけど?

「タケル。僕ね、これからナオトにサヨナラしてくるんだ」

タケルの震えが少しだけ治まって身体を離して僕の顔をまじまじと見つめる。

「え、ナオトと…別れるのか?」

「・・・うん。だから全部終わったら、ゆっくり話そう?お母さんに、クッキーありがとうございますって伝えておいて。僕、タケルのお母さんのクッキー大好きだから」

自然と笑えた。
というか、笑ってた。
なんでだろう、あんなにずっと素直になれなかったのに。
タケルもポカンとしてる。

「じゃあ、僕行くね?タケルも早く帰らないと『親が心配するよ』」

そう言って笑いながら、力の抜けたタケルの腕からスルリと抜け出して教室の出口へ向かう。

「後で連絡するから」

ごく自然に満面の笑みになってたと思う。
タケルが、へたりと床に尻もちをついた。
それが面白くて更に笑う。
僕は、ヒラヒラと手を振って教室を後にした。


「ナオト!」

やっぱり校門でナオトは待っていた。
僕を見ると嬉しそうに笑って手を振っている。
かわいい。
とてつもなくかわいい。
それなのに僕は

「ナオトっ、あのね、ぼくっぼくねっ───」

泣きだしてしまった。
我ながら最低だ。
涙と鼻水を垂れ流す僕をナオトは抱きしめて背中を撫でてくれる。
こんなに優しいナオトに僕は酷いことを言うんだ。

「ひいっく、ううっ、、ごめ、ナオ、、、ぼくっ」

どうしても上手く声が出ないのをナオトが僕の髪を優しく撫でながら待ってくれている。
こんな優しい人と付き合えるなんて絶対幸せなのに。それなのに、僕は…

「・・・わかってた」

ナオトが、ぽつりと呟いた。

「ごめんな、ヒロキに辛い思いさせて。俺、どうしてもヒロキと付き合いたかった。でも、こんな思いさせたかった訳じゃない。ただ、ヒロキを笑顔にしたかっただけなんだ」

僕の頬に軽いキスをして涙を舐められる。

「でも、今の俺じゃダメなのも知ってた。ヒロキが誰の事が好きなのかも。これからゆっくり二人で過ごすうちに俺の事を見てくれるようになるといいと思ってたけど・・・ほんと無理させたな、ごめん」

優しい。
やっぱりナオトは優しい。
僕は首をぶんぶん振って謝る。

「わるいのっ、ぼくっ、だからあっ、ナオト、、わるく、ないっ、、ごめ」

僕の唇が塞がれた。
ナオトにキスされてる。
優しくて、きっとすごく上手だと思う。
思うのに、ほんとに僕、ナオトには何も感じないんだと頭の奥で冷静な僕が呟いた。

「お互い謝るのは、もう終わりにしよ。今回は諦めるけど、もし次に俺のところに来たら絶対離さないから」

至近距離で笑うナオトは、やっぱりかっこよかった。



『全部終わったよ』

帰り道をトボトホ歩きながら、タケルにLIN○する。
泣き腫らした目は重いけど、胸は不思議とスッキリとして晴れやかだった。

『今どこ』

帰って来たメッセージは3文字。
?くらい使えよ。
そういうところだよ、お前は。

『家に帰ってる』

『会いたい』

胸が急にズキューンと撃ち抜かれて立ち止まる。
え?これ、本当にタケル?
タケルが僕に会いたい?
嘘だろ?と何度も画面を見詰めていると通話の着信。
タップすると、確かにタケルの声。

『どこらへんにいる?今からそっち行く』

『え?でも、もう少しで僕の家に着くよ。明日でも会えるじゃん』

『じゃあ、お前んち行く』

ブチっと通話は途切れた。
とりあえず、家の近くの公園で待つ。
公園の場所は送っておいた。

しばらく待ってると来た。
本当に、あのタケルが来た。
走ってるタケルなんて体育以外で見るの初めてなんだけど。

「────っはあっ、はぁっ、見つけたっ」

いや、いるよ?だから、ここに居るってLIN○したし。

「うん、お疲れ様」

僕は、また自然に笑ってると思う。
なんだか勝手に笑っちゃうんだ。
タケルは、また僕を穴が空くほど見詰めて抱き締めてくる。
あぁ、タケルの匂いがする。

「────っはあっ・・・好きだ。俺と付き合え」

ピシーンと背中が伸びる。
僕は嬉しいのか、なんなのか自分の感情がよく分からなかった。
だって、一度はもう完全にタケルを諦めてたから。

「タケル、聞いて?」

少しだけ力を入れて胸を押し返すと、タケルは僕から少し身体を離す。

「僕達、これから大学に行くでしょ?」

タケルは、よく分からない顔をしながら頷く。

「そしたらさ、いろんな人と出会うじゃん?今まで周りに居なかったような人もたくさんいると思うんだ。そしたらさ」

タケルの目をしっかり見る。

「本当の運命の人が、そこに居るかもしれないじゃない?」

タケルの表情が固まる。
百面相?

「だからさ、大学に行って、たくさんの人と会って、それでもまだ僕と一緒に居たいと思ったら迎えに来てくれる?」

「な、んだよ、それ」

タケルがヨロヨロしてる。
近くの手すりに掴まってようやく立ってる。

「期限は入学してから1ヶ月。それまでに運命の人が見つかったら、お互いのことは忘れて、その人と幸せになろう」

「俺はっお前のことが」

タケルに軽いキスをする。
タケルの唇は柔らかいけど、ちょっとカサカサしてた。
走って来たから汗ばんでるし。
でも、僕の胸はドキドキしてる。
きっと頬も赤い。

「その気持ちが変わらなかったら迎えに来て」

僕は、笑顔で手を振って公園から去った。
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